理化学研究所(理研)は5月27日、睡眠不足でも大脳新皮質を刺激することで記憶力が向上することを発見したと発表した。

同成果は、理化学研究所 脳科学総合研究センター 行動神経生理学研究チーム 村山正宜チームリーダー、名古屋大学 環境医学研究所 山中章弘教授、東京大学大学院 薬学系研究科 松木則夫教授(研究当時、現在は名誉教授)らの研究グループによるもので、5月26日付けの米国科学誌「Science」に掲載された。

睡眠には、起きている間の知覚体験を記憶として定着させる機能がある。睡眠時の脳内は、感覚情報などの外部からの入力が少ないため、内因的な情報により知覚記憶が定着すると考えられているが、具体的にどの脳回路が知覚記憶の定着に関与するかは不明となっていた。

大脳新皮質内の第二運動野(M2)という高次な領域は、第一体性感覚野(S1)という低次な領域と互いにつながり「トップダウン回路」と呼ばれる経路を形成している。村山チームリーダーらは2015年に、M2からS1へのトップダウン入力がマウスの皮膚感覚の正常な知覚に関与することを明らかにしており、同研究グループは今回、トップダウン回路が知覚記憶の定着に与える影響について調べた。

この結果、同研究グループはマウスにおいて、知覚学習直後の深い眠り(ノンレム睡眠)時に、光遺伝学的手法を用いてトップダウン入力を抑制すると、知覚記憶の定着が妨げられることを見出した。また、M2とS1の神経細胞の活動を記録すると、学習時とノンレム睡眠中に活動が上昇しており、睡眠中に再活性化されることがわかった。さらに、M2とS1の神経細胞群の活動の同期性は、ノンレム睡眠時に上昇していたため、学習後のノンレム睡眠時にマウス大脳新皮質のM2とS1を同期して刺激したところ、マウスは学習した知覚記憶をより長く保持することがわかった。

また、ヒトや実験動物において、長時間にわたって眠らせない「断眠」を行うと、記憶の定着が阻害されることが知られているが、学習後のマウスを断眠させながら大脳新皮質のM2とS1を同期して刺激した場合では、通常の睡眠をとったマウスと比べても、より長い間知覚記憶を保持したという。したがって、睡眠不足による記憶力の低下は、脳刺激によって補うことができるといえる。

同研究グループは同成果について、今後マウスにおける大脳新皮質の刺激パターンを臨床に適用できるよう改良することで、睡眠障害による記憶障害の治療方法開発への応用が期待できると説明している。

M2、S1の同期光刺激と断眠後の光刺激よるマウスの記憶の定着