「アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)」という言葉を知っているだろうか? 日本語で「無意識の偏見」、考える以前の瞬時に浮かぶ先入観・固定観念を指す。同語は他人に対して抱くもののみならず、その人自身が「私にはできない」と思い込む場合にも用いられる。

世界最大のトータルヘルスケアカンパニーであるジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人では、ダイバーシティを推進する社員の自発的な取り組み「WLI(Woman's Leadership Initiative)」による「働き方に関するアンケート調査」(2013年)を実施。その結果、「様々なライフイベントにおいて、継続したキャリアを積みにくいイメージがある」「(女性の回答で)将来管理職になりたいかどうかわからない」という声がよせられたという。

WLIでは、同社のダイバーシティを促進し、社員の意識を変えるための活動を実施してきた。しかし先の調査によって、様々なプログラムを受けてきた同社社員でさえも、無意識的に自分(あるいは他者)に対して「できない」というバイアスをかけてしまっていることが明らかになった。

こうした状況を受け、同社は21日に「アンコンシャス・バイアス」ワークショップを開催。参加した社員は、座学とディスカッションを通して「アンコンシャス・バイアスとは何か」「多様な働き方を実現するためにはどうしたらよいか」を学んだ。

ワークショップの様子

「アンコンシャス・バイアス」を知る

「バイアス」とは、瞬時かつ無意識的に起こる知的連想プロセスの1つで、過去の経験などから身につくものである。具体例としては、「女性だから出しゃばらない方がいい」「男性は運転がうまい」「年上の社員が昇進する」などを想像するとわかりやすいだろう。

ワークショップは、まず社員自身がもつアンコンシャス・バイアスを知るところからスタート。様々な言葉やシチュエーションに対し、どのようなバイアスをかけてしまっているのか話し合いが行われた。

バイアスによる悪循環を止めるためには?

続いて、「『自分はできない』という考え(=自身にバイアスを掛けた状態)」がもたらす不公平性や悪循環について解説が行われた。

例えば昇進や大きな仕事のチャンスが来た場合、実力があるのに女性だから・若いからといった理由から「自分にはできない」と思って遠慮してしまったとする。すると、その仕事は別の社員に任される。断った社員は実績・自信が身につかず、同僚の中で埋もれてしまう。結果、次の仕事が回ってこず、実績・自信がつかないという悪循環に陥る。

一方、「やらせてください(=自身に「できない」というバイアスを掛けていない状態)」と手を挙げると、その役職に任命され、実績・自信が身につく。結果、また別の案件で声がかかり、更に実績・自信がつくという好循環が生まれるのである。

鍵となるのは、「無意識」を「意識」し、アンコンシャス・バイアスにより生まれる僅かな差を解消できるかという点だ。

ワークショップを主催した社員は、「僅かな違いでポジティブなサイクルになるかネガティブなサイクルになるかが決まる。スタート地点は同じでも、ほんの小さな意識の差により不平等性が生じ、優秀な社員が十分に能力を発揮できなくなってしまう」と説明する。

こうした状況から脱するためには、自分でアンコンシャス・バイアスに気づくこと、そして瞬時に判断するのではなく、一度ゆっくり考えてから結論を出すことが求められる。また、上司や同僚も、その人に対して無意識的にバイアスを掛けていないかを意識し、意図的に機会を提供することが重要なのだという。

最後に職場におけるアンコンシャス・バイアスの事例を各々が発表。それを意識化するためにできるアクションについて話しあい、ワークショップは終了した。

参加者からは「他の職種の人から話を聞いて、『こんなバイアスがあるのか』と気付かされた」「採用はかなりバイアスがかかってしまうものである。アンコンシャス・バイアスを意識し、境界を見極めて採用活動をする必要があると思った」「『この人はこういう人だから、こんなふうに考えるんだろうな』という思い込みがあった。人の話を聞くときは、耳と目と心を持って聞くということを意識したい」といった感想が寄せられた。

まとめ

働きたい会社ランキングの上位常連であるジョンソン・エンド・ジョンソン。社員主導でダイバーシティプログラムを行うなど、働きやすい環境づくりに余念がない。今回行われたアンコンシャス・バイアスのワークショップもその一環である。

担当社員が「優秀な社員がいてもポテンシャルを発揮できないと、ジョンソン・エンド・ジョンソンの成長にネガティブな影響が生まれる」と語るように、アンコンシャス・バイアスの存在に気づき、個々の社員が能力を十分に発揮できるようになるかどうかが会社の成長の鍵となっていきそうだ。