2014年の大河ドラマ『軍師官兵衛』は、岡田准一の熱演が冴え、3年ぶりに平均視聴率が15%を超えるなど復活のきざしを見せた。そして、1月4日に2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』第1話がスタートする。

事前のメディア報道では、「大河ドラマ史上、最も無名なヒロイン」「イケメン大河」などと言われているが、実際の見どころはどこなのか? 3つのポイントから解説していく。

ホーム、学園、女の戦い、恋愛。4つのドラマ

『花燃ゆ』で主演を務める井上真央

まず気になるのは、井上真央演じる「無名なヒロイン」の杉文。確かによほどマニアな歴史ファンでない限り、その名前は知らないだろう。しかし、兄が松下村塾の吉田松陰で、夫が初めて外国船砲撃をした久坂玄瑞、さらに奇兵隊の高杉晋作、初代総理大臣の伊藤博文、維新三傑の桂小五郎らとも交流があるなど、周囲は幕末の人気者ぞろいだ。

また、主人公を文にしたことで、単なる歴史モノではなく、バリエーション豊かなドラマになった。まず杉家をめぐる"ホームドラマ"があり、松下村塾へ若者が集まりはじめると"学園ドラマ"の要素が加わる。その後、文は夫を失って毛利家の奥女中になるため、今度は"女の戦いドラマ"へ。終盤には、「かつて恋心を抱いていた姉の夫と再婚」という恋愛ドラマもある。つまり、単に「歴史を追う」ドラマではないため、「歴史を知らなくても、時代劇好きではなくても楽しめる」のだ。

文字にしただけでも、文の人生がいかにドラマティックだったかが分かるが、男たちが夢ばかり追いかける中、それを支えながら懸命に生きた姿は共感必至。知名度がないからこそ、脚本家や演出家はそのキャラクターを大胆に描けるし、視聴者は先の展開が読めずに楽しめるだろう。

そもそも文をヒロインにするという設定は、脚本を務める大島里美と宮村優子が、土屋勝裕プロデューサーと萩へ取材に行った中で決まったもの。足を使って現地で見つけたヒロインだけに、自由度は高く、思い入れは強いのだ。『花燃ゆ』は「ノンフィクションをベースにしたフィクション」として楽しめばいいと思われる。

幕末版の「イケメンパラダイス」

次に、「イケメン大河」と言われることについて。小田村伊之助を大沢たかお、吉田松陰を伊勢谷友介、久坂玄瑞を東出昌大、高杉晋作を高良健吾、吉田稔麿を瀬戸康史、入江九一を要潤、野村靖を大野拓朗、桂小五郎を東山紀之、周布政之助を石丸幹二が務めるなど、スタイリッシュな印象のイケメンが多いのは間違いない。

キャッチコピーに「幕末男子の育て方」とあるように、見どころは若手キャストの群像劇。イケメンたちが、友情と恋、出会いと別れを繰り返しながら成長する姿は、さながら"幕末版イケメンパラダイス"といったところだ。

しかし、彼らはどこまでも熱く、行動力であふれ、命をかけることもいとわない幕末の志士。その男らしい姿が、世の女性たちの間で話題になるかもしれない。前述した大島と宮村の脚本家2人が、女性目線を意識しつつ魅力的なイケメン像を作り上げてくれるだろう。

また、カメラワークも大河ドラマらしく「どっしり構えて撮る」だけでなく、「躍動感が出るようにハンディカメラを使っている」とのこと。スラリとした長身の彼らがどんな身のこなしを見せてくれるのか楽しみだ。

"キレる妹キャラ"井上真央の魅力

3つ目のポイントは、主演を務める井上真央。いまだ『キッズ・ウォー』『花より男子』での"学園ヒロイン"というイメージもあるが、彼女も27歳になった。しかし、若手女優屈指の"妹キャラ"という印象は変わらず、実際に兄がいることもあって、「吉田松陰の妹」という役柄に最適な人選だろう。

文は松下村塾で給仕や裁縫などに奮闘し、「女幹事」と呼ばれていたほどの働き者。しかし、ただしっかりしているだけでなく、好奇心旺盛だったり、いたずらっ子だったり、ちゃっかりしていたりなどの愛きょうもたっぷり。このあたりも全て井上のイメージとすんなり重なる。大河ドラマの主演でも、朝ドラ『おひさま』でヒロインを演じていたときと変わらぬ「さわやかさ」「ひたむきさ」を感じられるのではないか。

ただ、今でこそ井上の魅力はほのぼのとした笑顔と思われているが、ブレイクのきっかけは怒った姿だった。前述した『キッズウォー』『花より団子』で見せたキレる演技が『花燃ゆ』でも披露される。なかでも、破天荒な兄に思いをぶちまけるシーンと、祝言で久坂玄瑞と大ゲンカするシーンは見物だ。

井上の大河主演で思い出したのは、同じ"童顔のヒロイン"宮崎あおい。杉文ほどではないが、天璋院(篤姫)は一般的に有名とは言えないだけに、似たものを感じる人は多いのではないか。2008年に放送された『篤姫』は、女性層の熱烈な支持を受けて平均視聴率24.5%をマーク。これは21世紀に放送された大河ドラマの中で断トツ1位であり、「今後破られない」と言われる大ヒットとなった。演技力や好感度では決して負けていない井上の『花燃ゆ』がどこまで肉薄できるか期待したい。

最後にひとつマメ情報を。今回のナレーションは、池田秀一が務める。名前を聞いてピンときた人もいるであろう、この人の代表作は『機動戦士ガンダム』のシャア・アズナブル。声までイケメンなのである。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。