あなたは、"上野樹里"にどのようなイメージを抱いているだろうか。上野(29)が女優としてデビューしたのが2002年。『スウィングガールズ』、『のだめカンタービレ』、『ラスト・フレンズ』、『江~姫たちの戦国~』など数々の作品を経て、初のWEBドラマ主演作となる『シークレット・メッセージ』(映像配信サービスdTVが日本独占配信・11月2日~)に挑んだ。演じるのは、初恋の人と別れて以来、スランプ状態に陥ってしまった駆け出しの女優・ハルカ。一方、T.O.P from BIGBANGのチェ・スンヒョン扮するウヒョンも初恋で心に深く傷を負い、ハルカが送ったLINEメッセージがウヒョンのスマホに偶然届いたことをきっかけに、見ず知らずだった2人が偶然の出会いを果たす。

今回の作品に関して上野を取材したところ、"リアリティ"と"等身大"という2つのキーワードにたどりついた。質問に受け答える姿勢は真摯で、徐々に熱を帯びていく語り口には質問を挟むことをためらいそうになるほど静かな迫力のようなものを感じる。10代から20代の葛藤、数々の作品を経ての心境の変化……本音を包み隠さず話してくれたお礼を最後に伝えたところ、「ありがとうございます。お互い良い歳のとりかたをしてきたいですね」と言いながら照れくさそうな笑みがこぼれた。彼女の魅力に触れることができた貴重な瞬間だった。

――純愛ラブストーリーでしたね。脚本を読んだ段階で、どのような印象を抱きましたか。

女優の上野樹里 撮影:大塚素久(SYASYA)

プロデューサーの方が私のファンでいてくださったみたいで、声を掛けていただきました。登場人物の言語が違ったり、ウヒョンとハルカがLINEを通じて知り合ったり、いろいろ特殊な部分はありましたが、みんなで温めながら進めていくことができました。それから、"リアリティ"も重要なポイントでした。例えば、劇団員のエイミーは日本語を話せる役ですが、彼女(ユ・インナ)自身は日本語をしゃべれないので負担が大きくなってしまいます。リアリティを考えながらも簡単な返事を教えたり、逆に私は韓国語をあまりしゃべることのできない役なので同じようにアドバイスをもらったり。韓国で撮影した約1週間は(韓国キャストの)3人とほとんど一緒だったので、台本にとらわれずにそうやって現場で話し合いながら進められたのは、WEBドラマだからこそ経験できたことだったと思います。

――たとえ言語の壁があっても、同じ役者であれば自然とそうなっていくものなんですね。

エイミーが「事前に決められていた日本語のセリフを完璧に言えるかどうか」で判断すると何回もカットがかかって撮影が進まなくなりますし、そもそも「完璧に言うこと」が大事なのかといったらそうではありません。片言の日本語に不釣り合いなセリフの量はやっぱりリアリティがありませんし、留学した時の日常会話は簡単な一言で返事をするのがほとんどだと思います。チェ・ガン役のシン・ウォンホ(CROSS GENE)くんは日本語を話すことができますし、以前お会いしたことがあったので、いろいろと助けてもらうことも多かったです。

――今年8月に韓国で公開された映画『ビューティー・インサイド』(2016年1月22日に日本で公開)に出演されましたが、そこでの経験は本作に生かされましたか。すごくヒットしているそうですね(公開9日目で観客動員100万人突破)。

みたいですね(笑)。撮影が2日間だけでしたし、ハン・ヒュジュさんが日本語を話すことができたので、そういう点で今回の作品とは少し状況が違ったと思います。『ウロボロス』の時に(生田)斗真くんが「ハン・ヒュジュさんと友だちだよ」と言っていたので、前に仕事をした時の話とかを聞いてリラックスして臨むことができました。今回のスタッフは少人数でしたが、とても温かくて信頼のできる方々で。韓国で流行っているギャクをアドリブに取り入れたりもして。連ドラと同じように後半になるにつれて面白くなっていく作品なので、ベッドとかで寝転がりながら気軽に見てほしいです。そんな作品でチェ・スンヒョンくんと共演できたのもなんだか不思議ですね(笑)。

WEBドラマ『シークレット・メッセージ』

――上野さんが演じたハルカは駆け出しの女優。自身の殻を破るために、韓国でレッスンを受ける決心をしますが、無言劇のシーンは印象的でした。

私が考えた振り付けを採用していただきました。韓国で先生を用意していただいたんですけど、レベルが高すぎて。コンテンポラリーダンスなんですけど、ストレッチで体が硬くて不器用だったハルカがたった2週間でそれを踊ることができたら、すぐにでも舞台に出られるんじゃないかと。いきなり華麗に踊ると、作品を観る方々は引いちゃいますよね(笑)。

大切なのは「どのようなダンスを見せるか」ではなくて、「トラウマを克服して、現実に目を向けようと生まれ変わる」こと。ハルカだったらどのように表現するかを自分で作ってみようと思って、いつもバレエの基本などを教えてくれる先生にアイデアを出しながら作ってから韓国の撮影に臨みました。だから、ハルカには等身大の私が反映されている役でもあります。カッコつけてないですし、親しみを持って観てほしいです。

WEBドラマだからこそできる新しいスタイルも経験しました。例えば、顔を洗うシーンでは大きな水槽を用意して下から撮ったり。監督はこれまでCMをたくさん手がけてきた方で、「ドラマを撮る!」と気合が入っていたのでとにかくアイデアがたくさん詰まっています。

――女優人生で貴重な経験になりましたね。

そうですね。相手役と会わないまま撮影を進めていくことなんて、普通では考えられないことだと思いますが、劇中のハルカもウヒョンの顔を知らないわけですし、LINEでのやりとりも翻訳を介しています。そういう心情も想像しながら演じたので、嘘くさくなくてピュアで自然体。仮面をかぶって演じるというよりも、ドキュメンタリーに近い作品だったと思います。

――こうしてお話をうかがっていると、とても"リアリティ"に敏感だと感じました。今回だけでなく、演じる上でいつも心がけていらっしゃることですか。

そうですね。短い時間の中で現場で感じたことを生身で作っていくと、噛み合わない部分が生じてしまった時に台本と向き合っていても追いつかないんです。紙上での「面白さ」と実際に動いてみての「面白さ」は違うので、あらかじめ書かれていたことをそのままやっても不自然なところが必ず出てきてしまいます。だから今回は現場で台本をほとんど持っていなくて(笑)。話し合いながら自然なセリフに変更したり、自然にリアクションしたり、その場で作っていくという感じでした。通常のドラマでは脚本を変えることなんてなかなかできないと思うので、そういう意味では貴重な機会だったと思います。