羽田も成田も同じだけの情熱を

ビショフCCO: まずわれわれとしては、地上でも機上でもベストのクオリティーを提供していきます。そして、もっと重要なことが、サービスの質が一貫しているということです。例えば、ルフトハンザの長距離線では全クラスで最新のサービスを展開しています。一方、中東エアラインには、ひとつの航空会社の中でビジネスクラスが6種類もあるところもあり、その時々の機材によってサービスの質に差が発生してしまいます。

2014年に羽田=フランクフルト/ミュンヘン線のデイリー運航を開始した

ビショフCCO: 羽田は再国際化したことは、お客さまにとって大変メリットの大きいことだと思います。位置的にも都市に近いですし。一方、成田は成田で非常に機能性の高い空港で、インフラとしてのキャパも非常に大きいです。その意味においては、どちらに対しても同じだけの情熱を注いでいくことになります。

お客さまに対するコネクションという意味においては、羽田に対してはANAを中心に国内線にコネクションするのが中心になっており、成田に関してはフランクフルトやチューリヒなどから成田に運航しています。また、成田には多くのグループ旅行者が利用しています。もちろん今後、羽田の発着がどんどん増えていくことは好ましいことだと思いますが、その一方で、羽田にはインフラ的に限界があると認識しています。ですから、成田に関しても同じように東京の重要なインフラとして継続的に投資をしていきます。

武藤氏: 羽田のインフラにはカーゴのネットワークの確保などの課題もあるかと思うのですが、日本における貨物に関しての戦略提携のあり方を含め、どう考えていらっしゃいますでしょうか。

ビショフCCO: ルフトハンザグループにおいて、日本と欧州間のカーゴビジネスは非常に大きいものです。MD-11が11機、777が5機、そしてANAカーゴやエアロロジックともJVをしています。ただ、ANAカーゴに関しては2015年にJVを開始したばかりなので、関係を構築していくにはまだ時間がかかるでしょう。

武藤氏: その意味でも、成田という拠点は引き続き重要なわけですね。関空、中部および他の空港に対する今後の展開の見込みはいかがでしょうか。

ビショフCCO: キャパ的には羽田の就航が始まったため、羽田への比重が大きくなっていますが、細かいところは調整が必要です。現状、羽田/成田/関空/中部など直行便がある路線に関しては、そのまま維持を考えています。そうした地域の経済状況やニーズを見て、調整していくことになります。

欧州から日本に進出している航空会社として、われわれは最大の企業であることを誇りに思っていますし、皆さま方が思っているよりも、われわれは日本的です。日本の経済や日本の旅行業界の発展のために、さまざまなサービスなどを通じて発展していきたいと思っています。


―対談を終えて(武藤氏)―

日本人比率を高める必要性

筆者は、ルフトハンザの戦略について従来"強者の論理"という認識が強かったような気がするが、今回のビショフCCOとの日本対談においては、比較的静かな戦略が語られたと感じられた。彼の言う「Lufthansa is more japanese」とは、後に「than every japanese is thinking.」と続くのだろうが、彼らが日本路線で展開している"日本的な"サービスラインナップがもっと地元で認知され、もっと日本人比率を高めていきたいとする気持ちは強く伝わった。

「日本人比率を高める必要性」は、欧州=日本間の旅客流動が日本側に比重がかかる構造になっていることから始まっている。米国にとって日本がアジアとの間をつなぐ中継地の役割があるのに対し、欧州にとっては様相が違い、日本は最終目的地だ。日本以遠の目的地としてはオセアニアもあり得るが、日本経由以外にも中東・アジアなど他の選択肢があるためだ。

欧州からすると、日本は最終目的地となる

となると、日欧間の主力はPoint to Point需要であり、これは両地域間のビジネスと観光需要がどう動くかで決まる。日本人からはヨーロッパ各地がメジャーな観光目的地であるのに対し、欧州の人々にとっての観光旅行と言えば、東南アジア等に多くの魅力的な行き先があり、あえて遠い日本を選ぶ必要はないと考える人も少なくない。従って、日欧間の航空需要は日本人比率が必然的に高くなる。この結果、欧州側エアラインにおいても、自国の旅客を摘み取るだけでは座席を埋める=経営を成り立たせるのが難しくなる。

とは言え、欧州側にとっては日本人観光客を多く乗せるだけではダメで、やはり日本への自国ビジネス需要の基盤がしっかりしていないといけない。この辺りに、メガキャリア以外の欧側エアラインの日本路線がなかなか定着しない事情がある。

比較的路線としての優位性があるのは北欧各国で、効率的な飛行ルートで欧州の入口にあるため各国への乗り継ぎ便の運航効率が良く、日本から10時間程度の飛行時間であるヘルシンキ便などでは、1日24時間で往復して戻ってこられる。このことで、機材の効率性(1路線に1機を引き当てるだけで良く、乗務員の勤務制限も少なくなる)が高まるため、路線の損益分岐点が下がるという効果がある。今般、日本に再参入したイベリア航空はこのような運航コスト効率が得られない環境下で、どれだけ健闘するのか興味深い。

