ヒーローと悪役

――春田さんはマッドギャランを演じるまでは、ゴーグルブラックやダイナブラックといったヒーロー側のイメージが強かったのですが、ヒーローからいきなり「悪」に転じたときはどう思われました?

春田:俳優としては、ヒーローじゃなくちゃ、みたいなこだわりはないんですよ。悪役って、面白いんですよ。善い人にはない部分がありますからね。先ほども言いましたが、ヒーロー作品には悪役が強い、カッコいいという部分も重要なんです。

石垣:昔の雑誌を読むと、健二さんも「将来、悪役にチャレンジしてみたい」なんて話していたりしますね。

春田:でしょう。ヒーローをずっとやっていると悪役に興味が行きますし、悪の魅力、悪の美学というものもありますからね。

石垣:僕も悪人を演じるときがありますが、悪役だと気持ちがバーッと振り切れますね。

春田:そうそう。

石垣:自分の本質の部分に「悪」というものがないので、ないものを作りこむ面白さがあるんです。またヒーローを演じるにあたっても、ただ正義の味方だからこうでなきゃいけないってルールをギャバンtype-Gには課していないんですよ。どこか遊びがあって、ストーリーから脱線するような芝居を意識的に入れている。撃がなぜ戦いに巻き込まれていくのか、あるいは自分で突っ走っていくのか、という動機を常に自分の中で考えています。

春田:たとえヒーローでも、みんなと一緒だったら面白くないよね。石垣くんのこういったヤンチャな感じがいいんですよ。いかにも暴走しそうというか(笑)。流れの中からはみ出して、どこかに行ってしまうので放っておけない。枠に収まらないスケール感が演技にもあるので、そこが面白味になっているんでしょう。

石垣:撃のアクションも最初の映画のときに金田監督と一緒に作り上げたもので、スマートじゃなくて泥臭さのあるキャラクターを出していこうとなりました。

春田:僕のアクションも、どちらかといえば本能的な動きが中心でしたね。つけていた手をいくつか飛ばしてしまったり(笑)。野獣のような感覚で動いていて、そういった部分が健二と違うところかもしれません。健二はちゃんとすべてを計算して緻密に動きますからね。僕は手を間違えて、本当に相手にパンチが入ったりしますから(笑)。

石垣:その点、坂本監督のアクションは「実際に当てていく」アクションですよ。僕が敵にカカト落としを決めるカットでも、寸止めにはしないで完全に踏みつけるようにやりました。そういうのを監督はモニターで観て爆笑している。なんて監督だ(笑)。

春田:アクションにもリアルさが要求されているんですね。

石垣:それって春田さんの動きに近いんじゃないですか。僕も細かな計算ができないタイプで、技術的なことをあまり考えない(笑)。

春田:それは僕も同じ。ガムシャラにやっていました(笑)。

『スペース・スクワッド』に期待するもの

――『スペース・スクワッド』は、俳優としてキャリアを積んだキャスト陣による「大人のヒーロー映画」という部分も大きな魅力ではないかと思います。劇場公開時に感想を述べてくださった方々からも「青年層~大人に向けた本格特撮ヒーロー作品」待望論が出てきているような印象ですね。

春田:こういったアクション作品、ヒーロー作品はもっと増えてほしいと思っていますよ。アクションも、演じるという意味では芝居とイコールですから。怒りや悲しみなど「感情を表現する手段」としてアクションが存在しているんです。

石垣:明らかに『スペース・スクワッド』はハイターゲットを狙いに行っていますね。芝居も大人を意識したもので、複雑な感情を込めたりしています。また、尺(上映時間)を気にすることなく演技ができるという、Vシネマならではの利点もあります。アクションといえば、撃がコンバットスーツを「蒸着」する、あの蒸着アクションが究極の芝居だと思っています。何かアイテムを持って変身するのではないからこそ、あの蒸着アクションに気持ちを込めることができるんです。

春田:そう。アクションもしかりなんですけれど、大事なのは芝居の部分だね。ちゃんと役者が芝居をするからこそドラマが成り立つわけで、ヒーローものであっても俳優がしっかりとした演技を見せなければ……。でも、石垣くんのようにしっかりとヒーロー作品における演技のことを考えているのは、凄いと思いますよ。

石垣:大先輩にそんなことを言ってもらえて光栄です! 『デカレンジャー』のみんなも僕と同じくらいの俳優キャリアがあって、台本を読んで納得できない部分があったりすると、何を言うわけでもなくみんなで集まって立ち稽古が始まるんです(笑)。その場で意見をまとめて、監督に「僕たちはこんな風に思っているんですけれど……」と出していく。今回の映画では、取ってつけたような芝居をやりたくなかったですし、周りのみんなが同じ気持ちでいてくれたので、とてもやりやすい現場でした。

春田:ヒーローものであろうが、大人ドラマであろうが、すべて俳優の演技で成り立っているものですから、そのへんの心意気はハリウッドにも負けたくないですね! 気持ちはね(笑)!

