――それでも何も浮かばない時は?

そんな時は、思い切ってアイデアの源と対面します。小説のモデルになった方と再会すると、また新しい発見があったりするんですよ。人だけではなくて、身の回りにあるすべてのことが響いてきます。出来事や作品を通して感動したことを文章にすることができているので、こういう感覚は大切にしたいです。

――外部との接触もそうですが、内面の変化はいかがですか。最近はお幸せとうかがっていますが、そういったことが文章、作品作りに影響することは?

そうですね(笑)。悲しい恋、届かない思いを感じた時は文章に起こしたりもしました。本当に短い文なんですけど。

――それはノートのようなものに?

はい。パソコンでも書き留めることがありますが、日記とはまた違う日々のメモ。自分が思ったこと、誰かに会って感じたことや思い出に残ったことを書いています。

――言ってみれば"作家ノート"のような位置付けですね。

そんな大それたものじゃないです(笑)。30代半ばの女のつぶやき(笑)。小説を書いたことがきっかけです。忘れないために書く意味もありますし、書くと整理されることが昔からあったんです。10代後半で仕事がなくてくすぶっていた時も、前向きになるために書いたりしました。

たとえば、誰かの言葉に傷ついたことでもいいんですけど、それを恨み節で書くのではなくて、自分が感じたことを通して気持ちを切り替えることによって、それは自分自身の成長にもなると思います。愚痴ってもしょうがないけど、自分の中でたまっていく不安、悲しみ、時々の怒り。そういうものを残しておいて後で振り返ると、「私も頑張っていたんだな」と思いますし、解消していく指針にもなります。

――私はそれで日記を書かなくなりました。夜に書いたことって、翌朝読むと恥ずかしくなりませんか?

それがいいんじゃないですか(笑)? それは自分を感じることができた大切な感情だと思います。私はそれが糧となって文章に生かすことができていると思いますし、ほかの人が持っていない自分だけの感情を見つめ直すことはとても良いことだと思います。

――考え直してみます。なんだか、カウンセリングを受けているような気分です(笑)。

あははは(笑)。大切なことだと思いますよ。

――前作は最終校正時に修正欲が抑えられないことを「サグラダファミリアのような感覚」と表現されていました。今回はいかがですか。

本当にサグラダファミリアだったなぁ(笑)。今回は連載としてすでに発表しているものを直していく作業でした。文章について「すごく変なところ、嫌なところだけを言ってください」と言われていて、一年間連載していると今だったらこの表現はしないなとか、さすがにこれはちょっと……と気になるところがどんどん出てきて、般若心経のようなゲラを返してしまいました(笑)。

1ページにすごく時間がかかってしまって。表現の重複が気になったり、違う章でも言い回しが似ていたりすると、どうしても気になってしまいます。堂々と「今の私がこれです!」と差し出せるような大作家でもないので、世の中に出す前には少しでもよくなるようにと思って必死でした。

――やっぱりサグラダファミリアですね(笑)。

そうですね(笑)。編集の方とも話し合いながらだったのですが、私の意向を汲んで下さって「校閲に一緒に謝りましょう(笑)」とまで言って励ましてくれました。後半の直し作業の時に編集長とお会いすることがあって、「すみません、(新潮社クラブを)間借りしてます」と謝ったら、「上達している時だから気になるのはしょうがない」と優しいお言葉をかけていただきました。心の広い方ばかりで……本当にいろいろな方に支えられていると感じています。

――気が早いですが、次回作が楽しみです。

ありがとうございます。何となくは考えています。最近は後輩や友人から悩み相談をされる年齢になってきました。そういう人の話を聞いていると、やっぱり女性の話を書きたいのかなぁ……と。人を励ませるような物語が書けたらいいなと思います。

――「人を励ましたい」が、一貫した創作テーマなんですね。

うーん……。"自分ごときが"と思います。私もまだまだ励まされている身分ですから。あとは、「目に見えないもの」で「大切なこと」を書きたい。モデルは、すごくかっこよく仕上げられたシチュエーションの中で完璧な女性を目指して演じるので、それを表現することはなかなか難しいですが、スポットライトの後ろにいる人の気持ちを私は書きたい。そういう気持ちを大事にしていきたいと思っています。

■プロフィール
押切もえ
1979年12月29日生まれ。千葉県出身。高校生の頃からティーン誌で読者モデルとして活動をはじめ、ファッション誌『CanCam』(小学館)の専属モデルを経て、現在は2006年に創刊した姉妹誌『AneCan』の専属モデルを務めている。テレビ、ラジオ、コラム執筆など多方面で活躍するほか、『モデル失格』『心の言葉』など著書も多数出版。2015年には、『浅き夢見し』で小説家デビューを果たした。