――そのようなアプローチは、いつぐらいに確立されたんですか?

大学の時に韓国の演技学校に留学し、その時だと思います。そこでは芝居がうまくなる方法は一切教えてもらえてなかったのですが、人前で失敗できる場所だったというか。何も分からずに現場に入って失敗してしまうと次につながらなくなります。トライアンドエラーができるその時間は、宝だったと思います。

――どのような授業だったんですか?

ひたすらモノローグを繰り返しました。韓国語の発音も矯正しなきゃいけなかったので、誰かと芝居する以前の準備段階。モノローグ集の中から自分がやるものを見つけて、週3回ぐらい人前で発表していました。これがまた、人前で裸になるより恥ずかしい(笑)。針のむしろ状態でした。めちゃくちゃ、しんどかったです。

――それだけつらい思いをされたのに、なぜ乗り切れたんですか?

やっている時はつらいとか、苦労したとかは思っていなくて、とにかく必死でした。すごく良い先生がいて、「発音はダメだけど、ちゃんと心で伝わるものがあるからお前は頑張れば絶対に大丈夫だ」と言ってくれて。めちゃくちゃ厳しい方で、2カ月続かない子もたくさんいたんですが、そんな先生が褒めてくれたのがすっごくうれしくて、がんばることができました。子どもみたいですね(笑)。

――その後の関係は?

特にないですね。その先生に観てもらえる作品に出たいなとか、賞をいただいた時にはきちんとお礼を言いたいなと思います。「気持ちで伝わるものがある」という言葉は本当にうれしかったです。

――もっと遡ると、いつ頃演技に興味を持たれたんですか?

昔観た『家なき子』がすごく印象に残っていて、小さい頃観ていたドラマの影響はあると思います。高校生の時に韓国で雑誌のモデルをやらせてもらっていて、その時に演技学校を勧められたんです。モデルさんは雑誌でも180センチ以上の人ばかり。私は168センチで表情メインのカットが多くて。勉強になると思って演技学校に行ってみて、セリフを渡されてやってみたら、泣くシーンですんなり泣くことができたんです。全く演技やったことがなかったのにできたので調子に乗って、楽しいと感じたんですかね(笑)。

――モデルのきっかけは?

デザイナーさんに声を掛けていただいて、広告のモデルを務めたのがきっかけです。韓国の『ELLE』『marie claire』とか、ハイファッションの雑誌にちょっとずつ出してもらって。

――その後、本格的に演技をスタートして、女優になってよかったと思えたのはどのような時だったんでしょうか。

いちばんの転機は、『水の声を聞く』(14年)で主演をさせてもらったことです。

――第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞し、第65回ベルリン国際映画祭にも出品。玄理さんを語る上で外せない作品ですね。

そうですね。良い意味で、それを超える作品に出会わなきゃなと思っています。賞をいただいた上にベルリン国際映画祭まで行くことができて、一気にいろんな夢が叶いました。三大映画祭にずっと行きたかったんです。山本政志監督に出会えたものも、すごく大きなことでした。

――いろいろなことが達成されて、その後のモチベーションに変化はありましたか?

良い意味でこだわりがなくなったというか。それまでは「映画をやりたい」という強い気持ちがあったのですが、世の中にはすばらしい監督がたくさんいらっしゃいますし、私も勉強しないといけないことがたくさんあるという思いから、いつの間にかもっと新しいことに挑戦したいと思えるようになりました。

――さきほどのお話だと、「幸せになりたい」は人類の共通。そこから一歩先、今の玄理さんが人生を懸けて手に入れたいものは?

仕事の面で言うと、「楽しみたい」「楽しませたい」という純粋な気持ちになってきたと感じます。この仕事をはじめた時、「あれをやりたい、これをやりたい」みたいに自分の何かを解消するためだったと思うんです。だけど、最近は「楽しみたい」「楽しませたい」に。きっと、この仕事を楽しめるようになってきたからだとも思います。役以外でも、現場での過ごし方だったり、スタッフさんやキャストさんとの交流もお仕事。『ウツボカズラの夢』ではるかという役に出会って、これは徹底的に振り切って「ひどい!」「怖い!」と思ってもらえた方が作品のためではあって、それも楽しませていることになるので。ちょっとでも「自分がいい人に思われたい」という気持ちは、この作品に関しては全く必要ないです。でも、現場では助監督やプロデューサーの方とか近くで見て下さっている方が「はるか好きだよ」と言ってくれるから、それで救われています(笑)。

■プロフィール
玄理(ヒョンリ)
1986年12月18日生まれ。東京都出身。韓国人の両親のもとに生まれ、中学校時代にイギリスに短期留学。青山学院大学在学中に、韓国延世大学に留学し、映像演技を専攻。日本語、英語、韓国語のトライリンガル。2014年公開の主演映画『水の声を聞く』で、第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞した。これまで『駆込み女と駆け出し男』(15)、『天国まではまだ遠い』(16)、『後妻業の妻』(16)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『こどもつかい』(17)などの映画に出演。ドラマは『フリーター、家を買う。』(フジテレビ系・10)、『八重の桜』(NHK・13)、『相棒 Season14』(テレビ朝日系・15)、『精霊の守り人 シーズン2』(NHK・17)、『きみはペット』(フジテレビ系・17)など。