WILLER ALLIANCEはこのほど、「WILLER TRAINS商品発表会」を実施した。新たに設立された鉄道事業会社「WILLER TRAINS」が経営不振の北近畿タンゴ鉄道の列車運行に乗り出すほか、グループを挙げて鉄道沿線地域の活性化をめざす。新たな鉄道ブランド「京都丹後鉄道」と、鉄道路線を核とした「まちづくり」構想も紹介された。

「WILLER TRAINS」設立と事業構想を説明する村瀬茂高氏

WILLER ALLIANCEは交通事業として高速バス事業会社「WILLER EXPRESS」を展開し、情報サービス事業会社「WILLER TRAVEL」が高速バスのオンライン予約サイトを運営している。長距離バスユーザーには、2つのサービスを合わせて「ピンクの長距離バス」として親しまれている。企画旅行としての貸切バスとICT技術を組み合わせ、定時運行、低コストで快適な座席サービスを実現した。新感覚の長距離バスを運行する手法で急成長し、高速路線バスにおける規制緩和のきっかけを作った会社のひとつだ。現在は国が定めた新制度「新高速乗合バス」の最大手として認知されている。

WILLER TRAINSは同社の交通事業部門に加わる新会社で、北近畿タンゴ鉄道の鉄道運行事業を引き継ぐ。本誌既報の通り、昨年5月に北近畿タンゴ鉄道の最適提案事業者に選定され、サービス名を「京都丹後鉄道」に変更、あわせて路線名・駅名も変更し、まちづくりに取り組み、企画乗車券を拡充することが発表されている。

WILLER TRAINSは、WILLER ALLIANCEの交通事業会社として設立された

ウィラーが取り組むのは「鉄道再生」だけではない

北近畿タンゴ鉄道は沿線自治体が出資する第3セクター鉄道で、現在は線路施設を保有し、鉄道運行も手がける。JR旅客会社や大手私鉄と同じ「第一種鉄道事業」という形態だ。4月1日以降、列車の運行や営業に関してWILLER TRAINSが「第二種鉄道事業者」となり、「京都丹後鉄道」のブランドで展開する予定。北近畿タンゴ鉄道は「第三種鉄道事業者」となり、線路施設などを保有、管理する会社として存続する。ローカル線の運行負担を軽減する「上下分離」という枠組みである。

「上下分離」「第二種鉄道事業」という形態から考えれば、WILLER TRAINSが鉄道運行のみを受託したような印象を受ける。もちろんそこには、民間企業による鉄道の魅力再生や高速バス事業のノウハウを生かしたコスト管理、インターネットを活用したプロモーションも期待できるだろう。

交通事業だけではなく、まちづくりも手がける

しかし、発表会ではもっと大きな構想が披露された。鉄道の再生だけではなく、地域の再生にも着手するというのだ。鉄道だけ改革しても、乗客が増えなければ存続は難しい。しかし全国的な傾向として、地方では乗客となる地域の人口も減少傾向にあり、北近畿タンゴ鉄道の沿線も例外ではない。鉄道を存続するために乗客を増やす、そのためには地域の人口を増やすという根本的な解決が必要だ。

WILLER ALLIANCEの代表で、WILLER TRAINSの社長も務める村瀬茂高氏は、昨年6月から半年間にわたって北近畿地域に家を借り、毎週木・金曜、ときどき週末も同地域で生活したという。その実体験と調査、沿線自治体や企業とのやり取りを踏まえて、この地域に対して10年構想で取り組み、「初めの5年間でイノベーションを起こす」と語った。

「高次元交通ネットワーク」「職場」「教育」の3本柱

WILLER TRAINSを核とした地方再生について、村瀬氏は「高次元交通ネットワークの実現」「地域を創生する若い人の働く場の創造」「交通・まちづくりをめざす学生の教育の場を創造」の3つの柱を立てた。

「高次元交通ネットワークの実現」のおもな対策は2つ。「ストレスのない乗換え」と「公共交通空白地帯の解消」だ。列車から路線バスへ。列車・路線バスからタクシー、レンタサイクル、新しい小型モビリティを採用した新たな交通サービスへ。短時間でスムーズに乗り換えられれば、自家用車のドアツードアに準じた便利さを提供できる。住居地域や商業施設、病院・学校など公共施設を相互に移動する場合も、公共交通から徒歩500m以内に収めたいという。散在する小さな集落に対しては、公共交通の空白地帯を解消するため、予約型公共タクシーサービスや小型デマンドバスなども検討する。

「高次元交通ネットワークの実現」のためには、現在の沿線地域の地元バス会社、タクシー会社などとも連携していく必要がある。すでに自治体を交えた話し合いの場が持たれ、前向きに進行しているという。居住者が行きたい場所に対して、いつも同じ値段で(ONE PRICE)、一度の手続きで(ONE BOOKING)、支払いも簡単にできる(ONE PAYMENT)サービスを提供していく。

