昔から「一人扶持は食えないけど、二人扶持は食える」と言われてきました。独身の時はカツカツで、やっと食べていく程度で貯金もできないけど、結婚して二人になると(妻が専業主婦でも)なんとかやっていけて貯金もできるというような意味ですが、なぜそうなるのかを検証してみると、独身でいるリスクと対策が見えてきます。

働き手が二人いる

住まいの購入費や光熱費、家具調度品の購入費は一人でも二人でもさほど変わらないのに、収入が一人分しかなければ、初めから貯蓄額に差がつくのは当然です。

結婚が遅ければ、子供が独立する前に定年が来てしまうかもしれません。住宅ローンと子教育費が重なり、苦しい時期が続くかもしれません。将来ずっと独身であれば、家族で助け合う部分をお金で解決しなければなりません。

住宅を早めに取得して繰り上げ返済等でローンを早めに返済するとか、養育費・教育費相当額を余分に貯蓄するなど、早くから独身リスクに備えておきましょう。若ければ貯蓄額の一定部分を多少リスクはあっても利回りの良い投資も可能でしょう。

下図は「運用の価値時間」のメリットを図にしたものです。Aさんは若い時に投資をスタートさせ、子育て期以降は、新しく資金を拠出せず、それまでの投資額の運用だけを継続しています。一方Bさんは若い時は怠けていて、子供ができてあわてて資産形成をスタートさせました。二人とも65歳で1,000万円手にします。

しかしBさんの投資金額はAさんの倍にもなり、かつ支出が多い子育て期に行わなければなりません。「運用の価値時間」とは、時間がお金を稼いでくれることを意味します。Aさんが30代以降も引き続き20万円ずつ拠出すれば、当然65歳には2,000万円手に入れられます。

不利な年金体制

給与と年金。働いている間は、共稼ぎと比べれば別ですが独身でもさほど生活レベルの差は感じないと思います。むしろ独身貴族と言われ、自由にお金を使える立場です。妻への出費もなく子供の教育費の心配もありません。しかし年金生活となると、それは一変します。夫婦にはもう子供の教育費を心配する必要はありません。むしろ万一の時には子供からの支援が期待できたりします。生活費も老後はさほど欲しいものもなく、二人分でも食費の増加はたいしたことはありません。

一方夫婦の年金は、妻の基礎年金がある上に、夫の年金に配偶者の上乗せがあります。支出はさほど差がないのに年金収入には差がつくのです。老後のこの差は大きいものがあります。

配偶者の加給年金額……夫(妻)が厚生年金を受給する際に妻(夫)が65歳未満の場合は、配偶者の年金に加給年金と特別加算が合計約40万円支給されます。

遺族年金額……女性のケースで考えて見ましょう。現在は表向き男女同一賃金ですが、昇進に差があったり、パートや派遣の仕事しかなかったりして、実際の生涯賃金は男性の55%程度であった昔からあまり変わっていないと思われます。つまり年金額もそれに比例しているということになります。

一方同じ女性でも専業主婦はどうでしょうか。一般に夫が亡くなってから10年程度の独身時代が女性にはあります。夫がサラリーマンであったら、妻には遺族年金が支給されます。遺族厚生年金額は夫の厚生年金額の75%です。それに自分の基礎年金が加わります。つまり、税金(基礎年金の半分は税金からの拠出です)も保険料も支払っていなく、むしろ配偶者控除で夫の所得税が少なくて済む専業主婦のほうが、一生懸命働いて、所得税も保険料も支払った女性よりも年金額が多くなるのです。

さらに遺族年金には所得税が掛かりません。さらに所得税ゼロは健康保険料などにも反映されます。自分自身の厚生年金よりも多額の遺族年金を受給していても、遺族年金受給者の遺族年金部分の所得税はゼロなのです。自分自身の厚生年金はそこから所得税も健康保険料も差し引かれます。

若い時からリスクに備えよう

独身リスクは、とにかく万一の場合のフォローの手段が少ないことです。怪我や病気、失職、老後の介護などに家族の支援は得られません。高齢者施設に入居するにも保証人の確保に苦労することになります。兄弟と仲が悪かったり、既に高齢であったりすると、甥や姪に頼まなくてはなりませんが、引き受けてくれるとは限りません。

そのようなニーズに対応する会社もありますが、何かあったときの対応は24時間です。会社が24時間対応してくれる体制になっていなければ、希望の施設にも入れません。お金で解決する事が多くなりますので、貯蓄は働き始めたらすぐに準備をスタートする必要があります。独身貴族なんて言っていられません。結婚してもそのお金は、より良い人生のために有効に使えます。

このまま独身だと思ったら老後とともに暮らす仲間を作るのも良いでしょう。シニア版シェアハウスです。私は高校から寄宿舎生活でしたので、当時の同年齢の仲間たちとは若い時から独身、既婚にかかわらず「老後は助け合いながら共に暮らせたらいいね」と話し合っていました。女性のほうが長生きですので理論的には可能でしょう。

何しろ共同生活は実証済みの仲間ですので、簡単に暮らしがイメージできます。実現は難しいでしょうが、これからの時代はそうした暮らしも注目されていくように思います。今の若い世代は、そうした将来も見据えて、若い時からシェアハウス生活を経験しておくのも良いかと思います。同じ釜の飯を食べた仲間は格別です。

サイドビジネスでリスクに備えよう

上記の給与と年金のところで述べたように、高齢になって第一線で働けなくなった時は相当格差を感じるはずですが、その上に医療費も増える年代です。介護は100%お金で解決しなければなりません。また、病気等で今までの仕事を続けられなくなるような事態もゼロではありません。寝たきりでないかぎり、自宅でできるような仕事のスキルとルートを確保しておけば安心です。若い間はスキルアップを中心に考え、収入はとんとんでも、自分が趣味の延長のように楽しめる分野を選ぶと良いでしょう。仲間を作って助け合うと本業とのやり繰りもしやすくなります。

建築の分野は特に友人の仕事の図面作成を手伝ったりするようなことは普通にあったように思います。友人などの話では一般職で給与が少なく、昇進の見込みも薄い女性などは土日を利用してアルバイトのネットワークができていたそうで、私も誘われた事があります。総合職でなければ、定時に帰りやすく、月に何回かの副業は体力的にもさほど無理も無く、むしろ気分も変わってさほど負担ではなかったようです。

以前私が入居していた東京都のインキュベーションオフィスの利用者の20%はサラリーマンだそうで、施設の運営側も驚いたそうです。今でもサイドワークは普通にあるということではないでしょうか。家庭に費やす時間は不要ですので、週末起業をスタートさせる時間はあると思います。今の時代ブログという発信装置もあります。

お金に関するレポートやコラムを書いていてつくづく思うのは、今の時代はとにかく贅沢すぎることです。アパートは風呂無しから3点セットになり、トイレ別になり、今では浴室乾燥機付が普通だそうです。私が独立した時ももちろん洗濯機は普通にありましたし、住まいを新築する時は乾燥機をつけるケースもあります。しかし、私は手洗いからスタートしています。もちろんお風呂もありません。歴史を振り返れば、いつの世も若者は先行き不安です。安心していた時期はほとんどありません。私が新卒で入社した会社はその1年前まで、女性の定年は35歳でした。私の時は面と向かって言われませんでしたが実態は同じだったでしょう。

今が違うのは贅沢すぎる点ではないでしょうか。結婚するかしないかは個人の自由ですが、贅沢しながら「低成長時代では子供が育てられない、先々自分の年金が心配」では成り立つはずがありません。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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