ライドシェアへの対抗にはITが不可欠

タクベルの実験に取り組む神奈川県タクシー協会には、ライドシェアが日本で普及することに対しての強い危機感がある。協会の常任理事経営委員長でアサヒタクシー代表取締役の藤井嘉一郎氏は、タクベルの発表会に登壇し、タクシー業界の課題として「白タク・ライドシェア対策」と「労働力の確保」の2点に言及。ライドシェアが入り込む余地のない輸送サービスの構築を目指すにあたり、ITの導入は喫緊かつ必須の課題とした。

配車アプリの導入により、利用者の利便性と乗務員の生産性を向上させることが対ライドシェアで喫緊の課題だ

実際に利用した人からはライドシェアが便利とも聞くので、日本ではタクシーとライドシェアが両立するような形になればとも思うのだが、藤井氏はライドシェアについて、「安心・安全」と事故の際の「事業者責任」に問題があると指摘。ライドシェアが撤退せざるを得ないような輸送サービスをタクシー業界で構築したいとの考えを示した。

ライドシェアは価格の安さも大きな魅力だが、藤井氏は、ライドシェアがタクシーと同レベルの安心・安全を担保し、事業者責任を明確化するとすれば、料金も上がらざるを得ないと見る。ライドシェアがタクシー並みのサービスを実現しようと思えば料金が上がり、価格競争力はなくなるとの考え方だ。

なぜDeNAはタクシー業界と組むのか

意外だったのは、IT企業のDeNAがライドシェアに乗り出すのではなく、既存のタクシー業界と手を組んで配車アプリを始めることだ。勝手なイメージかもしれないが、ライドシェア対タクシー業界という構図において、IT企業はライドシェア側に付きそうな感じがするからだ。

この辺りの事情についてDeNAオートモーティブ事業本部の江川絢也氏に聞いてみると、DeNAが目指すのは「あらゆる人やモノが、安全快適に移動できる世界」だそうで、今回の件は、「地域の交通をどうするか」という大きな流れで考え、タクシー業界と組むことに決めたという。タクシーという既存の交通機関を、より身近で気軽に利用できるサービスに変えていくというのがDeNAの考えだ。

DeNAの江川氏(左)と神奈川県タクシー協会常任理事経営委員長でアサヒタクシー代表取締役の藤井氏

実際問題として、タクベルのようなサービスが普及し、タクシーの使い勝手が向上すれば、地域の足として、タクシーを利用するシーンが増えるかもしれない。目的地が一緒の客が同乗できる「相乗り」のような機能も、タクベルに実装されれば便利そうに感じたが、その点については「需要を束ねてしまう」側面もあるので、実用実験で「検討していく」(藤井氏)とのことだった。