東武鉄道が鬼怒川線下今市~鬼怒川温泉間で運行開始するSL「大樹」の試乗会が7月19日に開催された。あわせて下今市駅構内のSL展示館・転車台広場も公開された。

鬼怒川温泉駅で発車を待つSL「大樹」。記念撮影を行う人たちも

報道関係者向けの試乗会の開始前、別の試乗会の参加者を乗せたSL「大樹」が鬼怒川温泉駅に到着した。その後、蒸気機関車C11形207号機は駅前広場から多くの利用者らに見えるように設置された転車台にて方向転換を行った。報道関係者だけでなく、多くの利用者らがカメラやスマートフォンを向けており、改めてSL「大樹」への関心の高さを感じさせた。方向転換を終えたC11形207号機は出発ホームへ。

鬼怒川温泉駅のホームに入ると、すでにC11形207号機は煙と水蒸気を出しながら出発を待っていた。報道関係者らがC11形207号機にカメラを向ける一方、他の試乗会参加者はC11形207号機の前で記念撮影を行っていた。ちなみに、C11形207号機を動かすために必要な石炭はオーストラリア産の石炭を使用しているという。

C11形207号機はJR北海道から借り受けた蒸気機関車。その後ろに連結されたヨ8634はJR貨物にいた車掌車で、SL「大樹」ではATSの車上子を搭載している。続いてスハフ14-5・オハ14-1・スハフ14-1の客車3両。14系座席車だ。スハフからは車内の電気などに使用する発電機のディーゼルエンジンがうなりをきかせている。これらの客車はJR四国にいたものだ。最後尾はディーゼル機関車DE10形1019号機。補機となっている。

鬼怒川温泉駅の転車台で方向転換。機関士が手を振る

車掌車はATSのために連結されている

補機のディーゼル機関車DE10形1099号機

筆者をはじめ報道関係者は最後尾の1号車、スハフ14-1に乗車することになった。車内の座席は青いモケットが鮮やかで、リクライニングして姿勢を元に戻すと、「バッタン」という音とともに座席も元に戻る。昔ながらの簡易リクライニングシートである。

懐かしの「ハイケンスのセレナーデ」を聴きながら

試乗会の列車は14時35分頃、鬼怒川温泉駅を発車した。蒸気機関車牽引の列車らしく、ゆったりとした加速だ。そこへチャイムが鳴り響く。かつて寝台列車などで使用された「ハイケンスのセレナーデ」の音だ。

青いモケットが鮮やかな簡易リクライニングシート

車内ではSL「大樹」グッズの販売も

やがて車内放送によるさまざまな案内が始まった。SL観光アテンダントも挨拶し、さらにオリジナルグッズなどの販売も行われた。SL観光アテンダントは日光市観光協会に業務を委託しており、乗客の出迎え・見送りに加えて日光地域の観光案内も行う。オリジナルグッズはボールペンやキーホルダーなど。他にアイスクリームも販売される。

列車は東武ワールドスクウェア駅(試乗会の後、7月22日に開業)に一旦停車しただけで、あとはのんびりと進んでいく。蒸気機関車の走りと14系客車の静粛性が相まって、ゆったりとした時間が流れていく。ときどき汽笛が聞こえる。

沿線ではカメラを構えた人たちだけでなく、地元の人たちも列車を見に来ている様子だった。手を振っている人たちも多い。東武鉄道と日光市観光協会では、「SL『大樹』にみんなで手を振ろう。」というキャンペーンを行っているそうだ。

緑の木樹と、田畑の緑あふれる風景の中を進んでいくと、到着5分前くらいになって再び「ハイケンスのセレナーデ」のチャイムが聞こえてきた。到着を告げる案内だ。列車は15時9分頃、下今市駅に到着。このときの試乗会では、報道関係者の他に東武鉄道関係者とその家族も試乗しており、とくに子供たちは大喜びのようだった。

下今市駅構内のSL展示館、しかけが楽しい

試乗会終了後、下今市駅構内のSL展示館へ向かう。SL展示館では、SLの動くしくみを紹介するだけでなく、東武線にゆかりのある蒸気機関車の写真も展示されている。休憩スペースも設置され、飲み物やSL「大樹」関連グッズの自動販売機もある。

「SLってなんの略」と書かれた展示物の扉を開けてみると……?

SLについての説明が書いてあった

SLの動くしくみの紹介は楽しいしかけとなっており、たとえば「SLってなんの略?」と質問が書かれた展示物を開けてみると、「Steam Locomotiveの略です」の説明とともに燃料の石炭も紹介されている。他にも蒸気機関車のナンバープレートや、SL「大樹」の模型を走らせるジオラマもあった。

扇形機関庫は新しくつくられた。機関庫にC11形207号機が入る際、まずバックで転車台に進入する。この転車台は山口県のJR長門市駅から譲り受けたものだ。ちなみに鬼怒川温泉駅にあった転車台は広島県のJR三次駅から譲り受けたものである。バックで転車台に入ったC11形207号機は、転車台をおよそ半周し、機関庫に入って行けるように向きを変える。そして機関庫へ、先頭が見えるように収まっていく。

このSL「大樹」の運転のため、機関士4名が養成され、現在も1名の養成を行っている。さらに機関助士8名の養成も進めている。その他、検修要員の養成も進めているそうだ。養成にあたっては、JR北海道や秩父鉄道、大井川鐵道、真岡鐵道の協力を受けている。将来は自社内で機関士の養成を行う可能性もあるという。

下今市駅隣接の転車台広場とSL「大樹」

扇形機関庫に納まるC11形207号機

日光・鬼怒川エリアの観光に組み込んでもらえるように、下今市~鬼怒川温泉間という短い区間で設定されることになったSL「大樹」。今回の試乗会では、単純に観光の起爆剤というだけでなく、東武鉄道が並々ならぬ力を入れ、SL列車という鉄道産業文化遺産の保存と活用に力を入れていることがうかがえた。

SL「大樹」の営業運転は8月10日から開始される。地元から、多くの鉄道ファンから、SL「大樹」は期待を寄せられている。