9月22日、ついにドラマ『HERO』(フジテレビ系)第2シリーズが終了した。最終回はラストシーンまで大いに盛り上げてくれたが、そこにはどんなメッセージや"含み"が込められていたのか。城西支部メンバーの名言や、久利生(木村拓哉)と麻木(北川景子)の関係を含めて、検証していく。
久利生の『北風と太陽』大演説
最終回の目玉は、シリーズ初の法廷シーン。クライマックスを含め、実に4回も久利生(木村拓哉)が法廷に立つ姿が描かれた。いつになく真剣な表情の久利生。服装は全身黒でジャケットをまとい、検事バッジもきちんと胸元についている。両腕を組んで被告人を上から見下ろすなど戦闘モードに入っていたのだが、それでもペンをクルクル回すなど、久利生らしい自由奔放さは相変わらず。木村拓哉に限らず、城西支部メンバーの演技はディテールが細かい。役作りはもちろん、現場でのアイディアやアドリブが飛び交っているからだろう。
圧巻だったのは、久利生と元検事・国分(井上順)が対峙したシーン。久利生が質問をはじめてから「検察からは以上です」と締めるまで、実に12分50秒ものやり取りがあった。当初、久利生は国分に強く迫ろうとしていたが、城西支部のメンバーを見渡すと考えを改め、まず裁判員に問いかけはじめる。「裁判員のみなさん、思いませんか? 裁判って、何てこんなくだらないことやってるんだろう。僕はいまだにそう思っちゃうんですよ。本当のことは真犯人が全部分かっちゃってるんですから。本当のことを話してくれたら裁判は必要ないんです」と身振り手振り交えて語りかけた。
久利生は続けざまに「国分さん、お答えください。今あなたが何かおっしゃりたいとするなら、それは誰に対してですか?」と問いかける。持論を振りかざしてねじ伏せるのではなく相手の心に問う。言わばイソップ童話『北風と太陽』のような戦法をとったのだ。
一方、制作サイドの戦法は、無機質で動きが生まれにくい法廷シーンを盛り上げるべく、久利生、国分、検事バッジのアップ連発。あの『半沢直樹』を思わせる"寄り"の映像でシリアスさを醸し出していた。
常に「検事とは何か?」を問いかけてきた同作品らしく、最終回は城西支部のメンバーに加え、元検事、特捜部、検察上層部、裁判員、ジャーナリストなど、さまざまな立場から見た検事のあり方を描いていた。"平等の象徴"である天秤が8度に渡って映されていたことからも、それが分かる。
久利生と麻木の恋がようやくスタート!?
もう1つ忘れてはいけないテーマは、城西支部のチームワーク。全4コンビのお出かけ捜査にはじまり、久利生&麻木以外の3コンビが山梨の国分宅を訪れ、川尻部長(松重豊)は上層部から叱責されながらも部下を守っていた。
なかでも印象的だったのは、久利生と牛丸次席(角野卓造)のシーン。久利生から「記者会見、見ました。すみません、オレのせいで」と詫びられた牛丸次席は、「気にすんな、どうってことない、あんなもん。検察ってのはな、とかく批判されるんだ。特に今はな。でもな、検察や警察がいなければ世の中の人は安心して暮らせない。われわれには悪人を絶対に許さない正義ってやつがある。オレたちは被害者とともに泣く検察でなきゃいけないんだ。それだけは忘れちゃいかん。思い切ってやれ、久利生。これはお前たちの裁判だ。最後の責任はオレが取ってやる」と即答。鍋島元次席(児玉清さん)のダンディさが乗り移っていたようだった。ただ、「謝ることには慣れてんだよオレは」とグチって医者から止められている大福を食べる牛丸らしさも忘れない。
結局、久利生と麻木が鍋島元次席の墓参りをした以外、旧メンバーは登場せず。待望された雨宮(松たか子)も、牛丸次席そっくりの娘(ハリセンボンの近藤春菜?)も現れなかった。
久利生と麻木の関係も、やはりというべきか進展なし。前話で麻木はいつになくストレートな思いを久利生にぶつけていただけに肩すかしだった。しかしその思いは、オープニングから3度チラ見せしていた『司法試験ドットコム』発行の『逐条テキスト商法』『短答式過去問集憲法』という形でつながる。
麻木に検事になった理由や猛勉強したことを伝えた久利生は、そのときに何か感じたのか、彼女を鍋島元次席の墓参りに誘った。麻木の「検事を続けてよかったですか?」に、「もちろん。どんなことがあってもブレずにいられるから」と伝えたのは、「待ってるぞ」という久利生なりのエールだったのかもしれない。鍋島元次席のお墓を見つめて決意を固める麻木……「検事の魂は脈々と引き継がれていく」ということだろう。
麻木が検事を目指すことになったのは、間違いなく久利生の影響。それは検事や正義というよりも、久利生への憧れの方が大きいのかもしれない。いずれにしても、検事を目指しはじめた麻木は、久利生にとっては同志。その意味では、最終回になってようやく雨宮のライバルに名乗りを上げられたのではないか。今後もし2人の恋があるのなら、「ようやくスタートラインに立てた」ような気がする。
メンバーの名言、通販、「あるよ」は?
