昨年は、6月の英国民投票でのブレグジット(英国のEU離脱)決定や11月の米大統領選挙でのトランプ勝利など、ショッキングなイベントが印象に残った。今年はそこまで大きな「事件」はないものの、国際情勢は一段と不安定さを増しているようにもみえる。

まず取り上げるべきは、北朝鮮問題だろう。北朝鮮と米国による「口撃」の応酬はエスカレートする一方だ。そうした状況が日常茶飯事となって、市場はいちいち反応しなくなるのだろうか。ただ、全面的な解決の見通しは立たず、小さなアクシデントが両国の全面対決に発展する可能性も完全には否定できない。

取りあえずの重要日程は、北朝鮮労働党の創建日にあたる10月10日、この日は日本の衆院選の公示日でもある。そして、5年に一度の中国共産党大会が開催される10月18日からの約1週間だ。今年に入って、北朝鮮が中国の重要イベントのタイミングで示威行動を起こしてきたのは、あながち偶然ではないだろう。

欧米で昨年広がったポピュリズムの流れは、今年3月のオランダ総選挙での自由党の敗北や、4-5月のフランス大統領選挙でのルペン国民戦線党首の敗北を経て、やや下火になったようにもみえた。

しかし、9月23日のドイツ総選挙では、ユーロ離脱・移民排斥を唱えるAfD(ドイツのための選択肢)が第3党に滑り込み、極右政党として初めてドイツ連邦議会で議席を獲得するに至った。メルケル首相のCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)は第1党を維持したものの、得票率は1949年以来の最低を記録。「大連立」の相手だったSPD(社会民主党)も議席を大幅に減らした。

SPDが「大連立」を解消して下野する意向を表明しているため、メルケル首相は企業寄りのFDP(自由民主党)や環境主義の緑の党との連立を目指すことになりそうだ。CDU/CSUのイメージカラーが「黒」、FDPが「黄」、緑の党が「緑」であることから3党の連立は「ジャマイカ」と呼ばれる。これら3党は、政治スペクトラムにおける立ち位置が大きく異なり、国政レベルで連立を組んだことはない。そのため、連立政権が成立しても、メルケル首相は難しい政権運営を迫られそうだ。

イタリアでは、来春までに総選挙が実施される。ポピュリズム政党である「五つ星運動」が、若い党首が誕生したこともあって、最近のいくつかの世論調査で最高支持率を獲得している。総選挙の接近に伴い、「五つ星運動」が台風の目になるかもしれない。

スペインでは、10月1日にカタルーニャ自治州政府が「独立を問う住民投票」を予定している(本稿執筆段階では結果不明)。スペインの憲法裁判所が投票は法的に無効との判断を下しているものの、それは欧州政治のかく乱要因となりかねない。

他方、英国とEUとの離脱交渉が難航している。9月22日、英国のメイ首相はフィレンツェで離脱方針に関する演説を行った。そこで、メイ首相は懸案の拠出金について支払いに応じる姿勢を示し、離脱後の2年間の移行期間設定を提案した。

EU側は拠出金支払いの意向を評価しつつも、具体的な金額など詳細が決まっていないことから、離脱後の協定についての交渉には依然として後ろ向きだ。メイ首相の演説が交渉進展の起爆剤となるのか注目されるところだ。

ドイツとほぼ同じタイミングで、ニュージーランド(NZ)でも総選挙が実施された。与党第1党が最多得票となったものの、過半数の議席を確保できず、新たな連立を模索するとの結果もドイツとほぼ同じだった。

もっとも、NZでは、第3党となったNZファースト党がキャスティングボートを握っている。条件次第では、NZファースト党が労働党などと手を組んで連立政権を樹立する可能性もある。その場合は、移民制限やTPP(環太平洋経済連携協定)への反対などが強く打ち出されよう。

地政学リスクという点では、朝鮮半島に目を奪われがちだが、クルド人やイランなどの中東情勢も要注意だ。

9月25日、イラク北部のクルド自治政府が独立の是非を問う住民投票を敢行した。圧倒的多数が賛成した模様だ。もっとも、イラク政府は交渉に応じない意向のようだが、クルド人問題がシリアやトルコに波紋を広げる可能性もあり、新たな火種となりかねない。

他方、イランが核開発を自制し、その見返りに経済制裁が解除されるという、欧米6か国とイランの2015年核合意に関して、トランプ大統領が国連総会での演説で再交渉を示唆した。これに対してイランは弾道ミサイルの実験に踏み切った。核の問題は北朝鮮の専売特許ではないということだ。

かように不安定さを増す国際情勢のもと、安倍首相は9月28日の臨時国会冒頭で衆議院を解散、10月22日に衆院選挙の投開票が実施される方向だ。「国難突破解散」か、「今のうち解散」かは別としても、野党の敵失や準備不足を利用して、安倍首相が政権基盤を固めようとしていることは明らかだ。果たして安倍首相の思惑通りの結果となるのか。それにしても、選挙は水物である。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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