オフィス改革のための3本の柱

意欲に溢れるメンバーが集合したとはいえ、初めて話をするようなメンバーと経験のない分野で共同作業をするわけであり、また業務に支障が出ないよう、昼休みに手弁当で集まるという制約の中ではどのような成果が出せるのか不安になるメンバーもいた。

そこでまずはオフィス家具メーカーに見学に行って学び、社内アンケートを実施して広く現場の意見を吸い上げ、マインドマップでその意見をまとめて掲示するという形でプロジェクトは進んで行った。限られた予算内でどう意見を具現化するか、相反する意見をどうすり合わせていくかなど、ひとつひとつ壁を越えなくてはいけなかった。

鈴木さん「たとえばパーティションの高さ一つとっても、人によって意見が違うのです。もっと高くしたい、低くしたい。もっとフリーアドレス化を進めよう、いや固定席で落ち着いて仕事をしたい、と様々な要望が噴き出してくる。何のためにオフィス改善をしているのか、という原点に立ち返って議論をし、ひとつひとつ答えを出していく必要がありましたね」

そうした中で絞られてきた今回のオフィス改善の柱は次の3点だった。

オフィス改革のための3本の柱
◆別フロアで単独でまとまっていた営業部門を広い階の中心に移動し、マーケティング部門やファイナンスと隣接したレイアウトにする。また活用度の低かった大きな会議室をつぶし、予約なしで会議のできるオープンスペースを眺めのよい窓際に広く設ける。

◆解放感のあるオフィスとするため、会議室はガラスを透明にして中が見通せるつくりにする。さらに「BAND-AID」「JOHNSON’S BABY」など、会議室それぞれにブランドの呼称をつけ、その製品の世界観にあった手作りの装飾をする。また和室や人工芝の会議室を作り、創造性を刺激する多目的な空間とする。

◆大型ディスプレイとコーヒーマシンを設けた「マグネットスペース」をフロアの中心に配置し、部門や立場に関係なく、社員たちが偶然出会い、コミュニケーションを促す場として活用する。

レイアウト変更とブランドの個性を打ち出した装飾などで社内の雰囲気を変えたのはもちろんだが、最も期待しているのはマグネットスペースとそれに隣接するオープンスペースだという。

営業部門をオフィスの中心に配置した現在のコンシューマー カンパニー。人の流れが生まれやすくなり、コミュニケーションも活発化しているという

マグネットスペースは、そこに行けば偶然その場に居合わせた他部門の人たちとコーヒーを片手に気軽に話ができるという「接点」にこだわったレイアウトの象徴だ。話の中で共通のテーマが見つかれば、そのまま横のオープンスペースで会議をすることも可能で、それが部門間のコラボレーション、さらにはイノベーションにつながることを狙ったのである。

新設されたマグネットスペース。コーヒーマシンや文房具リフィルが置いてある

また、コーヒーマシンに加え、部門ごとバラバラに管理していた文房具の予備をマグネットスペースにまとめたところ、在庫の無駄がなくなり予想外の断捨離効果もあった。

マグネットスペース隣の共有スペース。ちょっとしたミーティングなどが自由に行える

リーズナブルなオフィス家具にこだわりを持つ

オフィス家具も、自分たちでリーズナブルな組み立て式の家具を購入して週末に組み立てたという同社。バンドエイドならぬハンドメイドだ。これも前例のない手法だったために、プロジェクトチームは総務や購買部門の協力を取り付けるべく社内を駆け回った。

「オフィス家具を安価に抑えることで、オフィス改装のフットワークが軽くなります。極端な話、季節ごとにデコレーション案を公募して会議室を改装することも可能になるのです。安価な家具であれば、ちょっと冒険かなと思えるような改装にも挑戦できます。」

イケアなどで調達したというオフィス家具。組み立て時は、まるで学生時代の文化祭さながらの盛り上がりであったという

こうして完成した、コンシューマー カンパニーの「ボトムアップ型オフィス」。OFFICE-AIDチームはプロジェクトとしての活動を一旦終了しているが、今後も社員を中心とするオフィスの改装やメンテナンスはオフィス環境改善委員会により引き継がれていくという。

新しいオフィスレイアウトに変更後に社員からとったアンケートでも合計9割近くの人が「とても良くなった」「良くなった」と回答しており、海外からくるビジターなどからも「会社全体の印象が、以前に比べてぐっと明るくなった」という声が上がっている。

また、新社長以下のマネジメントの間で、このプロジェクトの最大の成果としては、アイデアを持った社員が社内にいて、自発的に改善を進めて行くボトムアップ型のアプローチをとるプロジェクトの先例になったことと認識されている。これにより今後、組織の改善や強化にむけて、自分のアイデアを積極的に共有する社員が増えていくことも期待されている

スーパーマリオをイメージした社長室。マリオ・スタイン代表取締役プレジデントにぴったり!?

終わりに

過去に紹介した三井デザインテック内田洋行など、"人が自然に集まる場所"を設ける企業が増えている。それは、気軽なコミュニケーションからイノベーションを生み出そうとする試みに等しい。

ジョンソン・エンド・ジョンソン コンシューマー カンパニーは、タイムマネジメントならぬエネルギーマネジメントというものを重要視している。ひとりひとりの時間にもエネルギーにも限りがあるので、無駄をなくして時間を作り、社員個々のパフォーマンスを上げ、効率よくエネルギーを使うためのマネジメントだ。

新しいレイアウトで生まれ変わったオフィスはエネルギーの効率化にも直結している。オフィスひとつの変更が、イノベーション発生の可能性をアップさせるのであろう。