原稿が遅いのは、ギリギリまで粘るから

――現担当の真鍋さんは『銀魂』の連載が開始された時、どんな感想を持たれていたんですか?

『銀魂』第1巻

真鍋:僕は当時中学生でしたが、書店に銀魂の単行本を買いに行った記憶があります。

空知:絶対、買ってねーだろ!(笑)

真鍋:いや買ってました!

空知:そんな都合のいい話あるか! 「その2人がまさに今、出会った」みたいな。そんなわけないじゃん!

真鍋:いや本当に、ジャンプも読んでいて、読者の立場からすると「変な漫画が始まったな」「なんて形容していいかわからん」みたいな気持ちでした。変だけど、なんだか面白い。そういう感想は抱いてたんです。『銀魂』って漫画界を見渡しても特殊な存在の、良い意味で変な漫画だなと思います。

――真鍋さんから見て、空知先生のすごいと思うところはどんなところですか?

真鍋:お話の振り幅がギャグからシリアスまで本当に広いので、引き出しの多さにはとにかく驚かされます。それと、漫画そのものに限界まで食らいつく執念みたいなものに凄みを感じます。 空知先生は原稿が遅いというイメージがあると思いますが、単純に遅いというよりは、ぎりぎりまで考え抜いて妥協しないというのが理由なんです。もう正直、毎週締め切りがあるようでないみたいな感じはあって、僕も半泣きになりながら「空知さんちょっと、本当にそろそろお願いなんで、空知さん」って……。

空知:めっちゃリアルだった、今。ガン無視なんですけど(笑)。

真鍋:編集部からは「何やってるんだ」って。何ならビデオ通話がかかってきたり。 本当に仕事場を出て「タクシーに乗ってます」って言っても信じてもらえなくて、「窓を開けて風の音を聞かせろ」みたいな。

空知:(笑)

真鍋:印刷所からも「真鍋さん、出ました?」と連絡が来て、「今、出ます!」と言って、そこからなかなか出られないみたいな。でも、それも空知先生がただただ遅いというより……。

空知:今更フォローできるの!?

真鍋:やっぱり、そこまで粘って描いているんです。もちろん色々な人にすみませんと頭を下げないといけないですが、読者に少しでも楽しんでもらおうという空知先生の執念ですよね。いや、締切は締切なんですけど……。次週の進行が苦しくなるにも関わらず、少しでも良いものに仕上げようとしているのは、覚悟がないとできないことなんじゃないかなと思っています。毎週が綱渡りで、もうちぎれた綱をつなぎ合わせてるくらいのライブ感ですが……。

空知:その通りだと思います。迷惑かけて、申し訳ないなと思ってます。ただ、正直麻痺してるんですよね。俺も苦しんでるから、全員苦しめ! みたいな気持ちはありますね(笑)。

映画『銀魂』小栗旬

すぐに漫画を描く

――これだけ長期の連載だと、終わった後はゆっくりしたいとか、あれをやりたい、と考えていることもあるんでしょうか?

空知:ちょっとは遊ぶでしょうけど、基本はやっぱり漫画が好きでやってるので、すぐに漫画を描くと思います。苦しいだけですけど、そこしか社会との接点がないので。漫画を描いていないと、しかばねなんですよ。生きるしかばね。何の役にも立っていないし、漫画自体も役に立ってないので、だったらせめて楽しませないと。それくらいしかないので。

……いや、こんなこと言ったらすぐやらなきゃいけなくなる。わかりません!

真鍋:えっ!?

空知:週刊が結構きついかなあって。

真鍋:生々しすぎますけど!

「男達の銀魂道」、次回は福田雄一監督にお話を伺います。

(C)空知英秋/集英社 (C)2017映画「銀魂」製作委員会