このところユーロ相場が比較的堅調だ。円高の進行により対円ではさすがに弱含んでいるものの、対ドルでは過去1年間の変動レンジの上限近くで推移している。

もっとも、これはユーロが積極的に買われているというよりは、米国の利上げ観測後退を背景としたドル安の裏返しとみることができるかもしれない。

実際、ユーロ圏は内外に様々な問題を抱えている。域内では、南欧の国を中心に景気が停滞気味だ。中国や資源国などの景気鈍化が大きなブレーキになっている。消費者物価は前年比での伸びがプラスとマイナスを行き来しており、それはエネルギー安が主因とはいえ、引き続きデフレ(全般に物価が下がる状態)が懸念されている。

ECB(欧州中央銀行)は日銀に先駆けて昨年、マイナス金利を導入し、今年3月にもマイナス幅を拡大するなどの追加的な金融緩和に踏み切った。それでも、なかなか効果が表れてこない。ECBのドラギ総裁は一段の金融緩和に前向きだが、ECB内部では「なんでもあり」の緩和姿勢に懐疑的な声がますます強まっている。

今年に入って、ドイツの大手銀行の経営不安が表明化して、金融市場に緊張が走った。また、イタリアの銀行などで不良債権が増加傾向にある。これは、リーマンショックの悪影響をあまり受けなかったために、体質改善が遅れていたことが背景にある。そうしたことから、金融システム不安が台頭しかねない状況だ。

昨年のギリシャのデフォルト(債務不履行)危機は、同国が経済改革・財政緊縮を進めることと引き換えに、ユーロ圏が金融支援を約束したことでいったん収束した。ギリシャのデフォルトやユーロ圏からの離脱(いわゆるGREXIT)は、土壇場で回避された。

しかし、その後、ギリシャの改革の遅れから、金融支援が凍結されており、再びデフォルトの懸念が高まっているようだ。

域外に目を転じると、2つの大きな問題がある。一つは、中東、とりわけシリアからの難民だ。当初は寛容だったユーロ圏の各国も、その大量さや財政負担、付随するテロの脅威などから難民受け入れや移民を制限する方向に舵を切り始めている。救援金の支出は財政出動であり、難民が新たな需要を創出すると考えれば、長い目でみれば、経済にとってプラスかもしれないが、短期的には経済や社会の混乱を招きかねない事象だ。

EUが標榜する経済統合、その根幹にある、人の移動の自由を謳ったシェンゲン協定の精神が揺らいでいる。

そして、英国のEU(欧州連合)離脱の問題がある。仮に、英国民がEU離脱を支持した場合、英国の経済や金融市場の地盤沈下は免れないだろう。それは、大陸欧州、とりわけユーロ圏の経済や金融市場が「相対的に」浮上することを意味するかもしれない。ただ、英国の混乱の悪影響を受けないか、英国に倣ってEUやユーロ圏からの離脱を目論む国は出てこないか、など予断を許さない面もある。英国の国民投票は6月23日に実施される。

欧州情勢からも目が離せない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・エコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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