国民的RPGである「ドラゴンクエスト」に夢中になった経験があるという人は少なくないはずだ。かくいう僕も、中学3年生で高校受験真っ盛りの時に発売されたばかりのドラクエ7に熱中しすぎて成績を落とし、危うく入試に失敗しそうになった経験がある。ドラクエの中毒性は他のゲームと比較しても非常に高い。「とりあえず1時間だけ」と始めたつもりが、気づくと徹夜する破目になったりする。

ところで、そんな「ドラクエ」と比べて、あなたは自分の「人生」をどのぐらい面白いと感じているだろうか? 「人生なんてつらいことばかりで、圧倒的にドラクエのほうが面白い」と断言するのであれば、今回紹介する『人生ドラクエ化マニュアル』(JUNZO/ワニブックス/2015年4月/1,200円+税)をぜひ読んでみて欲しい。本書で解説されている「万物ゲーム化理論」を理解すれば、退屈でつまらなかった人生を刺激溢れるゲームに変えることができるかもしれない。

ゲームの3大要素を投入すれば人生はゲーム化する

JUNZO『人生ドラクエ化マニュアル』(ワニブックス/2015年4月/1,200円+税)

本書の著者であるJUNZO氏はドラゴンクエストの開発会社であるエニックス(現スクウェア・エニックス)の元社員である。エニックス時代、著者は上司からこんな指示を受けたという。 「JUNZO君、『ゲームとは何か?』というレポートを提出してよ」
この指示が、結果的に本書の提唱する「万物ゲーム化理論」の発見につながっていく。

本書によると、ゲームとは「目的を達成するためのルールに則った敵との楽しい闘い」と定義される。また、ここでいう「目的」「ルール」「敵」の3つは「ゲームの3大要素」と本書では呼ばれる。思うに、ドラクエはこの3大要素が絶妙なバランスで配合されたゲームだった。そして、人生をドラクエ化したいと思うのであれば、自分でこの3大要素を絶妙なバランスで人生に投入してやればよい。

このように、ゲームの3大要素を投入することによって対象をゲーム化できるという考え方を、本書では「万物ゲーム化理論」と呼んでいる。

人生の成功者はゲーマーばかり?

本書が面白いのは、人生の成功者の多くは(意識的ではないにせよ)「万物ゲーム化理論」によって人生をゲーム化してきた人たちであり、それによって人生の成功を手にしてきたというスタンスで話が進むところだ。『プレイボーイ』の創刊者であるヒュー・ヘフナー、『アナと雪の女王』のプロデューサーであるジョン・ラセター、ケンタッキー・フライド・チキンの創業者カーネル・サンダース――彼らは全員、本書によれば生粋の「ゲーマー」ということになっている。

これは結局、人生を楽しみ大きな結果を残すためには、「目的」「ルール」「敵」といったゲームの3大要素を適切に設定することが有効だということを示しているのだと思われる。たしかに、目的が欠如した状態では日々どこに行ったらよいかわからないし、敵(=越えるべき壁)がまったくいない人生も張り合いがなくてつまらない。また、ルールがわかっていないと適切な行動は選択できない。「目的」「ルール」「敵」のいずれが欠けても人生の成功は手に入らない。

人生はつまらないことばかりだと嘆いている人は、多くの場合この3大要素のどこかが欠けていたり曖昧な状態のままになっている。本書を読めば、これらをうまく設定するコツが掴めることだろう。

人生のゲームバランス調整は自分でできる

人生のほうがドラクエよりも何倍も面白いゲームになりうる理由のひとつに、選択の幅が非常に広いという点が挙げられる。ゲームでは、コマンドは既にプログラムされている有限の選択肢の中からしか選ぶことができないが、現実の人生であれば取れる行動の種類はほぼ無数にある。また、ゲームバランスの設定だって本人の捉え方次第で自由自在だ。

それゆえに、うまく設定できれば人生をドラクエを越えるゲームに仕立て上げることもできるが、逆に設定を間違うとおそろしくつまらないゲームになってしまう。ここでポイントとなるのは、ゲームの難易度は目標設定によって変化するということだ。あたりまえだが、大きな夢は簡単には叶わない。一方で、小さな目標なら比較的容易に達成できる。

ドラクエでは、敵は雑魚キャラ→小ボス→中ボス→ラスボスの順で、徐々に強くなっていく形で登場する。自分の人生ゲームをドラクエと同じような絶妙なゲームバランスにしたいのであれば、これと同じことをすればいい。つまり、目標をステップバイステップで登れるように自分で設定して、最終的に大きな夢に到達できるように計画を立てればよい。

このやり方は別にゲーム化云々という話をせずとも、何か大きなことをやり遂げたいと思うのであれば有効かつ必要なことである。夢はあるけど前進しないという人は、この点を見なおしてみるとよいだろう。

一度きりの人生である。つまらないと嘆くよりは、能動的な気持ちで楽しんだほうがいいのはあたりまえだ。ぜひ、本書でそのヒント見つけて欲しい。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。