ストレスが原因で体調不良に?
「突然、胃が激しく痛む」「商談の前になると下痢になる」「最近、目が覚めると頭痛がする」……。これらの症状が常態化し、なんらかの病気を疑い検査したところ、「特に異常なしで原因不明」と言われた経験はないだろうか。
これらの体調不良は、強いストレスや緊張、疲労などによっても生じることが医学的に実証されているのである。心の不調は体にどのような影響を及ぼすのだろうか。桐和会グループの精神科医・波多野良二先生に伺った。
内科や脳外科などを巡りきった後に精神科へ
「器質的疾患」と呼ばれる潰瘍や炎症、出血、アレルギーなどが原因で、胃痛や下痢、頭痛、じんましんなどの症状が出ることは一般的にも知られているだろう。だが、これらの症状を抱えて内科や脳外科、皮膚科などを受診し検査しても「特に異常なし」(器質的疾患はない)と診断されるケースが少なくないと波多野先生は話す。
「胃痛などの具体的な体調不良を抱えている人は、まずは胃潰瘍や腫瘍などの、なんらかの体の病気を疑って内科を受診します。血液検査やレントゲン、胃カメラなどの検査の結果、特に異常なしと診断され、原因がわからないまま、不調を抱えて悩みつづける方もいます。さまざまな科を数カ月間受診してまわり、体内のどこにも『器質的疾患』がないと診断された後、医師などに勧められて最終的に心療内科(精神科)にたどりつくケースも多いです」。
ストレスや緊張、疲労が神経系を刺激
体の不調を訴えてさまざまな分野の医師に見てもらった挙げ句、体の不調とは関係がなさそうな精神科を訪問させられる。当事者にとってはストレスにもなりかねないが、波多野先生はこう解説する。
「患者さんの中には、うつ状態に陥っているわけでもないのに、精神科の受診を勧められることを不快に感じる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、実際には強いストレスや緊張、疲労などによってあらゆる体調不良が発生するメカニズムは、医学的に実証されているのです」。
強いストレスや緊張、疲労によって、セロトニンやノルアドレナリン、アセチルコリンなどの神経伝達物質が体内で増加、あるいは減少する。それに伴い、脳や自律神経、腸などが刺激を受け、結果として内臓器官や血管の働きに影響を与える。これらの神経伝達物質は、体内の行く先々の場所によってそれぞれ異なる働き方(使われ方)をしており、増えることが体にいい場合もあれば、悪い場合もあるという。
先に体に来るか心に来るかは、人によって異なる
「強いストレスを感じた際は、その影響が体に来るケースと、心に来るケースの2通りがあります。体に来ると胃痛などの具体的な不調となって現れ、心に来ると『うつ病』もしくは(その前段階にあたる)『うつ状態』に陥ります。体と心のどちらに先に影響が来るかは人によって異なり、デリケートで神経質な性格の人は、先に心に来やすいでしょう。体が先の場合は、胃腸障害、頭痛、じんましん、帯状疱疹、難聴などの症状が現れます。どちらが先に来ても、適切な治療を受けないままひどくなると、体も心も両方痛めてしまいます。器質的疾患はないことがわかった後も不調が続くようでしたら、ぜひ心療内科(精神科)を受診してください」。
次回以降は具体的な症例もまじえながら、強いストレスによって実際に体に痛みが生じるメカニズムについてより詳しく紹介していこう。
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記事監修: 波多野良二(はたの りょうじ)
1965年、京都市生まれ。千葉大学医学部・同大学院卒業、医学博士。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。東京の城東地区に基盤を置く桐和会グループで、日夜多くの患者さんの診療にあたっている。