茂木さんは語る。「店舗の復旧には9か月の期間を要しましたが、古舘先生の応援はもちろんのこと、ファンの方々から岩泉に興味を持ってもらえて、こんな状態になっても応援をしてくれるなんてとてもありがたいことです。そこで何かささやかでもお礼と、4月に店舗が全面営業再開したというご報告をしたくて、我々をつないでくれた岩ちゃんの誕生日の6月10日にイベントを開催する運びとなりました。とはいえ、いざ皆さんに向けて何かをしようと思ったとき、まずは何をしたらいいかわからずでしたが……」。

そこで力になってくれたのは、ファンと、同じ聖地としてつながっていた軽米町の堀米(ほりまい)さんだった。ファンからは5月に発売された一番くじのタペストリーやその他グッズ、漫画全巻、さらにはその本を収納する本棚などの寄付があり、今回の展示物として客を迎えた。堀米さんは今回のイベントで当日駆けつけてくれただけでなく、ファンを楽しませる作品に関するテストやのぼり、展示物の提供などをしてくれたという。

とはいえ、開催する側としては訪れたファンに窮屈な思いをさせても申し訳ないと考え、こじんまりと……ということで、告知はFacebookのみで行った。当日はグッズTシャツ各種や寄贈のタペストリーなどの展示を行う「人気選手大集合」、岩泉一の好物である「揚げ出し豆腐のサービス」、全員で誕生日を祝う「バースデーケーキを囲んでの撮影」、堀米さんが用意した「岩泉一テスト」などがファンを待ち受けた。

災害を乗り越えたタペストリー(近づいて見ると膝部分には泥の跡が残っている)と画面中央はファンから贈られたお花。。左の赤い旗は、道の駅が仮営業を始めた時に、堀米さんより送られたもの。元軽米高校書道部員による「繋げ」という題字の周りに、軽米町を訪れたファンが岩泉町のために書いたメッセージが寄せ書きされている

誕生会当日、予想を超える数のファンが現地に!

11時のイベント開始前から店内にはファンが集いはじめ、特別に準備した誕生会スペースも徐々に埋まっていった。店長の茂木さん、堀米さんをはじめとするスタッフは、はっぴやTシャツを着て出迎えた。

はっぴを着て迎える店長の茂木さん

「岩泉一テスト」の採点をしている堀米さん

何人かが手持ちのグッズを机に広げながら記念撮影などを行っていると、ファン同士で会話が生まれ、「岩ちゃん」の話や各々が作成したグッズについてやどこから来たのかなどを話し、和気あいあいとした雰囲気となった。自然発生的にグッズが集まり、あっという間に「岩ちゃんの祭壇」が生まれ、記念撮影大会に。

ファンの方々が持ち寄ったグッズでできた祭壇

ファンの皆さんは各々「オリジナルのカスタマイズをしている岩ちゃん」「衣装を自作した岩ちゃん」など思い思いの岩ちゃんを連れており、エピソードを聞くと本当に熱心なファンで、この日を楽しみに県内や遠隔地から来たという人が多かった。話を聞いた中で一番遠くから来ていたのは長崎の「そのちん」さんと広島の「のんちゃん」さんの女性2人組。詳しく話を聞いた。

「片道6時間かけてきました!」

――お話を聞かせていただいてありがとうございます。お二人は長崎と広島から来られたそうですね! ここまでの経緯をお聞きしてもいいですか?

そのちんさん:私が岩ちゃんの大ファンで、もともと何もなくても誕生日を祝いに今日岩泉に来ようと、前々から計画していたんです。でも距離が遠くて、なかなか同行してくれる人がいなくて。そんな中ツイッターを通して以前からファンとして繋がっていた彼女が「一緒に行ってもいいよ」と言ってくれたので、お互い福岡に集合してここまで来ました! 片道合計6時間以上はかかっていますね。本当に来られると思っていなかったし、さらに誕生日イベントにも立ち会えて、しみじみと感動しています。

のんちゃんさん:実は私たち、初東北なんです。

――初東北で岩泉町というのは凄い……! 6時間というのもかなりの移動距離ですね。

のんちゃんさん:そうなんです。距離のこともあり、東北は今までの人生で行く機会がなくて。私は(主人公が所属する)烏野(高校)ファンなので軽米町にもぜひ行きたいんですが、せっかくのお誕生日会ということで、今回は岩ちゃんのために来ました。初めてで最奥に来た……!という気持ちです(笑)。

そのちんさん持参のグッズ。並々ならぬ愛情を感じる

――イベントがなかったとしてもあらかじめ計画は立ててたんですね。

そのちんさん:以前岩泉町に聖地巡礼した人から「とってもいいところだよ~」と聞いてたので、ずっと行きたいと思ってたんです。休みがそんなに取れないので、気合を入れて2泊3日で来ました。今回の旅行のためにバッグも準備しなきゃ……と思ってほぼ夜なべして岩ちゃんのバッグを作ってきました。

――気合がすごいです。実際訪れてみてどうでしたか?

そのちんさん:聞いてたとおり、いいところでした。まず、人が温かくて……。昨日長崎で地震があったのですが、地元の方に長崎から来たという話をしたら、「地震大丈夫だった?」と心配してくださったんです。すごく遠い土地の話なのに、そういう気づかいをしてくれてうれしかったです。あと、みなさん「遠いところから来てくれて本当にありがとうね」と気持ちを込めて言ってくれて。私は出身が長崎の田舎のほうなのですが、今は比較的中心に住んでいるので、ああ、こういう人との温かい交流久しぶりだなぁって、故郷を思い出しました。

のんちゃんさん:私も出身が広島の比較的田舎のほうなのですが、ここはきれいな空気、水、野菜、静かな自然があってすごく落ち着きます。そういうものって、ぜいたくですよね。

そのちんさんのグッズと夜なべしてこの日のために作ったというそのちんさんのバッグ。ずっと一緒に連れて歩いているという岩ちゃん(左上)からは、特に年季と愛情を感じる