ゴーン流改革の遂行に向けた人材配置

三菱自の燃費不正は軽自動車にとどまらず、ほぼ全車種に及んでいたことからブランドは地に墜ちた。さすがの三菱グループ支援もこの期に及んではままならず、相川社長の引責辞任により、会長兼社長となった益子氏は日産に助けを求めた。軽自動車の合弁生産で2010年から提携していた日産サイドは、ゴーン社長の即断で手を差し伸べた。

三菱自の企業体質は、おっとり型で「たこつぼ文化」と言われてきた。とくに開発部門でのそうした体質がリコール隠し、燃費不正につながったと言われる。一方で、戦闘機の流れを汲む技術力には定評があり、軽自動車で先駆けたEVと、これをベースとしたSUVのPHEVの商品力は評価が高い。加えて、三菱商事と連携し、タイを中心とするアセアン市場を開拓した三菱車は、三菱自の収益力に大きく寄与している。

日産は、資本提携発表とともに、いち早く三菱自のテコ入れに動いた。長らくゴーン体制で開発部門のトップだった山下光彦氏を三菱自の開発担当副社長として送り込んだのだ。まずは、問題の開発部門をゴーン流に改革するという意思がはっきりと読み取れる。

ゴーン氏は今後、渉外担当の川口均氏、経理担当の軽部博氏を取締役として、チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)のトレバー・マン氏を最高執行責任者(COO)として三菱自に送り込む。いずれもゴーンチルドレンの面々で、一気にゴーン流改革を進める構えだ。

三菱自は“信用の負債”を返済できるか

三菱自は日産と提携し、①共同購買コストの削減②車両プラットフォームの共有③技術の共有(PHEV、パワートレーン、自動運転)④発展途上市場および新興市場でのアライアンスチームのプレゼンス拡大⑤三菱自ユーザーに日産販売金融を活用⑥生産設備の共用といったシナジーを創出することで、まず2017年度で270億円、2018年度で約400億円のシナジー効果を上げ、1株当たり収益を2017年度で12円、2018年度で20円増加させる計画だ。営業利益率では2017年度で約1%、2018年度で約2%、2019年度で2%以上を目指す方針。シナジー効果を早期に取り込み、V字回復を図るプランだ。

まさに、ゴーン流の日産早期復活劇を三菱自に移した感があるが、日産の場合は多額の有利子負債を抱えていたのに対し、三菱自は大きな信用負債を抱えている違いがある。この信用負債の払拭には時間が掛かると見るのは筆者だけではないだろう。

手腕を振るう舞台が整ったゴーン氏

ともあれ、ルノー・日産連合に三菱自が加わることで、1,000万台クラブ参入ということになるが、ゴーン氏は「規模拡大が第一ではなく、グループ間シナジーを最大限生かすこと」が重要とする。また、三菱自のバックにある主力3企業も、日産に対し、3社と日産で51%以上の三菱自株式を向こう10年間保有することで合意し、安定株主化を進めた。

中間決算説明会に登壇した日産共同最高経営責任者の西川廣人氏は、共同購買、工場の共用、プラットフォームの共通化、技術の共有などで三菱自とのシナジー効果を創出したいと語った

自ら三菱自会長を兼任することになるゴーン社長の野望は、「世界トップの自動車メーカーとして君臨すること」だという。かつて日産の復活を果たした時点で、米GMとルノー・日産連合との提携を模索し、GMも巻き込んだトップを狙ったいきさつもある。

あえて信用負債という難題を抱える三菱自の実質的買収に踏み切ったゴーン社長には、三菱自再建の難しさ以上に、三菱グループ(特に三菱商事)との協力関係による飛躍の方が魅力的に映ったのだろう。これをどう生かすか、久しぶりにゴーン氏自らが張り切っている姿が見える。