この「社会参加」をヒントとした取り組みを実践したのが愛知県武豊町だ。5年間で高齢者を外出させるようにし、健康格差を縮小させた。中心的役割を担ったのが、高齢者の身近な健康づくりの場である「憩いのサロン」。参加者は、参加費用100円で近隣住人とのおしゃべりと手や体を使った簡単な体操などを体験でき、自身の健康維持に役立てている。

同様の取り組みは全国で実施されているが、武豊町の場合、年間での参加者が1万2,000人(2015年度)と多いうえ、一人暮らしなどの要介護になるリスクが高い人が来るという特徴がある。実際、要介護リスクのある人の参加率は2%で、全国の介護予防教室の平均数値(0.8%)の2・5倍になっている。

サロンの年間の事業費として武豊町は630万円を計上しているそうだが、介護給付の抑制費は1,500万円と試算されており、財政上のメリットも大きい。町民と武豊町にとってウィンウィンの施策と言える。

イチロー・カワチ教授は、このように人のつながりを生む力を意味する概念「ソーシャルキャピタル」に注目している。地域の人が信頼しあい、困ったときに助け合える関係が築かれているような地域は、「自分は健康」と感じている住民の割合が高いというデータも得られているとのこと。人と接することで、何気なく体を動かし、食生活を気遣ってもらえ、近所の医療機関の情報をもらえるからだ。この「つながりの力」こそが、健康格差縮小のヒントになるのかもしれない。

健康格差はどのように縮小・解消されるべきか

番組内では、有識者と一般参加者を交えた討論の様子も放映されていた。国立長寿医療研究センター部長で千葉大学の教授でもある近藤克則氏は「命の格差は自己責任だけでは解決できないほど社会に根ざしている問題。もう少し長い目、広い視野で健康の原因をとらえなおして、政策や実践を見直すべき」と指摘した。

元厚生労働省 健康局長だったいう佐藤敏信氏は、厚労省時代に国民の健康づくりのために減塩や検診などを呼びかけてきたと話した。ただ、首都大学東京の阿部彩教授からは「(そういった)啓発だけでは全然足りないのではないか」との声が飛ぶなど、さまざまな立場の参加者がおのおのの意見を述べていた。

また、インターネット上でも番組に対する多様なコメントが書き込まれていた。まず、肯定的な意見としては「足立区の取り組みがすばらしい」「健康をサポートする薬局が果たすべき役割を再度考えさせられる」「イギリスの塩分など、成功した取り組みを多く紹介してくれてわかりやすい」といったものが見られた。

一方で、「健康格差は自己責任と社会の両方で解決すべき問題なのでは」といった持論を展開する人や、「野菜と果物が体にいいことはわかっているが、庶民には高価なので国に配給してほしい」「貧困による健康格差の話はシャレではすまない。自分や友人も心配」などのように現状を憂慮する人もいた。

健康格差を解消すれば、10年間で社会保障費(医療・介護)が5兆円も削減されるとの試算があるという。社会保障(医療・介護)給付費は2025年には73兆円にもなると推計されている中で、この金額は看過できるものではない。

個人の健康意識に訴えることも重要なのは間違いないが、金銭的な事情で野菜や乳製品、大豆製品などを摂取できない人がいるのも事実だ。特に対象が経済力を持たない子どもなどの場合、自分の力でどうにもすることができない部分もあるため、行政側が一定レベルのセーフティーネットを設ける必要性はあると考えられる。

そして、この問題は国民全員に係ってくる問題でもある。社会保障費が高騰し続ければ国民皆保険が機能しなくなる可能性もあるし、今は金銭的余裕があっても今後、突然職を失うリスクは誰にでもあるからだ。

佐藤氏は健康に関わる要因などの科学的データを今後も継続的に集めたうえで、「医療あるいは健康のデータベースに基づいて行政を進めていくべき」との見解を述べた。行政サイドのこのような取り組みと並行して、私たちが健康格差を人ごとと思わず、自らにも関連のある問題として意識を持つことも、「つながりの力」同様に格差を縮小・解消するための手がかりとなるのではないだろうか。

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