基幹区間がJAL多勢からANA多勢へ

この「基幹区間での選択の幅を広げる」と考える基幹区間は、「日本=相手国首都、主要直行観光地」のことである。その先に続くフィーダー路線については前述のように、乗り継ぎ便として同じレベルの運賃で選択肢を設定できるのだから大きな差はない。この意味で、日本=ベトナム間の基幹ルートの便数頻度が現状のJAL多勢からANA多勢に大きく逆転するのは、ANAにとっては大きな魅力と映ったのであろう。

日本=ベトナム間の基幹ルートの便数頻度を勝ち取ることにメリットがある

反面、117億円という少なくない規模の戦略投資がその価値を発揮するには、コードシェア相手をJALから奪うというだけではなく、どれだけANAの事業戦略にとってそれ以上の大きな付加価値をもたらすかが焦点となると考えられる。前述したミャンマーの新会社アジアンブルーは国内線を運航しないというが、該社は今後、先発・強大な相手国エアライン、例えばスターアライアンスメンバーのタイ国際航空、シンガポール航空(シルクエア)等とも競合関係になる。ヤンゴンを起点に、ベトナム航空とどのような協調関係を築けるのかもそのひとつだろう。

また、ASEANにおけるANAの戦略を考えると、次なる市場として重要視されるのはカンボジア、ラオス、バングラデシュという国々になろう。JALに課せられた「8.11ペーパー」がこの後、どのような変遷を経て2017年3月末の期限を迎えるかでまた変わってくるだろうが、ここではJALとの市場での影響力・支配力を巡るより激しい勝負になろう。ASEANでの企業提携全体の構図にいかにプラスの影響を与えうるかが、今回の出資の価値を決める大きな要因と言える。

ネットワークキャリアの買収がダイナミックになる訳

世界では大きな合従連衡だけでなく、個別のエアライン間の資本関係による市場支配は多く見られる。エティハド航空は潤沢な資金力を背景にエミレーツ航空との距離を縮める路線拡大戦略をとっているが、大きなシェアで提携したアリタリア-イタリア航空やエア・ベルリンの再建は、思惑通りには進んでいないのが実情だ。

ただ、エティハド航空の本来の目的は、両社が運航する路線を自社ネットワークに取り込んでコードを張ることで、一挙に数十地点の新しいデスティネーションを増加させることにある。そして、その効果は出発側の既存の全アジア各地点に及ぶことになり、それがアジア・EUとも20地点ずつとすると一気に400もの新路線ができるわけだ。ただしこれは、アブダビでのコネクティビティが確保できるダイヤが組めることが前提になる。ネットワークキャリアの路線買収戦略は、このようにダイナミックなものになるのが一般的だ。

エティハド航空のようなネットワークキャリアは、買収を機に一気に新路線を取り入れていく戦略をとる傾向がある

自社の乗員等のリソースに限界がある以上、コードシェアによる自社ネットワークの強化は、有効なネットワーク=競争力拡充の方策と言える。今回のベトナム航空の事例もその一端にあることは間違いなく、世界各地での両社および同盟各社の動向に今後注意深く目配りすることが必要になってきていると言えよう。ANAとベトナム航空のコードシェアやマイル加算は10月30日の冬ダイヤからとなるが、今後、日本の2大キャリアがどのような競争や提携における変化のビジョンを描いているのか、注目していきたい。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。