子育てをがんばっているのは、人間だけではありません。この企画では、千葉県・鴨川シーワールドで生活する生き物たちの出産・子育てを紹介。親たちの奮闘ぶりや、その不思議な生態まで、飼育員が詳しく解説します。1回目は「カクレクマノミ」の産卵・子育てについてです。

群れの中で誕生する夫婦は1組だけ

カクレクマノミのペア

映画「ファインディング・ニモ」でおなじみのカクレクマノミは、鹿児島県・奄美大島以南に生息するクマノミの仲間です。オレンジ色の体に3本の白い帯、黒くふちどられたひれがあるのが特徴で、成長すると9cmほどまで大きくなります。

海の中で外敵から身を守るため、イソギンチャクをすみかとしていることで知られています。そして、実は性転換をする生き物でもあります。成魚になった群れの中で最も大きい個体がメスとなり、2番目に大きな個体がオスとなるのです。そのため、群れの中で誕生するペアは、なんと1組だけです。

鴨川シーワールドでは、トロピカルアイランドと呼ばれるエリアのサンゴ水槽で、カクレクマノミを飼育しているのですが、ペアに卵をうんでもらうためには、環境づくりが欠かせません。イソギンチャクと一緒に飼育をしたり、卵をうみやすい丸い岩を近くに置いたりすることで、産卵しやすい環境を整えています。

卵の世話はオスの仕事

うみ付けられた卵はオレンジ色をしている

産卵が近づくと、メスは卵を抱えるために、おなかが大きくなってきます。卵をうみつける岩は、産卵前に、オスとメスできれいにクリーニング。汚れを取り終えると、メスが岩に卵をうみ付け、オスが放精します。これらの行為は約1時間にわたって繰り返され、400卵ほどがうみ付けられます。

卵をうみ終えたあとの世話は主にオスが行い、胸びれなどを使って新鮮な海水を卵に送るなど、ふ化するまでの約10日間、卵を見守り続けます。

子どもは外敵の少ない夜にうまれる

ふ化したばかりの稚魚は体長4mmほど。"卵黄"と呼ばれる、栄養が蓄えられた袋を腹部に付けてうまれてきます。しかし、この卵黄は3日ほどでなくなるため、自然界では海流にのって水の中を漂いながら、プランクトンを食べて成長していきます。

シーワールドでは、サンゴ水槽で卵がふ化すると、稚魚が他の魚に食べられたり、水槽から流れ出たりしてしまうため、ふ化直前に卵を岩ごと取り上げ、育成用の水槽へと移動させます。移動後、そのままの状態ではふ化しないので、ポンプを使い、人工的に卵に水流をあてて海水を送ります。

育成用の水槽

ふ化した子ども

シオミズツボワムシ

アルテミア

卵がふ化するのは外敵の少ない夜。そのため、水槽の上に黒い布をかぶせ、照明を消すことで夜の状態を作ります。すると2時間ほどで、卵から稚魚がふ化します。卵黄がなくなった後は、動物性プランクトンのシオミズツボワムシを与え、成長するにつれて、口の大きさに合わせたアルテミアなどにえさを切り替えていきます。

2週間ほどで親と同じ体に

イソギンチャクと暮らす子どもたち

稚魚はうまれたあと、約10日で体に白いラインが現れ始めます。そして、2週間ほどで親と同じ体の色へと変化。シーワールドでうまれた子どもたちはその頃から、イソギンチャクとの生活が始まります。

筆者プロフィール: 村口 直弥

鴨川シーワールド魚類展示課の飼育員。2010年の入社で、主に熱帯に生息する魚等の飼育を担当している。魚類飼育歴は5年。