29歳の若さでなくなった天才棋士・村山聖。少年時代から、難病と戦いながら将棋にすべてを賭けてきた彼の人生を描いたノンフィクション小説『聖の青春』が、発表から16年を経て映画化されることとなった。2008年に映画化の企画が生まれてからさらに、公開まで8年の月日をかけ、監督の中でも熟成された作品に挑むのは、松山ケンイチと東出昌大だ。

"怪童"村山聖を松山、将棋界でも100年に1度の天才と呼ばれ現在も活躍する棋士・羽生善治を東出が演じた。先に行われた東京国際映画祭では、東出から「ヒロイン・羽生善治役」とジョークも飛んだが、ライバルであった2人の対局シーンには映画というフィクションを超えた迫力、そして将棋盤をはさんで育まれた絆が宿っていた。

(左)■松山ケンイチ
1985年3月5日生まれ、青森県出身。『男のたちの大和 YAMATO』(05)で一躍注目を集め、続く『デスノート』『デスノートthe LAST name』(06)で大ブレイク。以降、映画、TVで幅広く活躍。映画代表作は『デトロイト・メタル・シティ』(08)、『カムイ外伝』(09)、『ノルウェイの森』(10)、『うさぎドロップ』(11)、『天の茶助』(15)ほか多数。2016年は『の・ようなもの のようなもの』『珍遊記-太郎とゆかいな仲間たち』『怒り』が公開。
(右)■東出昌大
1988年2月1日生まれ、埼玉県出身。12年『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。14年『クローズEXPLODE』で映画初主演を果たし、第27回日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎新人賞他受賞。主な映画出演作は、『寄生獣』『アオハライド』(14)、『寄生獣 完結編』『GONIN サーガ』(15)、『ヒーローマニア-生活』『クリーピー 偽りの隣人』(16)。『デスノート Light up the NEW world』が現在公開中。 撮影:大塚素久(SYASYA)

戦っているのが見えた

――おふたりは初共演とのことですが、お互いの印象はいかがでしたか?

松山:東出くんが出ている作品も観ていましたし、(早乙女)太一くんと共演した時に東出くんの話を聞いたりしていたので、「どんな人なのかな」と楽しみにしていました。

かといって、色々とプライベートな話をするような状況でもなかったような気がします。現場に入ったらもう東出くんじゃなかったですね。自分の中ですごく戦っているのが見えました。最初は本当に対局シーンだったんだよね、大阪で。

東出:はい、そうでしたね。

松山:一発で、「羽生さんだな」と思いました。村山さんが、尊敬や憧れを感じていただろう"羽生さん"が目の前に現れたんですよね。東出さんがすごくリサーチをかけて役を作ってきたのも見えましたし、何より羽生さんと将棋に対する愛情をすごく感じて、それがひとつのオーラになっていました。

だから、羽生さんを演じる東出くんを素直に尊敬できたし、憧れることができて、「これからすごく面白いことになるな」と思いえました。自分自身も、もっともっと村山さんに向き合って演じていけば、それこそ作中で対峙した時のように、深い海に2人で潜っていけるな、という実感がありました。

東出:僕は、クランクインする前から、プロデューサーさんや監督さんから「松山さんがすごく過酷な増量をしている」とか、「将棋連盟に通っている」とか、色々とお話を聞いていたんです。クランクインして2週間ほど経ってから現場に入ったんですが、それまでに「村山聖の組として現場を作っておくから、お前はそこにライバルとして入ってこい」と監督から言われていて。

実際に現場に入ったらもう、ライバルとしての村山聖がいました。松山さんの気迫あふれる村山聖を前にして、やっぱり僕も嬉しかったです。元々松山さんの作品も見ていますし、尊敬する先輩としての印象は大きかったんですけど、現場に入ってからは村山さんとして向き合う感覚でした。鬼気迫るものがありましたね。