映画監督に、出演役者の印象を伺っていく「監督は語る」シリーズ。今回とりあげるのは、染谷将太(24)だ。子役として活躍し、キャリアはすでに17年。2011年には、映画『ヒミズ』で、第68回ヴェネツィア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を日本人として初めて受賞した。

主演・助演問わず確かな存在感を見せ、2015年には『さよなら歌舞伎町』『バクマン。』『映画 みんな!エスパーだよ!』が公開。最新作『聖の青春』(11月19日公開)では、松山ケンイチ演じる棋士・村山聖の弟弟子・江川貢役を演じる。

■森義隆
2008年 『ひゃくはち』で映画監督デビュー。同作で、第13回新藤兼人賞銀賞、第30回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。12年公開『宇宙兄弟』が大ヒット、第16回プチョン国際ファンタスティック映画祭でグランプリ、観客賞をダブル受賞。テレビ、映画、舞台と幅広く活躍する。

染谷将太の印象

染谷くんは現場でも物静かで、受動的に見える人なんですけど、こちらが何か聞くとだいたい答えを持っている。相当いろいろ考え抜いた上で演じられているんだろうなと思います。実は、スナックで松山くん演じる村山と殴りあうシーンなんかは、染谷くんが演技を引っ張っていました。僕の中では、あのとき意外とまだ松山くんの村山聖が完成していないように見えて、あのシーンの後からどんどん完成度が上がって行ったんです。それは、染谷くんがひっぱって行ってくれたおかげじゃないかなと思います。

前に出ていないのに、周りを動かす力があるんですよね。それって簡単ではなくて、前に出なかったら、そのまま出てこられない人はいっぱいいるんです。彼は遠心力ではなく、求心力のある役者なんだと思います。小さい役でちょっといるだけのシーンでも求心力があって、彼を中心にする瞬間がぽっと出てくるというか。稀有な才能だと思うんですよね。

撮影現場での様子

今回演じてもらった江川は非常に普通の人なので、そこに苦労していたようです。打ち上げかなにかで話した時に「本当に苦労した」と言ってたんですが、僕には苦労してないように見えたんですよ。

確かに染谷くんの中では、最後まで役をつかみきれなかったのかもしれませんが、実はつかみきれなかったことが、この役を良くしていた可能性もあるんです。彼ほどの役者が迷い込んでしまったことが、実は"負ける棋士"江川を作り上げていたんですよね。もしかしたら、彼の直感としてそうなっていた部分もあるのかもしれません。彼にとってカチッとはまる瞬間がなかったことが、功を奏しているのが非常に役者らしいし、江川として完成していた印象がありました。

映画『聖の青春』でのおすすめシーン

江川が対局中に鼻血を出すシーンです。彼の対局相手は将棋教室で探しまくりました(笑)。あのシーンはとても気に入っています。

染谷くんは、すごく美しい顔をしているじゃないですか。その美しい顔を、醜く負けさせたかった。すごく美しく悲しく負けてくれて、映画の中盤のギアをガッと上げてくれる存在になったと思います。

(C)2016「聖の青春」製作委員会