初日舞台挨拶に登場した(写真左から)冲方丁氏、工藤進監督、林原めぐみ

『蒼穹のファフナー』や『ヒロイック・エイジ』などでおなじみの冲方丁氏が原作のSF小説『マルドゥック・スクランブル』が待望のアニメ化。劇場アニメ『マルドゥック・スクランブル 圧縮 The First Compression』として11月6日に公開初日を迎えた。

2003年に第24回日本SF大賞を受賞した原作小説は、3部作がシリーズ累計50万部を超えるヒット作となっており、非常に高い人気を誇っている。まさに待望のアニメ化となった本作だが、その公開初日となる11月6日、東京・新宿のテアトル新宿にて、初日舞台挨拶が行われ、原作・脚本の冲方丁氏、監督を務めた工藤進氏、そして主人公・ルーン=バロット役を務める林原めぐみが姿を見せた。

立ち見客も出るほどの賑わいを見せる中、ステージに登場した3人はまず、初日を迎えた感想を述べる。

冲方丁氏 原作の初稿、脱稿から10年、前回のアニメ企画から5年、実際に制作が始まってから2年と、本当に長い道のりでしたが、こうして皆さんにお披露目する日を迎えました。本当に感無量です。今日ここにお集まりいただいた皆さんに本当に感謝しております。ありがとうございます。

工藤進監督 この日を迎えられて本当にうれしく思います。立ち見の方も大変ありがとうございます。

林原めぐみ ここまで長かったなぁというのが正直な感想です。もちろん先生にしてみればもっと長いのでしょうが、私の中にもバロットとの出会いから、別れから、そして再会から、いろいろなドラマが勝手にありまして、そして今日という日を迎えられました。今日じゃなきゃいけなかったんだ、という風に思わせられる出来事もたくさんあり、その今日という日に、同席していただき、皆さんと一緒に過ごすことができて、非常に幸せです。この後、喜びや悔しさ、いろいろなものを画面の中から感じていただくと思うのですが、そのすべてが、皆さんが生きていく中の何かになることはまちがいない映像になっていると思いますので、ぜひ楽しんで観ていただきたいと思います。

ステージに登場した3人。写真左は司会を務めた荘口彰久

「今日じゃなきゃいけなかったんだ」という林原の発言には大きな理由があった。

冲方氏 今日11月6日は、『マルドゥック・スクランブル』の主題歌のボイスを使用させていただいている本田美奈子.さんのまさに命日でして、本当にそれを聞いたときに、何かちょっと涙が滲むような感動を覚えました。

林原 それを狙ってやっているわけでは本当に無いんですよ。人が亡くなっていることを変に美化して、多弁したくはないのですが、でも見えない力に導かれているという気はします。

作品の見どころについて問われ、「『全部』という監督の心の声が聞こえた」と笑顔をみせる冲方氏だが、「僕としてはウフコックとバロットの関係性が本当に忠実に、本当に丁寧に描かれているので、そこに注目して、共感をしていただきたいなと思います」。一方、工藤監督は「"PG12"ということで、まさか小学生の方はいらっしゃらないと思いますが、見てはいけない部分もけっこうあったりして(笑)、ウフコックとバロットのあのシーンとか、畜産業者のあのシーンとかはけっこう見どころじゃないかと思います」。はたして"あのシーン"がどういった描写になっているのかは、実際に劇場にて確認してほしいが、それを補足するように林原が語る。

林原 私が言うことではないのですが、最初は"R18+"をもらってしまったという話もありまして……。でもそれは、それだけ逃げずにフィルムを作っているということの証明だと思うんですよ。柔らかくしようと思えばできるけれど、原作の切迫感や緊迫感、ギリギリの感覚というものを映像にしようとして、精一杯やったらそうなったというのは、逆に誇りなんだろうなという風に私は思います。

さらに林原の個人的な見どころについては、

林原 バロット的に言いますと、"骨伝導"というところでしょうか。たぶん、そういうアフレコをしたことのあるアニメはほかにないと思います。声帯を失っている少女の声を"スナーク"という形で表現するときに、回転を変えるだけでは面白くないだろうということで、"骨を震わせて伝える"という形をとっています。そのほかにも、いろいろな細かい部分に、一回ではたぶん見切れないこだわりがたくさんあると思いますので、それを一個でも二個でも見つけて、感じて帰っていってほしいなと思います。

冲方丁氏

工藤進監督

林原めぐみ

アニメ化が決まった際、原作をそのまま映像化してもよいのかどうかという悩みが冲方氏にはあったという。

冲方氏 2年前にこの原作でやりたいという話を聞き、アニメにしやすいプロットを作って、スタジオに持っていったところ、監督やプロデューサー陣から、「原作と違うじゃないですか」と言われて……。

林原 原作者なのに(笑)。

冲方氏 原作者が作ったプロットなのに、「原作と違うよ」といって突き返されたので、僕自身も覚悟を決めました。「この人たちはやる気なんだ、10年前の自分をリスペクトしなきゃ」と思い、本当に元・原作者として参加させていただきました(笑)。

工藤監督 ちょっとお言葉を返すようであれなんですけど、冲方さんにそのお願いをするときは、「ここはきっと読者の方も好きなところだと思うんですよね」って、下のほうからお願いしていたと思うのですが……。そんな厳しい言い方をしていないと思います。

