「家は資産である」とは、ことあるごとに私が述べてきていることです。平均的な日本人にとって家は最大の資産です。最大の資産を正しく資産としてとらえないと、資産が果たす役割を果たせず、必要な時に有効に働かない場合もあります。

家賃を払い続けなくても済む、貸したり売ったりして金融資産に変換できるなどのお金に換算した資産としてもとても重要ですが、住まいとも言うくらいで、家の資産価値はそれだけではありません。大きな資産である以上、その価値を高く維持することが大切になります。

そもそも家の役割と価値って何?

家の役割とはどのようなものがあるか考えてみましょう。価値が高いとはその役割能力が高いことを意味します。いくつか例を挙げてみましょう。このほかにもその家族特有の役割もあるかもしれません。

家の役割と価値

家は災害に強く、安心して暮らせるものでなければなりません。また、家族構成が変わった場合でも住み続けられる間取りや設備の汎用性も大切です。あまりに建てたときのこだわりが強すぎると、当初は良くても次第に使いにくくなり、世代が変わったり、貸したり売ったりするときにも支障が出かねません。

資産価値の高い家とは?

家の役割と価値を考えて資産価値の高い家とは具体的にどのようなものが考えられるでしょうか。実家に近いなどは一代限りの価値でしかありません。ただし子育て等の支援を受け、思う存分働ければ、場合によっては当事者にとっては資産価値が高いと言えなくもありません。しかし、それでも一般的な価値についても同時に検証する必要はあります。

資産価値の高い家

地震などの災害リスクの少ない地域であることが家の資産価値の最大のポイントです。日本はまれにみる地震国です。島国で沿岸部は津波の被害を避けて通れません。しかし大きな平野部は沿岸部に集中しています。また地域が比較的安全でも敷地の周辺環境もとても重要です。建物の敷地が崖の上や下、河川のそばなどは安全確認が必要です。

その上で、建物の構造がしっかりしていて長持ちすることが資産価値の高い家となります。また長持ちさせるには維持管理が重要です。万一建物に不具合が生じても設計図書がしっかり作成保管され、新築時やメンテナンス時の工事写真が残されていれば、問題追及がやりやすくなります。認定長期優良住宅は資源保護、環境保全、経済的効果などを期待して、200年程度使い続けられることを目指していますが、認定されるには、維持管理や図書の保管が義務付けられています。

立地条件がよく、だれでも住みたくなる間取りや設備を有していて、記録がしっかり残っていれば、有利に売却が可能です。認定住宅であればそれを前提に付加価値を付けられ、買主が認定を継承することもできます。

資産価値の低い家とは?

資産価値が低い家は、当然資産価値が高い家の反対の要素を持つということになりますが、少し違った切り口で考えてみましょう。

同じ役割と価値を持つ家なら、安く手に入れた方が資産価値の高い家ということになります。安かった分の差額の価格は金融資産として別途維持できるからです。また同じ価格の家ならば、構造体により多くを投資した方が資産価値の高い家と言えます。カーテンの柄や素材にこだわって高いものを購入しても資産価値はさして変わりません。高い豪華なシステムキッチンも料理教室を開くのでなければ、あまり意味がないでしょう。むしろ料理の腕がある人ほどシンプルなキッチンを好みます。

それよりも構造体をワンランクアップしたほうが長持ちして、資産価値は高まります。建物のコスト配分は資産価値の上で重要な要素です。価格と間取りなど、同程度で、片方のキッチンが特別に豪華だったとします。あなたはどちらを選びますか。キッチンの豪華さに目を奪われるほうが多いのではないでしょうか。しかし、キッチンが高額な分、目に見えないところにコストを節約しているかもしれません。資産価値の高い住まいとは、見た目の豪華さよりも構造体に絵金がかかっていることが大切です。

安心して暮らせる地域と環境にあり、堅固な構造で万民のニーズに近い間取りと設備、かつ維持管理が万全、それらを図書や写真で証明できる……資産価値を長く維持するには長丁場なのです。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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