社会人なら知っておきたい不動産の基礎知識~賃貸物件の解約編~

みなさんは賃貸物件の解約時に、貸主と借主との間でトラブルが発生するという話を耳にしたことがありませんか? そのほとんどは原状回復に関して両者の見解の相違から、敷金の返還を巡る揉め事へと発展することが多いようです。

では、そんな解約時のトラブルを防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか? 今回は賃貸物件の解約について、関連する法律や基礎知識などを詳しくご紹介しましょう。教えていただいたのは、iYell株式会社が運営する住宅情報マガジン「すみかる」の編集長を務める、千歳紘史(ちとせこうし)さんです。


「賃貸借契約書」を見てみよう

まず貸主と借主の解約時における取り決めについては、契約時に両者の間で交わす「賃貸借契約書」が重要となります。その契約書に記載されている「解約」の項を見てみましょう。そこには契約期間、出て行くときの告知期限(いつまでに貸主に通知するか)や方法(書面か口頭か)、原状回復(敷金の精算方法)などに関して、まとめられているはずです。

この賃貸物件における貸主と借主の契約に関して最重要視されるのが、契約時における両者の取り決めです。一般的にアパートやマンションにおける賃貸契約は、自由契約の原則といわれる、契約者同士が自由に定めることができる民法上の基本原則が存在しており、「賃貸借契約書」に書いてあることがすべてであると言っても大袈裟ではありません。とはいえ、契約に関する民法上の規定もいくつかあるので、詳細はその都度紹介します。

とにかく契約だけでなく解約に関しても「賃貸借契約書」がなによりも重要になるので、契約時には必ずよく確認しておきましょう。

また今回アドバイスをいただいた千歳さんによると「今後、民法改正によって敷金について具体的に規定される可能性がありますが、実質的な商慣習からの大きな変化はないと思われます」とのこと。

「契約期間」「解約の方法」「敷金の精算方法」

では、「賃貸借契約書」に記載されている、解約に関しての各項目を説明していきましょう。

契約期間

賃貸借物件においての契約期間は概ね2年とされているケースが多いです。ただしなかには、契約期間が数か月間の「定期借家」という物件もあるので注意しましょう。

また賃貸用のアパートやマンションではあまり見かけませんが、契約期間が定められていない物件もあるようです。その場合の契約期間は、民法『第六百十七条 』で以下のように規定されています。

当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。

一  土地の賃貸借 一年
二  建物の賃貸借 三箇月
三  動産及び貸席の賃貸借 一日

この場合は貸主、借主双方から「解約したい」と申し入れられることがポイント。ただしすぐに出て行くことは双方とも難しい場合があるので、各契約物件によって期間が定められています。

解約の方法

部屋を出て行くときには、前もって貸主に通知する必要があります。その方法について「賃貸借契約書」には、「いつまでに」「どのようなかたちで」と記載されているはずです。例えば「1カ月までに書面で通知」「60日前までに口頭で」などというように取り決められています。通知可能な期間に関しては、だいたいのケースで1カ月~3カ月。書面は「賃貸借契約書」に同封されていることが多いようです。

この通知期限をオーバーしてしまうと、旧居と新居で家賃の二重払いが発生してしまう可能性があるので、注意が必要。繰り返しになりますが「賃貸借契約書」を必ず確認しましょう。もし少しでも不明、不安な点があれば、契約時に不動産会社に直接問い合わせてみることもおススメです。

敷金の精算方法

賃貸物件の解約時におけるトラブルでもっとも多いのが、敷金の精算について。この敷金の精算方法に関しても「賃貸借契約書」に書かれているはずです。

例えば「解約時の壁のクロス交換は貸主負担」「経年変化による床、畳の劣化、傷は貸主負担」などといったように、各項目によってどちらの負担となるか明文化されていることがほとんどです。ただし、ケースによっては詳しく取り決められていないこともあるので、無用なトラブルを防ぐためには、契約時に貸主と相互に確認しあうことが必要。

またアドバイザーの千歳さんによると、「多くの民営借家の場合、あくまでも個人と個人(場合によっては法人のケースもありますが)の貸し借りです。人として誠意をもって話し合いをすることが何より重要」とのこと。

では次にこの敷金の精算方法に関して重要な、退去時の清掃や、立ち会いについて詳しく述べていきましょう。

清掃はどの程度必要?

