15年を経たユナイテッドとのJVの現状

ビショフCCO: ANAとのJVは2012年に開始しました。これは、ユナイテッド航空とエア・カナダに継ぐ3番目となりますが、キャパや発着便、目的地に関するすり合わせなど、ANAとのJVは入念な準備をした上でのJVでした。ネットワークそのものもきちんと合わせ、お互いのサービス状況についても学習をしました。われわれもANAのいろんなセールスを組み込んでいきましたし、ANAの方もルフトハンザやSWISSなどのサービス・セールスを組み込んでいきました。そうした取り組みを経て現在、非常に実りあるJVになっています。

ANAとのジョイントベンチャーは2012年に開始した

武藤氏: ルフトハンザではユナイテッドなどともJVを展開されていますが、JVの取り組みはどこの航空会社であっても同じなんでしょうか。それとも、その国や状況によっても違いますか。

ビショフCCO: 直近では、シンガポール航空やエアチャイナともJVをしていますが、やはりそれぞれの市場のニーズによっても状況は異なります。また、今までの背景はどうなのかというところによっても違ってきます。

ユナイテッドを例にすると、提携からもう10年が経っており、協力も非常に深いところまでいっています。例えば、セールスのスタッフ自体をお互いにシェアし合うということもできます。ユナイテッドでは欧州でのユナイテッドの人員を減らし、逆にわれわれのアメリカでの人員を減らすという、お互いがお互いの国で補完しあうということを徐々にやっています。その意味で、日本も含めて他の市場では取り組みを始めてまだ間もないので、15年の歴史のあるユナイテッドとは状況が異なります。

ルフトハンザは2015年11月、シンガポール航空と幅広いパートナーシップ契約を締結し、シンガポールと欧州の主要路線におけるジョイントベンチャーを開始した

ANAとのJVでうまれたもの

武藤氏: ANAを例にすると、旅行代理店との展開よりもそれに頼らない独自のチャネルで航空券を売っていくことを好む傾向があるように思いますが、FIT(海外個人旅行)やコーポレートマーケティングに関して、ルフトハンザとANAを含めた日系キャリアとの違いはありますか。日本における外航の販売活動では旅行代理店が占める役割が大きいとか。

ビショフCCO: それぞれがどのようなプレゼンスを市場の中にもつかによりますが、われわれの飛行機はB747やA380など、全体的に機体が大きいという特徴があります。日本初となるA380就航は、ルフトハンザの成田=フランクフルト線でしたし。一方、ANAの機体はB787とかB777など、われわれよりも小さい傾向があり、用途としてもニーズとしても、使い方が違ってきます。だからこそ、われわれが協力することで、出張などというビジネス利用だけではなくて、個人旅行者や団体旅行者など広くターゲットを求めることができます。

私自身がJVの信条として感じているところは、JVは全てが同じである必要はないということです。JVはお互いに補完しあうべき存在であるべきです。それによって、お客さまにさまざまな選択肢を提供することができます。選択肢というのは発着する場所もそうですし、さまざまなエクスペリエンスを提供するという意味でも言えます。例えば、日本式、スイス式、ドイツ式のおもてなしです。そうした多くのバリエーションを提供できることが、お客さまにとっても一番の魅力となります。お客さまの好みという観点で、お互いに学びあうこともできます。

最近行ったANAとのミーティングでは、「お客さまに対するイノベーションをさらに強化したい」という話をしていました。例えば、ルフトハンザですと機上でのインターネットも非常に充実していますし、預けていただいた荷物に対してデジタル的にタグを貼り付けるサービスも、もうすぐ展開を開始します。これは、アプリケーションをダウンロードすれば、スーツケースをトラッキングできるというサービスです。

電子ジャーナルというサービスもあります。ルフトハンザを利用いただく方には、事前に招待メールが送られ、アクセスすると日本人の方ですと日本語の雑誌とか新聞とか、好きなタイトルを無料で選ぶことができます。搭乗前の地上でも搭乗後にも利用可能ですので、フライトの前にダウンロードすれば、機上WiFiを利用することなく機内で日本語の雑誌を楽しむこともできます。これはまさに、JVによる日本人のお客さまにとってのひとつのメリットだと思っています。

