すぐに言葉は出てこないが、時間をかけながらも真摯に話してくれた
撮影:将棋世界

――非公式戦の「炎の七番勝負」での羽生善治三冠戦の勝利は世間的にも大きな話題になりました。局後に羽生三冠は「すごい人が現れた」と。「自分の若い頃より完成している」とも。目の前で聞いてどう思いましたか。

……もちろん羽生先生にそう言っていただいたのはものすごく嬉しかったですけど、これからどれだけ強くなれるかだと思いますので。将棋って……ハイ、深いゲ―ムなので、ものすごく強くなれる余地はあると思っています

――その後、同じく非公式戦の獅子王戦では敗れた。

早い段階で悪くしてしまいまして、途中からは粘っていただけです。中盤で全く勝負になっていなくて、羽生先生の力を感じました

――藤井さんにとって、羽生三冠はどんな存在なのでしょうか。

僕が将棋を始めた頃から……いや、生まれるずっと前からトップだったわけですから。奨励会時代はただ遠い存在として憧れていただけですけど、公式戦では自分の頑張り次第で当たるところまで行けるので、羽生先生と当たるところまで登りつめないと、と思いますし、憧れからは抜け出さないといけないと思います

――世間の注目度は、羽生三冠の七冠達成時以来かもしれません。

自分は……ただ将棋を指してきただけなので、大きく採り上げていただけることはうれしい反面、照れくさいというか気恥ずかしい気持ちもあります

――ご家族やクラスメイトも驚いているでしょうね。

家族は将棋のル―ルを知っている程度なので、あまりよく分かっていないと思います。学校では新聞とかテレビを見た友達から『すげーじゃん』と言われたりはしますけど。女子からの視線? いえ……そういうのは全くないです

ずっと将棋が好きでやってきた

――しかし、活躍を見て将棋を始めるお子さんだったり、子どもに将棋を勧める親御さんは確実にいるはずです。

……僕のことをきっかけに将棋を始めてくださる方がいたとするならば、棋士として嬉しいことだと思います

――藤井さんが将棋を始めたときは、なぜ将棋を選んだのでしょうか。

始めたのは5歳のときで、囲碁も少し打ってみたんですけど、初心者の祖母に勝てなかったんです。将棋は祖母や祖父にすぐに勝てるようになったので、どんどんのめり込んでいったんだと思います。将棋に対する思いはずっと変わらないです。ずっと好きで自然にやってきた感じです。将棋を指したくないとか、駒に触れたくないとか思ったことはないです

――強さを育んだ詰将棋はいつ頃から?

5歳の夏に将棋を始めて、冬には地元の子供教室で1手詰、3手詰を普通に解く感じになって……。意識的に取り組んできたことではないんです。好きだから自然に続けてきました

――詰将棋は手順の美しさを追求したものですが、勝負の盤上でも美しさを追いたいと思うものでしょうか。

詰将棋の美しさは芸術的なものですが、将棋には勝敗があって一手に優劣が付きます。詰将棋のようなカッコイイ手が最善だったらいいですけど、実は悪手だったということもあるので、まずは最善手を……。派手な手と『地味だけど最善手』の兼ね合いはとても難しいと思います