9月末からスタートした朝ドラ『あさが来た』の視聴率が、連日20%を超えていて上々のようです。このドラマの中では、ヒロインのあさと、その姉のはつ、そしてあさの夫である新次郎とはつの夫、惣兵衛という4人のキャラクターがうまく描かれていることも、毎朝8時が来るのが楽しみな所以かと思います。

ただ、新次郎と惣兵衛は、決して良いところだけが描かれた人物ではありません。それなのに、なぜ魅力的に見えるのでしょうか。

一見、酷いキャラクターが人を惹きつける

玉木宏さん演じる新次郎は、大阪の両替屋の次男坊ですが、商売にはまったく興味がなく、三味線にばかり没頭している自称「あほぼん」です。自分で「わて、お面だけはよろしますやろ」と言ってしまうくらいの男前ですが、妻となったあさとの祝言の日取りを忘れ、初夜の晩に家におらず、それから一か月間も、夜な夜などこかへふらっと出かけてしまうと聞けば、「何たる遊び人!」と思うことでしょう。

一方、柄本佑さん演じる惣兵衛も大阪の両替屋の長男ですが、こちらは、むすっとしていてにこりとも笑わない。その様子を見て、あさは「白蛇さん」と裏であだ名で読んでいます。そんな惣兵衛は、代々続く両替屋の娘である母親の言いなりになっているかと思いきや、「いつかせっかんしたらなあかんねん」という強い反発を感じているし、そんな母親との関係が影響してか、「新次郎はんとちごて女が嫌いや。あいつらみんなずるうて、わずらわしいて、意地汚いからな」と、ミソジニー発言も飛び出します。

二人のプロフィールを書きだしてみると、「なんて酷い男性キャラクターなんだ!」と思えてきますが、実際にドラマを見ていると、新次郎と惣兵衛のことが気になって仕方ありません。なぜかというと、マイナス部分を打ち消すエピソードもたくさん描かれているからです。

例えば、新次郎が夜な夜な出かけていたのは、初夜の晩にあさに投げ飛ばされたことから、あさを「まだまだ子供だ」と判断していたからでした。その後、あさが新選組を恐れず互角にやりあった勇猛な姿を見て、その晩に新次郎は、「あさちゃんのこと、まだまだ子供や思うてたけど、あんたは芯のある大人のおなごはんや。惚れてしもた、わてと夫婦(めおと)になってくれ」と告白し、二人は真の夫婦になるのです。

新次郎はそれだけではなく、あさが幼いころからソロバンが好きだったり、本に興味を持ったりしても、否定をせず、彼女の好奇心を受け止めます。あさの商売への勘の良さを認めた新次郎の父親も、「あさちゃんを守って助けるのが(新次郎の)役目」と言っているように、これからも、あさの自由な精神と行動を認め、後押しすることでしょう。

いまだ笑顔を見せない惣兵衛も、本当は情の深い人物だとわかるシーンがところどころで見られます。例えば、妻のはつに着物の反物をプレゼントする際、はつが露芝(つゆしば)を選び「地味やろか」と尋ねると、「露芝は、派手さはあらへんけど、美しい柄や。はんなりしているようで、鋭さもある」と返します。このシーンは、惣兵衛が着物の柄を言葉で表現できる感受性を持っていること、そして、面と向かっては言えないけれど、露芝にかけて、はつのことを褒めているようにもとれます。

幼い頃から惣兵衛を知っている新次郎は、彼のことを「子供の頃は面白うてええ奴やったんやで」と言います。惣兵衛とはつにはこれからも一波乱あるようですが、いつ惣兵衛が笑顔になるのかと思うと、夢中で惣兵衛の表情を追ってしまうのです……。

新次郎と惣兵衛にも葛藤と抑圧がある

朗らかなのに、どこか世捨て人のようなところがあり、あさからも「なぜ一生懸命でないふりをするのか」と問われたことのある新次郎。実ははつへの愛情深さが垣間見えるのに、素直に感情表現のできない惣兵衛。ふたりが、葛藤を持っていて、抑圧を感じているのには、江戸時代の身分制度の下では、家に逆らう自由はないということと関係があるでしょう。

この時代は生まれた家や身分で職業が決定されていました。ということは、家が決めた結婚をしたあさやはつと同じように、新次郎や惣兵衛にも葛藤があったと描かれても不思議はありません。あの時代に、新次郎がどんなに、「お面」が良くても、三味線がうまくても、それでアイドルになることはできなかったということです。

自由な妹のあさと、幽閉され抑圧されたはつの姿は、『アナと雪の女王』のアナとエルサの姿とオーバーラップするときもありますが、もしかしたら、この物語では、新次郎と惣兵衛という、義理の兄弟の友情と解放も、江戸から明治へという時代の変化とともに描かれるのではないかという気もしています。

<著者プロフィール>
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。

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