日本語留学のために来日したマシータさん。在日30年を迎える現在は、マレー語やマレーシア料理の講師、マレーシア人代表としてのTV出演、講演など、多方面で活躍中。活動の原動力となっているのは「マレーシアの良さを多くの日本人に知ってほしい」という強い思い。いつも前向きでエネルギーあふれるマシータさん。その裏には、長年詰み重ねてきた地道な努力がありました。

マシータ・ユノスさん/マレーシア・ジョホールバル出身/51歳/マレー語、マレーシア料理教室講師、タレント

■これまでのキャリアの経緯を教えてください。

私が日本に興味をもったのは14歳のときです。海外青年協力隊の日本人がホームステイをしたのがきっかけ。1980年ごろ、マハティール元首相が提言した「ルックイースト」政策の影響で日本がブームに。日本が憧れの国になりました。ちょうどそのころ、父の友人が日本語教室を開いたので、ホテルで働きながら、日本語の勉強を始めました。

日本語はマレー語と発音が似ているので、ちょっと話せるだけでも「うまいね」と褒められましたね。また、勤務先のホテルに日本人のお客さんが宿泊していたので、毎日1回は日本語で話しかけて自主特訓。その努力の甲斐あって、いつしか日本人に「日本語が話せるマシータを呼んで」と指名されるようになりました。それからホテルを辞めて、日本人観光客向けのバスガイドに。観光スポットのモスクや王宮を日本語で案内する仕事です。この経験のおかげで、マレーシアの文化にも詳しくなりました。

1987年、もっと日本語がうまくなりたい、と思い、とうとう日本にやってきました。21歳のときです。バスガイドで必死に貯めた30万円で、日本語学校と大学の夜間講座に通いました。その後、日本人男性と結婚して、3人の子どもに恵まれました。

現在は、マレー語やマレーシア料理の講師、マレーシアについての講演、テレビ出演など、幅広い分野で活動しています。先日はTV番組「未来世紀ジパング」に出演し、大規模都市計画「イスカンダル」についてコメントしました。「ネプ&イモトの世界番付」「SMAP×SMAP」にも出演経験があります。

また、日本に訪れるマレーシア人観光客の受け入れも行っています。30年も日本に住んでいるので、日本も私のふるさとです。このふるさとの良さをマレーシア人に知ってほしい。FacebookなどのSNSを通して、日本の文化を発信していくことにも力を入れています。

テレビ出演では、かならずマレーシアの民族衣装を身に着ける。「マレー系民族の女性は、普段からこのような装いをしています」とマシータさん

■現在のお給料について教えてください。

会社に属していないので、収入は定期的ではありませんし、金額は多くありません。でも、自分のやりたい仕事をしているので不満は全くありません。この仕事が好きだから、やめられないんです。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

マレー語教室に7年間ずっと通ってくれる日本人の夫婦がいます。彼らは「マレーシアは僕らのふるさと」と言ってくれるくらい、マレーシアが大好き。そういう日本人に出会えるのは、とてもうれしいです。また、埼玉県の消防学校の英語教師を20年近く務めていますが、先日教えに行ったら、20年前の教え子が教官になっていました。長く続けていると、そういう出会いがあって楽しいです。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

マレーシア人観光客が集合時間にルーズなのは困りますね。ゆっくり観光したいのはわかるのですが、私も同じマレーシア人なので、日本の客先に恥ずかしくて……。板挟みになります。

もうひとつ、講演を頼まれて、その時間が短すぎると困ります。たとえば、持ち時間が1時間以下の場合、何を話すべきか非常に迷います。マレーシアは、料理もおいしいし、多民族の国ですし、日本と違う魅力がたくさんあるのです。マレーシア料理を作ってマレーシアを感じていただくこともできますし、マレー語学習もできるので、できれば1日すべて私に時間をください。1日が無理なら、すくなくとも3時間は欲しいですね~。

高校時代に料理コースを専攻していたマシータさんは、料理も大の得意

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

渋谷のマレーシア料理店「マレー・アジアン・クイジーン」でラクサを食べました。ラクサとは、マレーシアのスープヌードル。ラクサは色々な種類があり、この店のラクサはココナッツミルクがたっぷり入ったカレー味。ニョニャスタイルだと思います。ちなみに、私の故郷ジョホールのラクサは、スパゲッティの麺を使い、魚スープと野菜を一緒に食べる料理です。日本食でたとえるなら、冷やし中華に近いかな。

本日のランチは、渋谷のマレーシア料理店のラクサ(1,000円)

■日本でカルチャーショックを受けたことがありますか?

初めて山手線に乗ったとき、終点で降りようと思ったら、どれだけ乗っていても終点にならなかった。終点が無い電車って、あるんですね。

あと、日本人はレストランや道端にいるときは、とても明るくて、友達とワイワイ話しているのに、電車に乗ると、どうしてあんなに静かになるんですか? マレーシアでは電車の中でもにぎやかですよ。また、電車で寝ている人がいるのもびっくり。それも自分が降りる駅ではかならず目を覚ますでしょう。あの能力はすごすぎる!

■日本人のイメージは?あるいは理解しがたいところなどありますか?

日本人は、時間に正確で礼儀正しいですね。そういうところが私は好きです。理解しがたいというか、気になるのは、自殺が多いこと。先日も電車に乗っていたら、人身事故で電車が止まってしまいました。マレーシアは日本に比べて自殺は少ないと思います。

■休日の過ごし方を教えてください。

私の住んでいる場所は、緑が多くて空気もおいしい、素晴らしいエリアです。家の庭にはバナナの木があり、家庭菜園もしています。でも、実を言いますと、私の生まれ育った家は都会にあるんです。緑なんてひとつも無い、コンクリートに囲まれた町。ですので、休日は東京に出てきて、都会の空気を吸います。都会が、マレーシアの故郷を思い出させてくれる懐かしい空気なんです。

■将来の仕事や生活の展望は?

夢は2つあります。1つは、マレー語の本を作ること。現地ですぐに使える日常会話を中心にした本です。マレーシアは英語が通じる国ですが、マレー語が話せると、マレーシア人ともっと仲良くなれます。また、マレーシア人とのコミュニケーション方法にはコツがあり、それを本に書きたいです。たとえば、マレー語の会話では、イエスかノーかを初めにハッキリ伝えることが大事。日本語の会話では遠回しに伝えることが多いのですが、マレーシアの場合はそうではありません。

2つめは、マレーシア人観光客を日本の田舎に連れていきたい。日本の良さは東京だけではありません。たとえば、私が暮らしている埼玉県の行田には、伝統工芸である和紙の工房や古い町並み、忍城には侍もいます。マレーシア人を忍城に連れて行き、侍を見せるととても喜ぶんですよ。日本の伝統的な文化をマレーシア人に伝えていきたいと思っています。

忍城の「おもてなし甲冑隊」とともに。「埼玉は東京から近くて、日本文化を味わえる観光スポットも多数。外国人に訪れてほしい町です」と語る