冲方氏 いずれにせよ使えないということで、プロットは丸ボツになりました(笑)。

劇場版『マルドゥック・スクランブル』は、林原演じるバロットとネズミのウフコックとの関係を中心に描かれる。

ウフコックスタチューを手にする林原めぐみ

林原 もうしばらく恋はいいなと思っていたのですが、してしまいましたね。ズゴーンとこのネズミに(笑)。しばらくは家に帰ってからもネズミのことを考えていました。なんでネズミなんだろう、とか。どうしてネズミでなければいけなかったのか、とかそういう本当の理由とかではなくて。実は、その前の話があるんですよね。バロットと知り合う前のウフコックの話が3巻、タイトルが……。

冲方氏 『マルドゥック・ヴェロシティ』です。

林原 もうそのタイトルも私の記憶から抹消されているんですけど(笑)。『ヴェロシティ』を読もうとしたのですが、やっぱり読みたくないんですよ。ウフコックの前なんか知りたくないし、ましてやボイルドと組んでいたときのことなんか知りたくもない。原作者の先生自らに小説をいただいたのに、「読みません」って言っちゃいまして(笑)。この仕事が終わって、私の中からバロットが、シューって溶けて、血肉になって、林原めぐみひとりになったとき、初めて読み物として読めると思うのですが、彼女が私の身体を支配しようとしている間は、まだまだ読めないなっていう感じですね。

一方、ウフコックの声を演じた八嶋智人については、

林原 もう一言聞いただけで、やっと会えたって思いました、ウフコックに。八嶋さんご自身もアニメの仕事をなされていたこともあり、非常に細かい注文から、ビックリするような演技プランの変更などもありまして、やはりウフコックはどれも正解で、どれもまだ違うみたいなところがあったのですが、すごく真摯に取り組んでいらっしゃって、やりやすかったですね。八嶋さんのことを考えないで済むといいますか、ウフコックのことだけを考えていればいいという安心感の中でアフレコができました。

なお、工藤監督もウフコックについては、「マンガ的な動きではなく、なるべくリアルなネズミの動きを追求して」描いているとのこと。さらに、作品の見どころということで、

林原 あと、ボイルドは怖いですよ。もう覚悟してくださいね。声が怖いです。(声を担当しているのが)磯部さんという方なんですけど、磯部さんご自身はとても優しくて良い方なのですが、何しろ第一声から怖いので、覚悟していただきたいと思います、あと、畜産業者もダメですね。すごいことになっていますから。これも受け皿を大きくして観ていただかないと、やられちゃうと思います。本当に怖いです(笑)。

冲方氏 とにかく良い意味で、原作者から提示したものがスタッフの皆さんにことごとく突き返されるという、珍しい、けれどもそれだけ本気で作られている作品です。原作と同じというよりも、本当にアニメーションの『マルドゥック・スクランブル』としてご覧になっていただきたいと思っております。

劇場版『マルドゥック・スクランブル』は原作同様に3部構成となるが、「第一部は『圧縮』というタイトルどおり、ぎゅぎゅっと詰まっているので、一回観ただけでは当然わからない部分もあるし、続きを観ないとどうしようもないだろうという風な作りになっていると思います(笑)」と工藤監督も語るとおり、次回作が気になるところ。劇場公開は来年の予定で、工藤監督が「現在スタッフは血みどろになりながらやっています(笑)」とその進行状況を語ると、林原からも「『圧縮』を観る前に言うのもなんでが、早く次をどうにかしてほしい(笑)」との注文が入り、会場を沸かせていた。

ここでは舞台挨拶の最後に語られたメッセージを紹介しよう。

冲方氏 巡り巡ってご縁がありまして、本日皆さんとともに、初日公開を迎えることができました。本当にこのご縁を第二部、第三部と続けていく所存でおります。本日はとにかくこの第一部『圧縮』を観ていただいて、スタッフの想いが皆さんに届きますよう、心から願っております。本日はありがとうございました。

工藤監督 観終わったあと、絶対に第二部も観ないとしょうがないだろうっていう風になると思いますので、来年また会いましょう。

林原 ずっと今日じゃなきゃいけなかったなんて話をしてきましたが、ここにいる皆さんも今日ここに来られたというこのご縁を大事にしてください。私たちだけで作っている映画ではありません。ぜひここにいる皆さん一人ひとりが証人になっていただき、チーム『マルドゥック・スクランブル』の一人として、この映画をこの後もずっと見守っていただきたいですし、応援していただきたいですし、広めていただきたいと思います。今日は遅い時間に皆さんどうもありがとうございました。



劇場アニメ『マルドゥック・スクランブル 圧縮 The First Compression』は、テアトル新宿、ディノスシネマズ札幌劇場、109シネマズ名古屋、シネ・リーブル梅田、ユナイテッド・シネマキャナルシティ13の5館にて現在公開中。なお、リピーター特典として、本作を2回鑑賞すると「マルドゥック・スクランブル メモリアルフィルム」がプレゼントされる。上映劇場、特典の詳細については、公式サイトをチェックしてほしい。

(C)冲方丁/マルドゥック・スクランブル製作委員会