今回も最後に、"メンバーの名言"と"通販グッズ&「あるよ」"をおさらいしておこう。
名言は最後なのでドーンと5つ。
検察上層部に呼び出された川尻部長は、「しかるべく手順を踏まなかったことは申し訳ないと思っております。われわれは確信を持って起訴を決めたわけでして、刑が確定しているという理由で平成11年の事件だけを外すわけにはいかなかったんです。われわれの目的は連続通り魔事件の犯人を罰すること、それだけです」と謝りつつも果敢に宣言。
伝説の元検事・国分のもとを訪れた末次(小日向文世)は、「検事がごう慢だなんて思っていませんよ、僕は。私だって真実を知りたいと思っています。私も検事バッジはつけていません。司法試験に通った法律家でも何でもない。でもそこで犯罪が起こっているのに、それを見過ごすことはできませんよ。国分さん、もしあのときの起訴が間違っていたとしたら、無実の人が罰せられて真犯人は犯行を重ねて、とうとう27歳の若者が殺されちゃったんですよ。自分は関係ないなんてそんな道理が通りますか。法律がどうとかじゃないでしょ。『人としてどうなんだ』って話なんですよ、これは!」。珍しくキレた表情で見せ場を作った。
マスコミからバッシングを受けた牛丸は、「城西支部の検事、事務官たちは責任を持って起訴を決めたんです。私は彼らの判断を信じます。検察内部に対立があったとしても、犯罪の真実をあぶり出し、犯罪者を正しく罰することができれば、そんなこと大した問題じゃない」と力強く宣言。どんどん理想の上司像になっていく。
元恋人の田村(杉本哲太)に向けて馬場(吉田羊)は、「確かに人生は予定通りにはいかない。でも、これも悪くないと思っているんだけど。孤軍奮闘の城西支部。でも私たちは正しいと信じたことをやってる。自分は検事なんだってこれほど実感できたことないかも。負けちゃうかもしれないけど、私たちは間違ってない」と持ち前の凛々しさを見せた。
最後は久利生の「正義は1つじゃないんです。僕たち検事には悪人を『絶対に許さない』という正義があります。弁護人には『依頼主を守る』という正義があります。裁判員のみなさんには法と良心に基づいて公平な判決を下すという正義があります。みんなそれぞれの正義を信じて、それぞれの立場から被告人に光を当てることによって真実を浮かび上がらせる。それが裁判なんです。そこにはすごい大事なルールがあって、犯人はウソをつくかもしれませんけど、それ以外のこの法廷にいる人全て『絶対に正直でなければならない』ということ。正直でまっすぐな光を当てなければ真実は見えてこないんです。裁判が成り立たなくなっちゃうんです」。法廷にいる全ての人に問いかけた熱い言葉だった。
3週ぶりとなった通販グッズは、「ムービングシェイパー」。さらにエンディングでは、通販番組の出演者が登場。「今日の商品はこれだ。イエーイ!」の"ビッグスマイル"を見せるサービスぶりだった。
一方、マスター(田中要次)の「あるよ」は、麻木から「マスターはまだ夢ってあるの?」と聞かれて「あるよ、あるよ」の2連発。また、麻木から「警察につかまったことがあるんですか?」と聞かれた久利生が「あるよ」のモノマネを披露していた。
前シリーズと同じ"並木道に全員集合"カットなど、最終回はフィナーレにふさわしい要素がてんこもりだったが、ファンが気になるのは「続編や映画版はいつなのか?」。旧メンバーや恋愛などにふれず、あっさり終わってしまったのは、今後を見据えた"余力残し"であり、ファン、キャスト、スタッフ、いずれも望んでいるだけに実現は間違いないだろう。それがいつ、どんな形になるのか? フジテレビのマネジメントとセンスが再び問われそうだ。
木村隆志 コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。