「LCC」「中東」との戦い方

話をルフトハンザに戻そう。欧米日での強力なアライアンスを構築し、世界で磐石な事業基盤を構築してきている彼らの数少ない頭痛のタネは、「LCC」と「中東」と言われてきた。欧州におけるライアンエア、イージージェットのLCC2強との競争においては、フランクフルトとミュンヘン以外の路線移管をしたジャーマンウィングスをさらにユーロウィングスに統合する方針を発表し、スケールメリットによるコスト競争力強化を目指している。

ビショフCCOは、将来的にはユーロウィングスがライアンエアやイージージェットと並び、欧州LCCのビッグ3を目指すと語った

ただ、ビショフCCOも言っているように、真っ向からの価格勝負では勝算は厳しいことは認識しており、欧州内航空会社とのM&Aを進めつつ、ネットワーク競争力とサービス品質を掛け合わせた総合的な割安感、利便性で対抗していくという考え方のようだ。2強との消耗戦をするよりは、その他の中小航空会社の統合・淘汰を進め、全体的な欧州航空市場の整備を図る(市場を荒らさせない)ことで経営の安定を目指そうとしているのではないかと感じられた。

日本には羽田枠の制約という特殊事情があり、LCCのシェアが上がりにくい構造になっているが、欧米におけるLCCとFSC(フルサービスキャリア)の競争と住み分けが刻々形を変えて進化する中で、それがどのような形で日本の航空業界に及んでくるのかを注視しておきたい。

それでも旅客が中東を視野に入れる理由

中東との関連では、CCOが欧州、中東、日本を地図で殴り書きしながら「日欧間の航空ビジネスに中東が絡む必要も合理性もない」との決然とした話しぶりが印象に残った。確かに、パリ・ロンドン等主要都市への日本からの所要時間を見ると、中東経由の場合は片道7~8時間余計にかかる。

到底、日本人ビジネスマンが使うはずもないと考えられていたが、異変はここ3~4年前から起こり始めており、イタリアやスペインへはドイツ、フランス経由よりもUAE、トルコなどを経由するビジネス客が増えてきたのだ。欧州の混雑空港で欧州内行きの小型機に乗り換えるよりも中東経由のゆったりした機材・座席でもいいとの考えが、中東経由のビジネスクラス運賃が安いこともあって日本人にも広がりつつある。欧州ハブ空港からの乗り継ぎ便を中心とした、日本・欧州JV(ジョイントベンチャー)と中東各社とのプレミアムクラス旅客の奪い合いは今後も続くのだろう。

欧州には、ターキッシュエアラインズも積極的に路線を展開している

観光客(エコノミー席)については、より中東の影響が顕著だ。日本からのヨーロッパ行きツアーを選ぶ時には、旅行者はまず日にちと費用を考える。比較サイトを開くと一番上に出てくる(価格が安い)のは中東経由便だ。検討を始めてよくよく見てみるとやたら時間がかかるのが分かってくるのだが、「中東のエアラインは機材もサービスもいいらしい。一度は経験してみるか」「中東の空港も見てみるのも面白いかも」などの感覚と相まって、若者を中心に売れている。ルフトハンザとしては、大きな機材のエコノミー席を埋めるのに日本の旅行会社に依存する部分は大きく、中東各社の低価格との競争は頭が痛いところだろう。

日本路線以上に激戦となるアジア・オセアニア路線

また、ビショフCCOは多くを語らなかったが、日本線以上に中東との競争は欧州=アジア・オセアニア方面の路線では厳しいものがあるだろう。スターアライアンスパートナーのいるタイ、シンガポール経由のコードシェアがどこまで機能するかは、パートナーのネットワークや乗り継ぎ時間の利便性に左右される。自社ベース基地に到着・出発のピークを並べる(バンクという)中東勢とは、所要時間のメリットもつけづらい。

ドイツ内において、エティハド航空と資本提携し事業再建を図るエア・ベルリンとの競合は、同社の機材50機をウェットリースでユーロウィングスに導入することで合意し、中東エアラインの来襲を一程度"撃退"した感がある。しかし、アジア・オセアニア全体を見渡すと、欧州・アジア両側の各国の需要・路線を中東ハブでまとめて乗り継がせることで高いロードファクターも確保できる中東勢との厳しい競争は、今後も続くことになろう。

エア・ベルリンとの関係にも手を打つ戦略を展開

一方、ANAとのJVは順調に進展していることがうかがえる。当初は通常のコードシェアと違って、お互いに売り上げた収入をプールして一定のルール(なかなか当事者会社以外には仕組みが開示されない)に基づいて分配する方式が分かりにくく、「自社運航便を売っても相手便を売っても同じことなのか」「それでは自社への誇りや愛着はどうなる」などの声も聞かれたが、必要な修正も行われ次のステージに入っていくものと思われる。

ルフトハンザとユナイテッド航空の間で行われている「相手国での販売体制のアウトソーソング」は、日本での代理店に対するANAとの販売方針の違いもあり難しそうだが、顧客サービス面の知見の共有なども進みそうで、今後の進化を見守りたい。