エールフランスのパイロット組合によるストライキの影響で、9月15日から22日までの予定で一部フライトが欠航となっていたが、そのストライキがさらに延長されて30日までになる見通しとなった。日本に比べてストライキが日常的に見られるフランスだが、今回のストライキは低コスト航空会社(LCC)の人気に起因しているようだ。

エールフランスのハブ(拠点)空港、シャルル・ド・ゴール国際空港(パリ)。自然光が入る明るく、豪華さを感じる

LCC人気が根本原因

ヨーロッパでは90年代からLCCの路線が増えてきたが、EUの経済低迷などから安い運賃を求める旅行者は減りそうもない。日本ではANAホールディングスが100%出資のLCCであるバニラエアを設立して順調に路線や乗客数を伸ばすなど、傘下にLCCを持って路線を広げ、業績を上げていく戦略は世界中に見られるようになっている。

そうした背景からエールフランス(親会社エールフランスKLM)も傘下のトランサビアというLCCの路線を大幅に拡大する計画を発表した。それにかみついたのが、パイロットの労働組合だ。なぜか? 収入などの労働条件の悪化を懸念したからである。

子会社のトランサビアの路線を拡大すればエールフランスの便は減ることになる。パイロットの解雇も行われるだろう。もちろん子会社に再雇用される可能性はあるが、そうなると間違いなく労働条件は悪くなる、あるいは会社側はトランサビアの就航国のパイロットを採用するかもしれない、そう考えたのだ。

LCCのパイロットは大手に比べれば一般的に年収は低い。日本の場合は特に顕著で、パイロット不足でずいぶん良くなったとはいえ、それで年収は大手の半額程度の1,200万円前後とされ、金額の開きはあまりに大きい。

ストが表面化しない日本での「隠れた歴史」

それでも今回のスト。日本人から見れば、「10日以上もストを続けるなんて大迷惑。お客のことを考えてない。その点、日本の航空会社はやっぱり乗客思い」と感じるかもしれないが、一概にそうとは言えない。

分かりやすいのでJALを例に挙げよう。前述したように、日本の大手航空会社のパイロットは世界的に見ても高額な年収を得ている。それは長い年月にわたる労使間交渉の結果によるところが大きい。

「乗客思い」である日本の航空会社はなかなかストを実施できない。JRなど他の交通機関との競争上、客離れの懸念もある。そこをついて、パイロット組合は会社側に賃上げを要求し、高収入を勝ち取ってきた歴史がある。航空会社にとってVIPが乗る日をわざと狙ってストライキをちらつかせ賃上げを要求した、という話もある。

簡素なLCCターミナル(那覇)。日本でもLCCはすっかり定着した

パイロットの高収入を長く支えた「高額運賃」

では、その高額なパイロットの給料は誰が払ったきたのか? もちろん乗客である。長い間、日本の空は自由化されず、普通運賃で乗るか、さして安くもない事前予約型の運賃か学生向けのスカイメイトくらいしか割引運賃は存在しなかった。2000年に航空法が改正されて以降、ようやく多彩な運賃が誕生し、また、スカイマークなどの格安運賃を設定する新規航空会社も就航した。

しかし、2000年といえば欧米を中心に海外ではすでにLCCが旅行者から高い支持を得ていた。日本では格安とはいっても東京~福岡の片道が最低で1.7万円程度だった頃、ヨーロッパでは税込み5,000円足らずで国内旅行はもちろん海外旅行ができていたのである。

その後、2010年の経営破たんによってJALは"リセット"されたが、日本国内でLCCが飛び始めるのは2012年のこと。それまでの間、諸外国から見れば安くはない運賃を日本の乗客は払わされてきたというわけだ。

さて、今回のストで会社側はトランサビアの路線拡張計画を白紙に戻すと発表した。が、それは同時に現地では少なくない数の旅行者が安い運賃で乗る機会を逸した、ということでもある。しかし、LCCが台頭する現在、今のままではエールフランスKLMが経営に苦心するのは目に見えている。いずれ、同じような問題が起きてくるだろう。

つまるところ、日本の航空会社もフランスのそれも、「どっちもどっち」というところではないだろうか。

筆者プロフィール : 緒方信一郎

航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。