10月も残りわずかになって、ようやく秋ドラマの初回放送が終了。夏ドラマは記録的低視聴率に沈む作品も多く、苦戦続きだったが、今季は各局とも熱のこもった力作ぞろい。初回視聴率は『下町ロケット』が16.1%、『偽装の夫婦』が14.7%、『遺産争族』が14.2%を記録し前評判の高かった作品が好スタートを切るなど、話題を集めている。

しかし、当然ながらドラマの面白さと視聴率はあくまで別問題。今年の秋ドラマは本当に面白いのか? これからどの作品が期待できるのか? 今回もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、今クールの傾向とオススメ作品を探っていきます。

秋ドラマの主な傾向は、[1]国民的作品が一挙ラインナップ [2]高視聴率チームがそろい踏み [3]秋らしいハートウォーミング作 [4]濃淡鮮やかなミステリーの秋 [5]進む高齢ターゲット化 の5つ。

左から『おかしの家』主演のオダギリジョー、『下町ロケット』主演の阿部寛、『コウノドリ』主演の綾野剛

傾向[1]国民的作品が一挙ラインナップ

国民的映画の『釣りバカ日誌』、国民的刑事ドラマの『相棒』に加え、池井戸潤の直木賞受賞作『下町ロケット』、人気マンガの『エンジェル・ハート』、連ドラ最多シリーズ作の『科捜研の女』など、大型作品が目白押し。主人公にも、ハマちゃん、杉下右京、冴羽りょうなど、ファンの多いキャラがそろい、その名前がメディアをにぎわせている。

とりわけ目についたのは、キャスティングの巧みさ。映画版のハマちゃんをドラマ版ではスーさんに入れ替えたり、4代目相棒に反町隆史を選んだり、日曜劇場の主演に男性支持の高い阿部寛を据えたり、朝ドラ『まれ』から間を空けずに土屋太鳳を起用するなど、話題性もハマリ具合も上々。

中でも象徴的なのは、『エンジェル・ハート』の上川隆也。役柄に合わせてパンプアップした肉体、胸を突き出すような立ち方、両手をポケットに突っ込む仕草など、体や手の向き1つとっても再現率が高く、原作ファンの期待を裏切らない仕上がりを見せている。

傾向[2]高視聴率チームがそろい踏み

今季は各局が誇る高視聴率チームが顔をそろえた。『下町ロケット』のスタッフは、『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』などを手がけたTBSきっての熱気を放つチーム。カット数が多い上に、遠近&前後左右のさまざまな角度から撮影し、ベストアングルを紡ぐスタイルで、圧倒的な映像の迫力を生み出している。

『偽装の夫婦』のスタッフは、『家政婦のミタ』『〇〇妻』などを手がけた日本テレビの名物チーム。脚本家・遊川和彦とプロデューサー・大平太のコンビで作り出すオリジナルストーリーと強烈なヒロインは今作も健在で、先の読めない楽しさがある。

『オトナ女子』のスタッフは、『ラスト・シンデレラ』『ディア・シスター』などを手がけたフジテレビの恋愛ドラマチーム。今作も篠原涼子、吉瀬美智子、鈴木砂羽を起用し、90年代の王道ラブストーリーのようなコンセプトを貫いている。

いずれも得意ジャンルで勝負しているだけに大崩れはないが、中盤あたりから今作ならではの仕かけが用意されているのではないか。

傾向[3]秋らしいハートウォーミング作

人肌が恋しくなりはじめる季節らしく、例年以上に温みのあるヒューマン作も目立つ。産科を舞台に命の誕生を描く『コウノドリ』、難病を通して家族愛を描く『結婚式の前日に』、血のつながりを超えた愛情を描く『エンジェル・ハート』、ゲイの夫とのパートナーシップを描く『偽装の夫婦』など、身近な人々との関係性をテーマにした作品が多い。

中でも私が最も注目しているのは、『おかしの家』。水曜深夜に設けられた新たなドラマ放送枠の第1弾であり、映画『舟を編む』などを手がけた若き名匠・石井裕也を迎えた意欲作。下町の駄菓子屋を舞台に、人の温かさや生きることの楽しさと難しさを叙情的に映し出している。

