「教えて!『かくれ脱水』委員会」はこのほど、ノロウイルスとインフルエンザに関するセミナーを東京都内で開催。感染症の有識者が登壇し、2015-2016シーズンの傾向や感染した際の対処法などについて講演した。

首都大学東京の矢野一好客員教授

医療機関あたりの患者数はノロの方が多い

首都大学東京の矢野一好客員教授は「ノロウイルス感染症とインフルエンザに関する今シーズンの特徴」との題で講演した。

ノロウイルスは冬季の感染性胃腸炎や食中毒の原因となるウイルスで、感染すると下痢やおう吐、吐き気などの症状を引き起こす。冬に流行するウイルスといえばインフルエンザを真っ先に思い浮かべる人も少なくないだろうが、ノロウイルスの感染力も相当な驚異だ。

ノロウイルスによる食中毒は毎年多い

矢野客員教授はその証拠として、全国に数千カ所ある定点医療機関からの患者報告数を挙げる。2000年から2011年までの12年間においては、1つの医療機関から感染性胃腸炎の患者が年間平均で321.17人報告された。一方で、インフルエンザの患者は255.52人と、感染性胃腸炎の約8割にとどまっている。

今冬は「新型ノロウイルス」が流行か

多くの患者をうみだすノロウイルスだが、今シーズンはウイルスの遺伝子型がこれまでと微妙に異なる「新型ノロウイルス」が流行しそうだと矢野客員教授は懸念している。

「2006年、2012年、昨年に主に流行していた遺伝子型は『GII.4』です。今年は今まで流行していなかったウイルスの『GII.17』が、少し変異して流行しそうということで注意喚起をしているところです」。

「新型ノロウイルス」の症状や感染経路は従来と変わりはない。ただ、これまで日本で流行したことがない遺伝子型がやや変異しているため、私たちの体に免疫がなく、今冬に一気に感染が広まる恐れがある。例年以上に予防や感染防止対策に努めたほうがよいだろう。

1つの医療機関からの患者報告数は、ノロウイルスが引き起こす感染性胃腸炎のほうがインフルエンザよりも多いことがわかる

矢野客員教授はインフルエンザに関しても言及。今年は11月初旬の時点において、AH3亜型やB型など複数のウイルスが検出されており、どれが流行するか予測しづらいという。ただ、検出されているすべてのウイルスは今年のワクチン株に含まれているとのことなので、予防接種の効果は見込めそうだ。

ウイルスに感染した際は脱水に注意

だが、どれだけ予防をしていたとしても、ノロとインフルエンザという2つの強力なウイルスから体を100%守りきることは不可能だ。そのため、有事に備えて発病してしまった際のケア方法について、済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科の十河剛医師が解説してくれた。

済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科の十河剛医師

十河医師はウイルスに感染した際、「自分の免疫で体からウイルスを排除するまでの期間をどのように過ごすかが重要」としたうえで、特に大事な取り組みとして「脱水予防」を挙げた。

脱水は、体に入ってくる水分より出て行く水分が多くなるために起きる。ノロウイルスやロタウイルスなどの消化管感染症は下痢やおう吐、食事摂取量低下などが、インフルエンザやRSウイルスなどの気道感染症では、食事摂取量低下や発汗などが脱水の主な原因となる。

経口補水療法の効果

特に感染性胃腸炎に由来する下痢・おう吐では、体内の水分と共にナトリウムやカリウムなどといった電解質も失われてしまう。電解質は筋肉細胞や神経細胞の働きなどに関わっているため、これらの症状に悩まされた際は水分と一緒に電解質も摂取することが重要だ。

市販されているスポーツドリンクにもナトリウムやカリウムが含まれているが、含有量が十分ではない。そこで、十河医師は手軽に失われた電解質を補うためには、電解質と糖質の配合バランスが考慮されている「経口補水液」が有効だと話す。

実際、患者に経口補水液を摂取させる「経口補水療法」は、点滴と同等の効果が得られるそうで、「ほとんどの人が経口補水療法だけで大丈夫だと示唆するデータも出ています」。

青色が経口補水液に求める成分量に関するWHOなどのガイドライン。緑色が経口補水液タイプ製品の各成分量で、オレンジ色がジュースなどの各成分量

経口補水療法は、ゆっくり少しずつ行うことが大切だ

経口補水療法で重要なのは「1回5ccを、1~5分ごとに飲ませる」ことだ。5ccはティースプーン1杯分に相当し、「おう吐があっても少しずつ飲ませましょう」と十河医師は力を込める。感染性胃腸炎のおう吐のピークは半日から1日程度のため、吐き気が止まれば少しずつ一度に飲ませる量を増やしていくとよい。

水分と一緒に電解質の補給を

ノロウイルスもインフルエンザウイルスも、感染拡大を防ぐためには「手洗い」や「マスク」が基本となるのは共通している。そして、原因は違えど脱水症状につながる恐れがある点も共通している。今冬はできる限りの予防をしたうえで万一、感染してしまった場合は水分と一緒に電解質もしっかりと補給するようにしよう。