「欲がない」と言われて落ち込んだ過去

――2013年1月15日付のブログには、「10代の後半、仕事で出会った目上の方に『欲がない』と言われました。その時はそう言われて何だか『お前はだめだ』と言われている気がして嫌なものでした」という書き込みがありました。お話しているとむしろ貪欲な方のような気がしますが。

2月19日、都内で行われた会見(舞台『広島に原爆を落とす日』)に出席した早織

ええ、貪欲なタイプだと思います(笑)。あまり表に出さないと「無関心な人」と思われてしまうんですね。探究心とか好奇心が強いというのは、自分でも分かってるんです。でもそれを意思表示しないと熱の低い人と思われるみたいで。

――演技や仕事に対する情熱は、デビュー当初から変わっていませんか。

好きな気持ちとかは変わってないですね。さすがにオーディションに落ち続けると、落ち込みますけど、向いているか向いてないかは考えないようにしています。それは自分が決めることじゃないと思っているので。それと同じように、役が合っているか合ってないかは、私だけでは決められないというのはあったんですけど、「私だけでは決められない」という気持ちが強くなりすぎると、自分のエネルギーが落ちちゃうというか。

「この役をやりたい!」みたいな気持ちを強く思ったほうが、きっと私にはいい作用を及ぼすと思うんです。私は「○○がしたい」という強い気持ちを持つのが、とても苦手でした。でも、熱が低く見られがちな人間であるのならば、ちょっと出した方がちょうどいいんだというのが分かってきて。いっぱい言ったからといって叶うわけでもないんですが、そこで考えすぎて閉じちゃってると「何にも思ってない人」に思われがちで、それはそれで淋しいなと。

改名の真相

――改名したのが2010年。もうすぐ「小出早織」時代と「早織」時代が並びますね。

そうですね。「小出早織」は事務所につけていただいた名前でした。今思うと、「なんてことをしてしまったんだ」と思いますよね(笑)。うーん……なにかすごく強い動機があったわけじゃないんですよ。知人に姓名判断をする方がいて、「小出」は良い画数だけど、それがちょっと邪魔するかもしれないねと言われたんです。じゃあ…ちょっと変えてみようかなって。

――大きな決断だったと思いますが、躊躇しなかったんですか? 当時のブログを読むと、すごくあっさりと決めた印象だったので。

照れちゃうのであっさり言っちゃうんですね(笑)。なんだったんだろう……。あっ、わかった!「こういう役がやりたい」とか自分から自己主張をするはじまりだったと思います。「小出早織」というのは事務所に入っていろいろ経験して学ぶ時期。それを第1期とすると、その経験を積んだ後に「自分がどういうふうに進んでいきたいか」という少し主体性が出てきた変わり目だったかなと思います。そういう捉え方はしていますね。「小出」をとりたいですなんて、恐れ多いじゃないですか(笑)。

――周囲の反応はいかがでしたか。

当時のマネージャーさんは反対。「ダメです」とはっきり言われました。それまで、マネージャーさんの仕事の方針以外の仕事も興味を持っていたりしたので、自分の思いをまっすぐ伝えられないといけないような気がして。そういう関係性も不安だったので、自分の中ではひとまず「改名を決めたことを伝える」という強さが欲しかったんです。最後は「社長がOKすれば」となりまして。社長も名前を決める時に考えてくださったんですが、「いいよ」の二つ返事でした(笑)。

――改名したことによっての変化はありましたか。

『帰ってきた時効警察』で共演させていただいた岩松了さんの『国民傘』という舞台に出演させていただいたんですが、名前が変わりたての頃でした。そこから舞台の出演も増えました。岩松さんの舞台に出演していないと、私の「舞台への思い」は今のように熱くならなかったと思います。また岩松さんの舞台に出させてもらえるように、舞台上で俳優としてしっかりしないとと思います。舞台は「自発的なもの」だと思っています。気になる演出家さんのお芝居を見に行って、あの人の作品好きだなとか役者さんすてきだなとか。オーディション受けたいですと自分からマネージャーさんに相談することが多くなりました。

同世代の演出家である根本宗子さんの劇団公演、俳優座での『殺人鬼フジコの衝動』、その後に大阪の新歌舞伎座での『元禄チャリンコ無頼衆 浪花阿呆鴉』で早乙女太一さんとご一緒しました。その舞台を見た松竹のプロデューサーさんが、今回の『広島に原爆を落とす日』の出演依頼をしてくださったんですよ。あの時の演技がよかったからと言ってくださって、すごくうれしかったですね。これからも、そうやって仕事が広がっていくように、がんばっていきたいと思います。

■プロフィール
早織
1988年5月29日生まれ。京都府出身。ドラマ『電車男』、『1リットルの涙』で脚光を浴び、『ケータイ刑事 銭形雷』で初主演。戦後70周年特別企画『広島に原爆を落とす日』でヒロインにばってきされた。近年では映画『旅立ちの島唄 ~十五の春~』(13年)、『百円の恋』(14年)、ドラマ『ラスト・ドクター』(14年)、『相棒 season13』(15年)などに出演。『広島に原爆を落とす日』は4月3日から京都四條南座で幕開け、広島、神戸、静岡、愛知を経て、4月14日から23日までは東京・サンシャイン劇場で上演される。