このところのドラマ界は、視聴者に考えさせることを放棄したような、わかりやすさ重視の作品ばかりになってしまった。しかし、この作品は「人の温かさや人間らしく生きること」をそっと問いかけ、考えさせてくれる。

傾向[4]濃淡鮮やかなミステリーの秋

「読書の秋」、ひいては「ミステリーの秋」。王道から個性派まで多彩なミステリーがラインナップされた。中でも異彩を放っているのは、『掟上今日子の備忘録』。日本テレビの土曜ドラマらしくポップな1話完結モノなのだが、「ヒロインをどれだけキュートに見せるか?」に徹したパステル調のようなコンセプトが面白い。

『無痛』『破裂』は、現役医師の作家・久坂部羊の原作小説ドラマ。医療現場の問題点をえぐるダークなミステリーでありながら、「心臓が若返る夢の治療法」と「外見で病状がわかる医師」というファンタジーを絡めてエンタメ度は高い。

猟奇的な悪女が迫るサスペンス要素の強い『サイレーン』も、その色彩は濃厚。初回では悪女役の菜々緒が主演以上の存在感を放っていたが、今後も何度となくメディアを視聴者の目をクギづけにするだろう。

傾向[5]進む高齢ターゲット化

前クールは、明らかに若年層をターゲットに据えた『恋仲』などが放送されたが、今クールはほぼ見当たらない。対照的に増えたのは、大人向けの作品。ここ数年間でアラフォー以上の年齢層を中心に据えたドラマ作りが主流になっていたが、今季はさらに拍車がかかった印象を受ける。

シリーズモノの『相棒』『科捜研の女』『ぼんくら2』は言うまでもなく、『釣りバカ日誌』『遺産争族』『下町ロケット』『偽装の夫婦』『オトナ女子』『無痛』『破裂』もターゲット年齢は高い。

また、香里奈を主演に据えた『結婚式の前日に』もテーマは難病と家族であり、ラブコメの『5→9』も設定は1990年前後のトレンディドラマに近く、『エンジェル・ハート』も1980年代にマンガ『シティーハンター』を見ていた40代以上をターゲットに入れている。

深夜枠では、『テディ・ゴー!』『監獄学園-プリズンスクール-』『劇場霊からの招待状』など若年層向けの作品もあるが、リアルタイム視聴が見込める早い時間帯では、皆無と言ってもいい。ただでさえ、20時台のドラマが壊滅状態であり、21時台も減っているだけに、この傾向が続くと、かつてアニメがそうだったように、若年層が帰宅してすぐに見られるドラマがなくなってしまう。


これらの傾向を踏まえつつ、今クールのオススメは、早くもキャストとスタッフが阿吽の呼吸を見せている『おかしの家』。ゆったりとした世界観と展開だが、テーマ性は深く、映像美も含めて新枠の意気込みがヒシヒシと伝わってくる。

当然というべきか、『下町ロケット』のクオリティには何の疑いもない。女性向けドラマの比率が上がる中、ここまでシンプルに男臭くやり切れるのは貴重だ。また、スタッフの誠実かつ丁寧なドラマ作りが光る『コウノドリ』も出色のヒューマン作。金曜の夜に仕事疲れを癒やすべく"涙活"したい人におすすめしたい。さらに、原作をもとにドラマ仕様のオリジナルストーリーを手がける『無痛』、笑いに深いテーマを織り交ぜた『偽装の夫婦』も見応えがある。

この5本はそん色ないレベルであり、各局とも無料見逃し配信やオンデマンドで見られるため、未視聴の人はチェックしてみてはいかがだろうか。

一方、これからの巻き返しに期待したいのは、もう1段階スリルを上乗せしたい『サイレーン』、古くアラフォー女性の描写が目立つ『オトナ女子』。いずれも期待値の高い作品だが、現状ではコンセプトを消化しきれていない印象がある。

2015年秋ドラマおすすめ5作

No.1 おかしの家(TBS 水曜23時55分)
No.2 下町ロケット(TBS 日曜21時)
No.3 コウノドリ(TBS 金曜22時)
No.4 無痛(フジ 水曜22時)
No.5 偽装の夫婦(日本テレビ 水曜22時)

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。