退去時には貸主、借主双方の立ち会いによって、部屋を確認する必要があります。この退去立ち会いは、室内の破損している箇所や汚れなどを双方で確認するということ。つまり、どちらが修繕費用を負担するべきか明らかにするための、とても重要なものなのです。

では、室内の清掃はどの程度やればよいのでしょうか? 多くの物件の場合、退去後に貸主負担でクリーニングの業者が清掃することが多いといわれています。アドバイザーの千歳さんは次のように教えてくれました。

「綺麗にするに越したことはありません。人からものを借りたのだから、綺麗にして返すという日本人としてのマナーや気配りがやっぱり大切。ただ、過度に気にしすぎる必要はありません。一般的には、経年劣化する部分はそのままでよいとされていますので。国土交通省が定めた『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を参照するとよいでしょう」

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは原状回復を巡るトラブルを回避するために、国交省が費用負担のあり方をまとめたもの。あくまでも指針で法的拘束力はありませんが、実際の現場でも参考にされることがあるそうです。貸主、借主の修繕分担についてまとめられた箇所を一部抜粋してみました。

貸し主(賃貸人)負担となるもの

・畳の裏返し、表替え(特に破損していないが、次の入居者確保のために行うもの)
・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
・畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
・テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
・壁に貼ったポスターや絵画の跡
・壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)

借り主(賃借人)負担となるもの

・カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ(こぼした後の手入れ不足等の場合)
・引越作業等で生じた引っかきキズ
・フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)
・賃借人が結露を放置したことで拡大したカビ、シミ(賃貸人に通知もせず、かつ、拭き取るなどの手入れを怠り、壁等を腐食させた場合)
・タバコ等のヤニ・臭い(喫煙等によりクロス等が変色したり、臭いが付着している場合)
・壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替えが必要な程度のもの)

等々、どちらが修繕費用を負担すべきか示しています(ここに挙げたのは一部であり、すべてではありません)。

入居時の状態を記録しておくことも重要

また入居時に確認しておきたいのが、床や壁の傷、汚れの確認。それらが入居後にできたものなのか、それとも入居前からあったものなのかということが、敷金の精算額を左右する場合があります。そのため新居の契約後、荷物を搬入する前に、できるだけ部屋の隅々まで撮影して、記録に残しておきましょう。トラブルを回避するためのひとつの策となります。

敷金をなるべく多く戻すコツは?

敷金に関して一番気になるのは、やはりいくら戻ってくるかということでしょう。そこで少しでも多く敷金を戻すためのコツをアドバイザーの千歳さんに聞いたので、以下にまとめてみました。

・借り物である物件を、借り物としてキレイに使うことが何より大事
・大家さんも人。法律がどうこうとか、ガイドラインがどうこうという杓子定規に考えるのではなく、人対人の関係できちんと話し合いをすること
・傷などは可能なかぎり修復して、気持ちよく返すという心配りは大切。そういう気づかいからくる大家さんとの人間関係構築が、別の箇所で揉めたときに穏便な解決ができる(=敷金が多く戻ってくる)ことにつながることもある
・改装して使いたい新しい賃借人が、タイムラグなくみつかった場合、原状回復をする必要がなくなる場合があるので、早めに退去予告を出すと、お得になることも

やはり貸主との人間関係を軽視してはならないようです。とくに修繕費用の分担に関しては「賃貸借契約書」に書かれていないケースもあり、その場合は話し合いによる解決となります。人としてマナー、誠意をもって対応することが、敷金をより多く戻すために必要なことなのかもしれません。

知っておきたい不動産の基礎知識まとめ

退去する旨の通知期間や方法、敷金の精算方法……。賃貸物件の解約時には「賃貸借契約書」に書かれている、これらに関しての取り決めがとても重要となります。そして退去するときに慌ててこの「賃貸借契約書」を確認するのではなく、契約時に必ず内容をしっかりと理解しておくことが大切。また、もし契約する際に少しでも分からないことがあれば、不動産会社や貸主に遠慮せず質問してみましょう。

部屋探しも含め新居の契約や引っ越しにはそれなりの費用、手間がかかります。できるだけ無駄なエネルギーを消費しないため、また退去時における無用なトラブルを防ぐためにも「賃貸借契約書」の確認は、忘れてはならないポイントなのです。


取材協力:千歳紘史(ちとせこうし)さん
日本最大級の不動産ポータルサイトのウェブサービス開発を担当。その後独立し、不動産に関するウェブマーケティングを支援する株式会社理想ラボを設立。また、住生活に関する様々な事業を展開するiYell株式会社の執行役員でもあり、お部屋探しや引越しなど「住まい」に関わる数々の知識を活かして、同社が運営する住宅情報マガジン「すみかる」の編集長も務める。

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