鉄道、路線バス、タクシーなどを使って公共交通を整備する

京都丹後鉄道では、沿線の商業地域の特売情報、あるいは沿線地域の催しといった情報を社内や駅の情報に取り込み、「移動需要」の掘り起こしも行う。福知山の人々に豊岡のお菓子祭りを紹介し、宮津の人々に舞鶴のつつじ祭りを紹介する。こうしたイベント情報と合わせて、格安のフリーきっぷも提供する。その他、家族向けの「週末ファミリーバス」、祖父母と孫で使える「55&キッズ全線パス」も提供する。

「週末ファミリーパス」は、大人2名・こども2名の組み合わせで、1グループあたり2,200円、ウェブで購入すると2,000円。全線乗り放題で、特急列車自由席も利用できる。これはバーゲン以上の価格設定だ。たとえば宮津~豊岡間の現在の普通運賃は大人1,270円、こども640円、親子4人で往復すると7,640円。これが2,200円で済む。

「そんなに割り引いたら儲からない」という声も出そうだ。しかし、これこそが「WILLER ALLIANCE」の急成長の要因である。低価格な交通手段は、既存の交通手段から顧客を奪うだけでなく、新たな移動需要を創出する。実際、「低価格なら移動を始める」という人々は多かった。普段はメールや電話で済ませる家族や友人に、低価格なバスで会いに行く機会を作る。それがピンクのバスが作った「需要創出」だ。

WILLER TRAINSは、普段クルマで移動する人々に、「乗換えが便利で値段が安いなら、列車やバスにしよう」という需要を掘り起こそうとしている。

地域の交通手段として、家族にスポットを当てたフリーきっぷを新設

離れた地域のイベントに合わせたきっぷを設定し、地域内の移動需要を生み出す

交通が便利な地域に若者(乗客)を招く

「高次元ネットワーク」を進めて、便利な地域へと成長させていく。それと同時進行で若者が地域で働く場も提供する。地方に若者が魅力を感じない理由は、都会と同等の賃金を得られる仕事がないから。しかし若者、働き手が少ない地域に進出する企業はない。求職と雇用はタマゴとニワトリの関係になってしまう。

京都丹後鉄道の乗客を増やすには、若者と職場の両方が必要だ。そこで、まず沿線に企業を誘致し、地元の若者の流出を食い止めるとともに、Uターン・Iターンしやすい環境を作る。その企業の筆頭として、WILLER ALLIANCEが自社の部門を移転させることも検討しているという。カスタマーサービス部門、運行管理部門、オンライン予約システム部門などは、必ずしも都会に置く必要はない。まずWILLER ALLIANCEがやって見せて成功パターンを作り、他の企業へ手本を示す。

政府は東京・大阪・名古屋などの都市圏から地方へ移転した企業に対して、法人税を優遇する制度を新設するという。東京から富山へ移転するYKKが適用第1号になるとも報じられている。こうした「法人移転需要」の受け皿となるべく、京都丹後鉄道と沿線自治体は連携を深めていくと思われる。

職場や教育環境を整えて若者に魅力ある地域にする

さらに、教育の拠点としても若者を受け入れる。沿線の教育機関と連携し、「交通とまちづくり」を学び、人材育成のための協力体制を構築する。鉄道部門では京都丹後鉄道が、バス事業ではWILLER EXPRESSが実習の場を提供する。卒業生はWILLER ALLIANCE内で採用するほか、他の地域や企業に教育者を派遣する。地域全体が「交通大学」のような機能を持つ。

これも興味深い試みだ。以前、いすみ鉄道(千葉県)が訓練・研修費を自己負担する鉄道運転士を募集して話題となった。合格者はいすみ鉄道で運転士として乗務できる。これは鉄道ファン向けであり、自社採用が前提だ。しかし、WILLER ALLIANCEのめざすところは教育機関であり、自社採用だけでなく、他社への採用もめざしていくだろう。

現在、多くの第3セクター鉄道の現場では、旧国鉄・JRから引き続き勤務する職員が多い。彼らの多くは高齢で、退職の時期を迎えている。ローカル鉄道の規模では、自社で養成する施設もない。余談だが、映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の主人公は京王電鉄の研修センターで訓練していた。

WILLER ALLIANCEは、こうした委託研修施設としても京都丹後鉄道を活用していくと思われる。鉄道や交通を学ぶ学校としては、岩倉高校(東京・上野)や昭和鉄道高校(東京・池袋)をはじめ、専門的に学べる学校も多い。これらの教育機関との連携もありそうだ。

丹後海陸交通も利用できる「天橋立まるごとフリーパス」は継続

鉄道のみのフリーきっぷを新設。ウェブ割も提供

京都丹後鉄道の収益を上げるために、沿線の誰もが京都丹後鉄道へアクセスしやすい環境を作る。その上で、若者に魅力のある沿線地域作りをめざす。単なる鉄道事業への進出ではなく、WILLER ALLIANCEがグループを挙げて「地方再生」へ挑戦する。

「ウィラーが鉄道を手がける」と聞いて、「天橋立のあたりに、バスと同じ色のピンクの列車が走るのか?」と予想したけれど、まったくもって些末な話だった。発表された構想が確実に実行され、京都丹後鉄道の魅力が増していくよう期待したい。