――役者さんの中には台本を読み込んで役作りをしたり、その役になりきったりしながら作品と向き合っている方もいると思いますが、上野さんはまた別のスタイルということでしょうか。

いえ、作品によって変わってくると思います。きちんと作り込んで現場に入る場合もありますし、等身大でありのままの一面が求められる場合は事前準備をせずに直感的に取り組むことも。監督から見るように指示されていたものがあれば見ますし、見るなと言われれば見ませんし、作り込まないでと言われれば作りません。言われるがままにいつもやっていて、監督やプロデューサーの熱意や波動を受けて、おのずと自分が取る行動が決まっていく……今回は違いますが、みんなから憧れるようなヒロインであれば、きちんと作って臨んだ方がいいと思います。

――そのスタイルは、いつごろから確立されたものですか。

いつでしょうね……大河(2011年・『江~姫たちの戦国~』)が終わった後に海外で休暇を過ごした時期がありました。そのあとにやらせていただいた『陽だまりの彼女』(13年)や『アリスの棘』(14年・TBS系)は、ちゃんと作ってから挑んだ作品。そんな時もあれば、今回のハルカや最近撮り終えた映画(16年公開・『お父さんと伊藤さん』)のように、人間くささが目立つヒロインをやらせていただいて。10代を振り返ると、そういう部分でイメージを作りやすかったのかなと。

人間はいろいろな"味"がするものだと思うんです。最近はそういう"人間"になることができているんじゃないかなと思います。プライベートと仕事をきっちり切り分けて、役柄に没頭した20代前半。仕事から離れた自分に豊かさは無くて、忙しすぎて"普段の自分"がありませんでした。だからこそ役柄に没頭しましたが、スケジュールに余裕が出て仕事のスタイルが変わると、"普段の自分"が充実してくるんです。逆にそこで充実させることができなかったら、スケジュールの余裕は何の意味もありません。ゆとりができて自分を客観的に見られるようになったからこそ、今の自分があるんだと思います。

今の時代はインスタやツイッター、ブログなどを通して、それぞれの自分を伝えています。役者という仕事をやる上で"普段の自分"が分からない方がいいと思っていましたが、"普段の自分"を伝えても役者としての仕事をきちんとやっていればそれはそれでいいと思えるようになりました。どんな役をやっても、本当の自分はどこかに必ず出てきてしまう。そういう味は年齢を増すごとに出てくるでしょうし、そういう自分を求めていただく役も増えてくると思います。

最初は役に育ててもらった自分が、私という人間を通して役が付いてくる。最近はそういう向き合い方にシフトしていっている時期です。普段の自分が豊かでないと、役者としてその役を豊かにすることはできません。どんな生き方、人生を歩むかで役者として変化していくと思いますが、昔はプライベートの部分を殺して生きていました(笑)。

――今年からはじめたインスタグラムには、そういう思いがあったわけですね。

ブログを書くのは結構大変でなかなか更新できないので、待っていてくれる方に申し訳ないと思っていました。インスタだったら写真撮ってコメントを付けるのも簡単なので、周りの勧めもあってはじめました。今までは送っていただいたメッセージをプリントアウトして読んでいましたが、インスタはすぐにコメントを見ることができるのでみなさんとの距離がすごく縮まったような気がします。

堅苦しく難しいものではなくて、共感してもらえるような作品や役をみなさんに見ていただきたいと思っているので、最近のお仕事は本当に楽しいです。仕事に対して肩の力が抜けて、「等身大の上野樹里」を隠さなくてもそれが"味"として役に出ればいいと思えるようになったのは、今までいろいろな役をやらせていただいたこと、そして自分の年齢も関係しているのかもしれません。

――こうしてお話していると、とても良い精神状態でお仕事と向き合われているのだというのが伝わります。これからの30代が楽しみですね。

そうですね。今後、一人の女性として結婚した時に、それまで一人だったスタンスが家族中心に変化するのかなと思います。仕事の本数も減るでしょうし、向き合い方もまた変わってくると思いますが、そこには今までなかったような表情やエネルギーがあるはずです。この仕事と「生きる」ことは、そうやってずっと連動しています。そして、十代のころにやらせていただいた役は今、そしてこれからもう一度演じることは、絶対にできないのです。

セリフの言い方とか演技力とか表面的なことだけじゃなくて、出ているだけで安心感を与えられるような、そんな役者になっていきたいですね。どんな生き方をしているのかが役の説得力にもつながってくると思いますので、何よりも生活を豊かにしていくことがこれから大事だと思っています。

■プロフィール
上野樹里
1986年5月25日生まれ。兵庫県出身。2002年に女優デビュー。2004年の初主演映画『スウィングガールズ』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞して注目を集め、2006年のドラマ『のだめカンタービレ』でエランドール賞新人賞、2011年にはNHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』で主演。11月30日には「このミステリーがすごい!2015」がオンエア予定(TBS系)。また2年ぶりの主演映画となる『お父さんと伊藤さん』が2016年に公開される。