――最初の姿から、どんどん可愛くなっていきましたね。

そういうコンセプトがあったんですよ。

――過去にも数々の特撮映画において、いろいろな怪獣が東京で暴れてきました。

そういったものへのオマージュという意志はないですね。僕らの世代は、後から来た人たちのような特撮へのリスペクトはないんです。こたつの上のミカンなんて、わざわざオマージュしないでしょう。当たり前のものだから、そういうのはないんです。

作る側は革命的な事をやってくれていたと思いますよ。子供は(怪獣に破壊されるのが)本当の街だと思っていますからね。福島出身の西田敏行さん(謎の老人役)も、中学生の頃にゴジラを見て、僕の街が壊されると不安でしょうがなかったとおっしゃっていましたね。特撮はそれくらい切羽詰まった映画だったんです。

25年という時間が物語を優しくした

――ある意味、現代日本のファンタジーのようなお話でした。

寓話ですね。絵本のようなものです。でも、子供向けに書いたつもりは毛頭なくて、当時はかなり凶暴な気持ちで書いていました。

――当時作っていたら、こういう作品ではなかったかもしれない?

そう。『ゴジラ』みたいにいろんな社会批判を背負って、暴れまくって。今回は死傷者ゼロという話になっているけど、25年前だったらみんな死んじゃうくらいの勢いだったかもしれない。バブル期、夢の島の実景から始まるはずだったので、もっと"捨てられたもの"の方に(視点が)行っただろうね。

――そこが25年経って大きく変わった部分なんですね。

自分もさんざん、社会批判的なものや、過激なものや、いろんな映画を撮ってきたので。この台本自体、25年前には過激に見えたけど、今見るとそうではない。そういうところで、温かい方、ヒューマンドラマの方に寄ったのだと思います。でも本当に、25年前は精いっぱい過激なつもりで書いていたんです。

――寓話的なお話の中でも、特に良一のあこがれの女性・寺島裕子さん(麻生久美子)はファンタジーな存在に見えました。

寺島裕子には実はモデルがいまして。当時、寺島裕子という名前の人と付き合っていました。

――どんな方だったか、お聞きしてもいいですか?

うぅん……。優しい、人でしたよ。

――良一も、良一にとってのカメの存在も、受け入れてくれていましたね。

そうですね……。あこがれの女性像を、ちょっと架空というか、理想で描いたのかもしれません。それは僕も25年前、若かったから。


『ラブ&ピース』は、劇中で主人公・鈴木良一が歌う曲のタイトルでもある。園監督自身の作詞・作曲によるこの曲は、アレンジを変え何度も何度も流れるうちに頭から離れなくなる。そして嵐のような『ラブ&ピース』の盛り上がりから、エンディングの『スローバラード』(RCサクセション)が流れ出すと、社会批判も怪獣も恋も夢物語も、いろいろと詰め込まれているけれど、最後は笑い泣きでスッキリ見終わればいいのだと思えてくる。「ありのままの自分がいる」と本人が語るこの作品は、数あるフィルモグラフィーの中でも園子温監督の持つ世界の広さを知るには外せない1本である。

■プロフィール
園子温監督
愛知県・豊川市出身。1987年『男の花道』でPFFグランプリを受賞。PPFスカラシップ作品『自転車の吐息』(1990年)は、第41回ベルリン国際映画祭正式招待のほか、30を超える映画祭で上映。『愛のむきだし』(2008年)で第59回ベルリン国際映画祭カリガリ賞・国際批評連盟賞受賞、『冷たい熱帯魚』(2011年)で第67回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門を受賞。『ヒミズ』(2012年)では、第68回ヴェネチア国際映画祭にて主演2人にマルチェロ・マエトロヤンニ賞をもたらしたことでも大きな話題に。7月11日には『リアル鬼ごっこ』、9月には『みんな! エスパーだよ!』の公開も控えている。