4月から5月にかけて、全国の小学校の大半では眼科検診が行われます。成長過程にあるお子さんの場合、去年までは全く異常がなかったにもかかわらず、突然、判定結果が悪くなるということも。眼科を受診した結果、メガネの着用を薦められるケースも少なくはないでしょう。
子どもにメガネを付けさせるのは嫌だなぁ。そんな風にメガネを毛嫌いする向きもあるようですが、実はその思い込みが最悪の事態を招いてしまいかねないのです。初めてのキッズメガネに向き合う際、どういう風に対応すればいいのか? 武蔵浦和眼科クリニックの江口万祐子院長に伺ってみました。
素人判断は危険。まずは医師の判断を仰ごう
通常、学校での視力検査では、子どもの視力をA~Dでランク分けしていきます。問題なしのA判定は視力1.0以上。眼科での診察を促されるのは0.7~0.9のB判定以下となった子どもたちとなります。1.0と0.9ではたいした差がない。いつもと子どもの行動が変わらないから大丈夫。などと受診をしないでいる家庭もあるようですが、それが大きな間違いであると江口先生は指摘します。
「成長期のお子さんは、わずかな期間で視力の異常が進みますし、何の対策も練らないといわゆる弱視となってしまう危険性もはらんでいます。検査時にお子さんがふざけてしまって、きちんとした結果が出ていないケースもありますが、医師の診断なしには真実はわかりません。健康診断でB判定以下が出たら、必ず受診してください」
医師の受診を敬遠しがちなのが、メガネに関して勘違いをしてる親御さん。健康診断で子どもの目に異常が出たのに、「メガネを付けると余計に目が悪くなる」などと考えて、医師への受診をさせないで放置しているケースがあるそうです。特に視力に不自由のない親御さんに多いケースだといいます。
「メガネをかけたからといって、目が悪くなるということはありません。そういう思い込みをしていると、特に弱視の場合は取り返しのつかない事態を招いてしまいます。弱視の多くはメガネで矯正して治療しますから」 と江口先生は警鐘を鳴らします。
弱視の治療は10歳までが限界
目の位置の異常である「斜視」、極度の遠視などを含む「屈折異常」、いわゆるガチャ目の「不同視」などが弱視の原因になります。これらの症状を治療するには、子ども時代の早期の対応が必要不可欠。
「子どもの視力の感受性は8~10歳で限界を迎えるといわれていますので、対策を練るなら早期であればあるほどベスト。10歳以降はメガネをかけても弱視が治療できなくなる確率が高くなってしまいます」
生まれた頃から弱視の傾向があるお子さんだと、本人も"そういう見え方が当たり前"だと思ってしまって、周囲が気づかないケースもあるようです。後戻りできない年齢で一気に弱視が進行して、取り返しのつかない事態に陥ることも。ただ、視力検査では何らかのシグナルが出ているはずですから、やはり異常が出たら即眼科へというのが鉄則です。
「保護者の間違った知識や固定概念で、メガネをかけるべき子どもがかけられないという事態を少しでもなくしたいです」
と江口先生は語気を強めます。ちなみに近視の場合、成長とともに眼球が大きくなると、どうしても視力が落ちてしまう傾向にあることから、メガネとの付き合いは長きにわたって続きます。
「といっても、軽度の近視ならば本人が納得するまでメガネをかける時期を遅らせるという選択をすることもできます。また、成長過程で一時的な近視となる『仮性近視』は早期なら目薬で治療が可能なこともあります」
メガネを着用するかはケースバイケース。だからこそ、素人判断ではなく、医師のアドバイスが欠かせないのです。
メガネを買うのは、近所の店がベスト
診察の結果、メガネを着用するということになった際、どのようなところに注意すればいいのでしょうか? 江口先生は「デザインは二の次」だといいます。
「子どもは成長によって顔の幅が変わりしますし、活発な子の場合はフレームが曲がってしまう恐れもあります。気づかないうちに視力が変わって、メガネが合わないという事態も招きかねません。頻繁に調整がしやすい自宅近辺のメガネ店で購入するのがいいでしょう」
長期休みのたびに調整や視力の再検査を行うことで、こまめにお子さんの目の状態を確認して行くのも忘れずに。また、弱視の治療用の場合、入浴時と就寝時以外はメガネを付けて生活することになるので、破損時のリスクを考えて予備を1つ持つように心がけたいところです。
中には小学生からコンタクトレンズを選択させる親御さんもいるようですが、江口先生から返ってきたのは"それはNGです"とのこと。
「コンタクトレンズは異物ですから、目を傷つけたり、目の病気になりやすくなる可能性を高めてしまいます。目の成長の途中にある小学生がコンタクトレンズを付けるのは危険なこと。使用の目安は高校生からです。激しいスポーツをする子の場合はスポーツ用ゴーグル等で対応していただきたいです」
たかがメガネと安易に考えると危険。苦しむのは子どもですから、メガネは適切に活用して、子どもの目の健康を正しく守りたいですね。
photograph = Yui Kanai
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