この夏、小田原~伊豆急下田間でデビューするJR東日本の新しいリゾート列車「IZU CRAILE(伊豆クレイル)」。7月16日の運行開始を前に報道関係者向け試乗会が行われ、「あえて"ゆっくり行く"リゾート列車」というキャッチコピーを体感することができた。

651系をリニューアルしたJR東日本のリゾート列車「伊豆クレイル」

車窓に広がる海の景色 - ビューポイントで徐行運転も

今回の試乗会は小田原駅からスタート。本来の運行では2番目の停車駅となる伊東駅までというコンパクトな区間で実施された。

小田原駅で最初に案内されたのは、改札内コンコースにオープンする「IZU CRAILE LOUNGE」だった。「伊豆クレイル」利用者専用の休憩スペースで、出発時刻の10分前まで利用できるという。小田原産の木材がふんだんに使われた落ち着いた空間に、沿線の工芸品の展示などもあり、出発までのひとときをゆったり、かつ退屈せずに過ごせそうだ。

小田原駅の改札内コンコースに設置された「IZU CRAILE LOUNGE」

小田原駅ではホームから見送りも行われた

車体色とライン、ロゴが女性的な印象

続いて3・4番線ホームへ移動し、「伊豆クレイル」の入線を待って外観の撮影会が行われた。「伊豆クレイル」は特急形電車651系をリニューアルした4両編成。ジュエリーを思わせるピンクゴールドと白を基調としたエクステリアに、伊豆ゆかりのモチーフである「桜」「海風」「さざ波」がライン状に描かれている。列車名の頭文字を組み合わせたエレガントなロゴも配され、フェミニンな印象だった。たまたま同じホームに居合わせた婦人グループ数組が立て続けに興味を示し、駅員から説明を受ける場面もあり、女性へのアピール度は抜群といった印象だ。

車内ではまず4号車に案内され、その後、駅員の見送りを受けながらの発車となった。4号車は回転式リクライニングシートと固定式ボックスシートを配置し、座席数は計52席。乗車券と指定券で利用可能だ。食事付きの旅行商品として販売される1・3号車とは異なるエコノミーなクラスだが、質感の高いインテリアでリゾート列車のムードを気軽に楽しめる感覚だった。海側には青、山側には緑のシートが配され、それぞれエクステリアと共通のモチーフがデザインされている。通路のカーペットは、川面を流れる桜の花びらをイメージしたとのこと(1~4号車共通)。

「伊豆クレイル」4号車の車内

車窓に広がる海の景色を楽しめるようにと徐行運転が実施される

列車が発車した後、筆者は2号車へ移動することに。小田原駅から10分ほどの根府川付近では、景色を楽しめるように徐行運転が行われる予定となっており、この日もシミュレーションされた。試乗会当日はあいにくの雨模様だったが、2号車のワイドな車窓いっぱいに海の景色が広がり、目が釘付けに。なお、東伊豆海岸線をのぞむ伊豆熱川~伊豆稲取間の一部区間でも、徐行運転や一旦停止が企画されているそうだ。

2号車はバーカウンター&ラウンジで、沿線の人気店「箱根ベーカリー」製のサンドイッチ、伊豆特産のニューサマーオレンジを使ったタルトをはじめ、スナックやフードメニューなどが販売される。あえて食事の付かない4号車を選び、これらのフードを気ままに楽しむのもアリだな……と思った。その他にも、お土産として伊豆の特産品や伝統的な食材、「伊豆クレイル」オリジナルグッズとして「かまわぬ」の手ぬぐいや「鎌倉四葩」のあぶらとり紙など、女性が思わず手に取ってしまいそうな品々が並べられていた。

「伊豆クレイル」2号車はバーカウンター&ラウンジ

バーカウンターでは沿線のフードメニューを用意

お土産に特産品やオリジナルグッズの販売も

より記憶に残る体験を提供する1・3号車

根府川付近での徐行運転を体験した後は、自由に車両を移動しての撮影会に。筆者はびゅう旅行商品として発売される1号車・3号車へ向かった。

1号車は海側に面した2名用カウンター席と、山側の2名用向かい合わせ席が配置された計24席。開放的で広々としたスペースを実現しながらも、たとえば海側のシートはカウンターに向かって平行ではなく、少し内向きになるように配置されるなど、2人で過ごす空間も大切にされていた。山側の席では、海の景色を楽しめるように床面を少し高くするといった心配りも。木製のひじ掛けがラグジュアリーだ。

「伊豆クレイル」1号車カウンター席(海側)

「伊豆クレイル」1号車向かい合わせ席(山側)

山側の席の床面を高くすることで視界を確保している

「伊豆クレイル」3号車はコンパートメント席

3号車はコンパートメント席で、定員は22名。全室が海側に面していて、シートは西伊豆の夕日をイメージしたオレンジ色となっている。間仕切りには沿線や伊豆の花木をモチーフとした暖簾が使われていて、風流だ。ちなみに暖簾のデザインは季節ごとに変わるという。この日、1号室には箱根町のハコネバラの暖簾が掛けられていた。

びゅう旅行商品では、この1号車・3号車にランチやアフタヌーンカフェをセットにして販売している。いずれも女性に人気というフレンチレストラン「モルソー」のオーナーシェフ、秋元さくら氏が監修した料理で、伊豆の食材を活かした美味しいものを少しずつ何種類もいただける、彩りも華やかなメニューとなった。

下り列車(小田原・熱海発)では「クレイルスタイル・サマーランチセット」(ワンボックスランチ / オリジナルスイーツ / 伊豆クラフトビールまたは伊豆のソフトドリンク / コーヒー / ミネラルウォーター)、上り列車(伊豆急下田発)では「クレイルスタイル・アフタヌーンカフェセット」(ウェルカムドリンク / ライトミール&スイーツのアソート / コーヒー / ミネラルウォーター)が提供される。

今回の試乗会では、下り列車で提供される「クレイルスタイル・サマーランチセット」のワンボックスランチの中から、「伊豆野菜を包み込んだバロティーヌ」など一部を試食することができた。どれも車内で食べやすいように工夫されており、常温で食材の風味がよく引き出されているのが印象的だった。

「クレイルスタイル・サマーランチセット」

「クレイルスタイル・アフタヌーンカフェセット」

列車は伊東の海岸線沿いを走る

伊東駅に到着。ホームの待合室も「伊豆クレイル」仕様に

やがて「伊豆クレイル」は海岸線沿いを国道135号線と並行して走り、試乗会の目的地である伊東駅に到着。ホームの待合室は「伊豆クレイル」のロゴでおめかしされていた。本来の運行では、このあと伊豆急行線を走って伊豆高原駅・伊豆熱川駅・伊豆稲取駅・河津駅に停車し、伊豆急下田駅が終着駅となる。

今回の試乗を通じて、目的地に至るまでの「伊豆クレイル」での体験は、旅の重要な1シーンとして記憶に残るだろうという感想を持った。伊豆での旅に加え、非日常的なリゾート列車での「伊豆からの旅・伊豆までの旅」は、「あえて"ゆっくり行く"」価値を存分に感じられる。正直なところ、もっと列車に乗っていたいくらいだった。