――当時、曲を出すときは、声優の仕事とは別と捉えていたのですか?

林原「別ではなく、あくまでもその流れのひとつであり、世界観がちょっと広がったみたいな感じです。セリフに音符がついたくらい。これはよく使う"例え"なんですけど、私の行きたかったのが仮に沖縄だとして、沖縄に行ってみたらスキューバダイビングを勧められて、やってみたら楽しかった。そんな感じです。行きたいところは沖縄で、いろいろなところを観てみたいし、いろいろなものを食べてみたい。そんな中で、一度もやったことのないスキューバをやってみたら、あら素敵じゃない。そんな感覚でした」

――歌の仕事自体は、特に嫌だったわけではなかったのですね

林原「そうですね。最初のうちは(笑)」

――最初のうちだけなんですか?

林原「あまりに増えてくるとやっぱり……。当時は、何時間か空いていれば、その隙間に仕事が入って来る状態。こちらに選択権なんてなかったし、歌わせてもらえるだけでありがたいと思え、そんな時代でした。最初のうちは本当に楽しかったんですよ。私のために書かれた楽曲が目の前にあるわけですから。でも、あれよあれよと増えてきて、アフレコとアフレコの間にレコーディングとかになると、もう何が何だかわからない。事務所に文句を言っても、これは一時的なものだから、売れているうちに仕事しておけとか言われて。もう暖簾に腕押しみたいな感じになって、最終的には逃げ込むようにキングレコードと契約しました」

――スターチャイルドでデビューするまでは、たしかにいろいろなレーベルから曲を出されていますね

林原「それぞれすごく楽しかったのですが、とにかくスケジュールの組み方が過酷で。それはまだ色んな意味でハウツーのない時代だったからだと思います」

――今回リリースされる「タイムカプセル」は、そういう時代の作品を集めたアルバムになっていますね

林原「気がつけば4年くらいリリースがなくて、私自身はこんなスタンスも嫌ではないんですけど、ファンの人たちからも、キングレコードからもそろそろ出せって声が上がって(笑)。ただ、出せといわれても無いものは無いので、とりあえず自分の過去を洗ってみようと。原点回帰ではないですけど、たまたま25周年ということだったので、それならデビュー当時の、キング以外からリリースしたものを集めてみようと思ったのが、今回のきっかけです」

――今回「PULSE」の収録曲を再レコーディングなさっていますが、これは25年ぶりに歌ったという感じでしょうか?

林原「はい(笑)。まったくその当時から触っていないです」

――曲については覚えていらっしゃいましたか?

林原「もう新曲みたいな感覚でした。もちろん自分の身体の中にメロディは残っていましたが、テンポも違うし、アプローチの仕方もまるで違うので、まさに新曲と向き合う気持ち」

――アレンジは大きく変わっていますね

林原「アレンジに関しては、自分からいろいろとリクエストを出したり、イメージを伝えたりしました。歌手活動25周年とか言っていますが、私自身が歌うことに対して前のめりになったのはとても遅いんですよ。『Over Soul』以降なので、ここ15年くらい。それまでは歌えといわれた歌を全力で歌うというスタンスでした」

――自分からいろいろリクエストすることはあまりなかったのですか?

林原「デモの中から気に入ったものを選ぶといった感じで、どちらかというと受身。それも別に嫌ではなかったのですが、作曲家でもあるたかはしごうさんと出会ってから、だいぶ変わりました。いわゆる楽器弾きではない私に、楽器側のことをとてもわかりやすく、明快な言葉で説明してくださるので、自分のイメージも伝えやすく、コミュニケーションが取りやすいんですよ。そんな信頼関係が続いているので、今回も、"なぜ今の時代に歌いなおすのか"ということも含めて、お話をさせていただきました」

――原曲と聴き比べると、やはりアレンジに時代の差を感じますね

林原「たかはしさんもそこにこだわっていて、例えばDISC1に入っている原曲は、当時のアイドルソングを意識した感じがすごくあると思うんですよ。でも、『Over Soul』以降、2人で作ってきたのは、ロックっぽい、バンドっぽいものだったりする。なので、そのあたりのアプローチを加えつつ、今の時代の流行に乗るというのではなく、2015年を林原めぐみが表現するにあたり、という考え方でアレンジしてもらいました」