ルフトハンザは業界に先駆けて、有料機内Wi-Fi接続サービス「ルフトハンザFlyNet」を導入

北米と欧州では"ビック4"は事情が違う

武藤氏: SWISSやオーストリア航空、そしてブリュッセル航空の完全子会社などと、ルフトハンザグループの事業戦略はアグレッシブな印象があります。欧州内だけではなく、グローバルなM&Aや個別提携に関する戦略について教えてください。

ビショフCCO: "アグレッシブ"とおっしゃられましたが、私は"アクティブ"コンソリデーションだと思っています。欧州の航空業界の環境をアメリカと比較した場合、アメリカの国内市場はいわゆるビッグ4(アメリカン航空、ユナイテッド航空、デルタ航空、サウスウエスト航空)が80%を占めています。それに対して、欧州のビッグ4(ルフトハンザ、エールフランス‐KLM、ライアンエアー、イージージェット)が、欧州内でどのくらいシェアを占めているのかというと40%程度です。つまり、それだけさまざまな航空会社が欧州内に存在しているということです。

だからこそ、統合が必要になります。それをしてこそ、合理的なキャパシティーを実現していくことができると考えています。またルフトハンザ自体、欧州の航空会社の中では財務的に非常に強固ですので、アクティブにさまざまな統合を進めていけます。もちろん、さまざまな熟考した上でわれわれも行動します。

その意味で、SWISSとオーストリア航空の統合はいい判断だったと思っています。2017年にブリュッセル航空を子会社にするというのも、同じ歩みとなります。ただし、完全な買収は考えていません。また、いろいろな方から傘下にという声をいただいていますが、基本的に投資先は欧州内に集中させています。

武藤氏: ビック4のアメリカと欧州のシェアの違いは、欧州LCCの台頭が大きいと思っています。将来的なLCCとの競争はどのように考えておられますか。

ライアンエアーは欧州最大のLCCで、世界最大級の旅客数を誇る

ビショフCCO: ビック4と言っても、アメリカではサウスウエスト航空があり、欧州ではライアンエアーやイージージェットなどがあるので、すでにLCCは大きな地位を確立しています。そういった中で、われわれも全体的なネットワーク構築を考えていくことになります。

最終的にはジャーマンウイングスとユーロウィングスをどう発展させていくかですが、ルフトハンザグループとエア・ベルリンは、ユーロウイングスに40機のウェットリースを行う意向書を締結しました。まずは、ドイツ国内においてナンバーワンLCCになることを目指し、将来的にはユーロウィングスが欧州LCCのビッグ3に入っていくというのが目標です。

中東エアラインとの差別化

武藤氏: エティハドはエア・バルリンに30%出資していますが、両社との競争は決着しつつあるということですね。欧州路線へは中東エアラインも積極的に路線を拡大しています。そうした中東エアラインに対する今後の戦略は、どのように考えていらっしゃいますでしょうか。

ビショフCCO: われわれとしては、プロダクトとサービスのクオリティーがまず一点、そしてそのプロダクトそのものをさらに向上させていくことがもう一点です。そもそも直行便があるにも関わらず、わざわざ中東を中継する必要があるのか、という議論もあるでしょう。夜のフライトであれば機上で寝ることもできますし、時間を短縮できるため、当然便利性もあがります。

2015年12月には、新プレミアムエコノミークラスを設置した機材を導入

ビショフCCO: そして、世界的にJVを通じてさまざまな選択肢を提供していくことも重要なポイントです。われわれは欧州的な視点や日本的な視点に立つサービスも提供しており、そうした面を総合的にとらえれば、中東エアラインよりも大きなメリットを有していると思っています。

武藤氏: 例えばですが、今後、中東エアラインがルフトハンザが加盟しているスターアライアンスに加わるようになったらどうでしょうか。以前はカタール航空が加盟していましたが。

ビショフCCO: アライアンスは長期的な視点に立って、意義ある関係を構築していくことが大切になってきます。ただ、日本と欧州は端と端で、その間に中東が位置しています。われわれはそれぞれの地にホームとしてのプレゼンスがあり、すでに市場を確立しています。そのため、そこに中間地とパートナーシップをもつ意味がどれだけあるのか、という話になると思います。そうした取り組みを否定するわけではありませんが、われわれはエンドポイントでのJVに集中していくことを考えています。

武藤氏: ルフトハンザとしては、今後の日本の拠点として羽田と成田に関しては、どのように考えていらっしゃいますでしょうか。