――『round voice』にはそんな桐嶋さんの自分自身との闘いの末に生まれた楽曲たちが収められているわけですね。それだけに、どの曲も言葉の一つ一つが鮮烈でリアルに響いてきます。制作期間はどれぐらい?

1曲目の「風」は今年に入ってから作った曲。それ以外の曲はだいたい2~3年前にはできていました。学生時代に作った曲たちで21歳ごろの私が封じ込まれている感じ。でも、「風」という曲ができて、それまでの3年間にピリオドを打って、新しい第1章の扉を開くことができたんです。覚悟というか、腹をくくったというか

――と言うのは?

「風」ができたのはメジャーデビューも決まって、そのためのPVを作ろう、というとき。小林さんと出会ってから3年間頑張ってきたと同時に歌を仕事にする と決めてから"歌うことが好き"という気持ちがピュアなだけじゃいられなくなってきたような気がして。だんだん苦しくなってきていたんです。"割り切ってこのまま進んでいくのか"、"もう一度立ち止まって原点に返るのか"、"こんなに自分の歌に幻滅するくらいだったらやめるのか"…「風」を書きながらいろんな想いが巡っていて。自分は歌によって救われてきたし、自分自身が生きているという実感を得られるのは歌っているとき。自分自身の生命力を燃やすことができるのは、唯一歌っているときなんです。原点である"歌が好きだ"という気持ちで一生懸命歌っていくしかないんだ、と。メジャーデビュー直前にそう改めて決意できたのはよかったと思います

――確かに「風」の歌声からは「こういう歌い手になる」という強い意思表示を感じます。

歌い方もこれまでとは大きく変わったんです。井上うにさんというエンジニアの方と出会ったのが大きくて

――井上さんは椎名林檎さんや東京事変などの楽曲を多く手掛けられている方ですね。

私、それまで音源というのはその楽曲のベーシックというかスタンダードな形を記録するものだと思っていたんです。うにさんとお会いしたとき"いままで通りのスタンダードな作り方にする? それとも自分の歌の生き様を記録する?"と聞かれて。"生き様"という言葉はいままで自分もずっと使ってきた言葉なので、同じ言葉を使うひとがいるんだと、すごく共感しました」

――ライブ感のある歌を録る、ということですね。

はい。CDにするにしても、歌ったその一瞬を記録する、という意味合い。技術的には歌を 直すか直さないか、ということなんですけど。なので、ほぼ一発録りです。その一瞬に本気を出して、それがふだんと違ったとしてもそのときのパワーが凄ければそれでOK

――確かに「風」の歌やフェイクには熱い感情がこもっていますよ。

ありがとうございます! じつはほかの曲もすべて歌だけ録り直しました。このミニアルバムからはそんな歌の生命力みたいなものを感じてくれたらうれしいです

――なるほど。では、最後になりますがこれから転職や就職など新しい道へ進もう、と考えているユーザーにメッセージを。

本当にやりたいことがあっても、さしあたってこなさなきゃいけないことをやってから、と思っている方も多いと思うんです。私も歌う前に宿題片付けてから、というタ イプでしたから(笑)。でも、本当にやりたいことを二の次にしていると一生やれずに終わっちゃうものなんですよね。本当に真剣ならやりたいことを優先するべき。そういう仲間がほしいですね。逃したくないものは一番最初に。たとえばショートケーキと同じで……

――イチゴは最初に食べる派ですね(笑)。

じつはそうじゃなかったんですけど"歌を歌っていこう"と決意してから変わりました。いまでは一番最初にイチゴを食べています(笑)