石垣:坂本監督はアクションをつける際、役者の立ち位置や芝居のことを考えながら演出に組み込まれるんです。ただ見栄えのいいアクションではなく、ここに守りたい人がいるんだから、絶対にここを動かずに戦うだろう、というような。そういう部分がわかっているので、役者も気持ちを込めやすいんです。

――最近は舞台の演出も手がけられている春田さんにおたずねしますが、ご自身でヒーロー作品を演出するのなら、どんな作品をやってみたいですか?

石垣:それは僕も訊いてみたいですね。

春田:うーん、難しいな。いい題材が見つかれば、一度演出をしてみたいという気持ちはありますが、今はまだ役を演じているほうが楽しいですね。

石垣:春田さんが考えるヒーローとは……観てみたいですね。将来的に、ぜひ何か作ってほしいです。

春田:脚本が大切なんですよ。これは面白い、と思える脚本にめぐりあって、のめりこんで作れたらいいですね。

石垣:僕自身『スペース・スクワッド』を絶対傑作にしたい!と考えて、ホン(脚本)の打ち合わせ段階から参加させてもらったんです。本当に、僕のわがままを聞いてくださった東映ビデオさんには感謝の気持ちしかありません。

――ところで、今回のマッドギャランはギャバンtype-Gに倒されましたが、怨念であるがゆえにふたたび姿を見せる可能性もまったくゼロではないですよね。お2人はそのあたりどうお考えですか。

春田:復活……あるかもしれないね(笑)。

石垣:あんなに強いのがまたやって来ると、銀河連邦警察も大変なんですけどね(笑)。

春田:宿命のライバルみたいに、何度も対戦するというのも面白いよね。ああいうアンチヒーローがいるから、ヒーローが際立つわけだし。

石垣:僕の中では、マッドギャランはマストというか、ドハマリの強敵だったんです。幻魔空界にはまだまだ強敵がたくさん残っているという触れ込みなんですけれど、マッドギャランを越える強敵が今後出てくるのかどうか……。本当に、ふたたびマッドギャランが襲ってくるかもしれないですね。そのためには何としてでも『スペース・スクワッド』の続編シリーズを作っていただかないと!

春田:ヒーロー同士の共演も「この組み合わせ、本当にやるのか?」っていう意外性が大事だよね。ぜひともいい脚本を練り上げて、じっくり作りこんでほしい。「ヒーロー映画でもここまでのレベルのものが作れるぞ」という強い思いを込めて、この先も『スペース・スクワッド』を作ってほしいと願っています。

(C)2017 東映ビデオ・バンダイ・東映 AG・日本コロムビア・東映

石垣佑磨(いしがき・ゆうま)
1982年、岐阜県出身。2000年にホリプロ「21世紀ムービースターオーディション」で準グランプリを受賞し、芸能界入りを果たす。『ごくせん』(2002年)をはじめとするテレビドラマや『バトル・ロワイアルII鎮魂歌』(2003年)などの映画作品、舞台などで幅広く活躍。特技のテコンドーを活かした激しいアクションには定評がある。6月劇場公開、7月19日Blu-ray&DVDが発売されたVシネマ『スペース・スクワッド』では、主役の宇宙刑事ギャバンtype-G=十文字撃役としてどうどうの主演。続編の製作が待望されている。
春田純一(はるた・じゅんいち)
1955年、福岡県出身。15歳のときに単身上京し、1970年にJAC(現JAE)創設メンバーの1人として多くのテレビドラマ、映画などに参加。俳優デビューは千葉真一主演のテレビシリーズ『柳生一族の陰謀』(1978年)。数々の超人的スタント・アクションをこなして後輩のアクション俳優たちから伝説的人物として語り継がれる。『影の軍団 服部半蔵』(1980年)『大戦隊ゴーグルV』(1982年)『科学戦隊ダイナマン』(1983年)などに出演して多くのファンを獲得した後、『熱海殺人事件』『幕末純情伝』『蒲田行進曲』など、つかこうへい作・演出の舞台への出演が契機となって演技派俳優へと転身。『昭和最強高校伝 國士参上!!』(2016年)などの映画、『警視庁・捜査一課長』(2017年/第5話)『ウツボカズラの夜』(2017年)をはじめとするテレビドラマ、舞台と幅広い分野で精力的に活躍中。2016年『熱海殺人事件 売春捜査官』では舞台演出を務めている。
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。