9月2日、世界トップクラスの独立系研究機関である英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)主催「オリンピック・パラリンピック開催により残すべき未来への遺産は何か?」と題したセミナーが開催されました。

大和総研との共催となったこのセミナーでは、大和総研理事長で東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会事務総長を務める武藤敏郎氏をはじめ、下村博文氏(文部科学大臣、東京オリンピック・パラリンピック担当大臣)、舛添要一氏(東京都知事)、室伏広治氏(アテネオリンピック金メダリスト、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事)、そして、2020年『東京オリンピック・パラリンピック』招致を成功させた最終プレゼンテーションのコーチ、ニック・バレー氏(Seven46 創業者兼CEO)ら、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて中心人物となる方々が登壇し、今後、日本が目指すべき方向性についての見解を述べました。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が、一過性のスポーツイベントとして終わるのではなく、日本復活の本格化に向け、世界と協働し、かつ貢献することで、それをいかに日本の国際競争力の強化に繋げていくべきか…。

今回は、セミナーで行なわれた「東京オリンピック・パラリンピックが日本経済・社会に残すべき未来への遺産」をテーマにしたパネルディスカッションについて、その内容をレポートしたいと思います。

  • モデレーター:ジェイソン・ジェームズ氏(大和日英基金事務総長)

  • 小宮山 宏氏(三菱総合研究所理事長、元東京大学総長)

  • 左三川 郁子氏(日本経済研究センター主任研究員)

  • 竹内 浩氏(共同通信社編集委員、IOC プレス委員)

  • 有馬 純氏 (JETRO ロンドン事務所長)

  • 木全 啓氏 (Japan at UK マネージングディレクター)

「東京でボランティア主義は根付くのか?」

まず、東京でのオリンピック・パラリンピック開催についてモデレーターを務めたジェイソン氏は、

『東京はハイテク化しており、安全面でも問題がなく、開催国としてふさわしい条件の揃った都市である。ただ、このイベントの開催が、単に一過性のものとして終わってはならない。その後もレガシー(遺産)として引き継がれていくべきだ。

例えば、2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックの際には、開催決定直後から、英国全土でボランティアの募集が始まり、各参加者が自らの技能や知識に応じて取り組めるような柔軟な仕組みが作られた。その結果、ロンドンだけでなく英国全体のボランティアを通じて、観光、ビジネス、投資に至るまで、多くの情報が英国へと集まるようになり、世界に向けた戦略的な情報発信も可能となった。

東京でもこのような体制が整うのか、ボランティア主義が根付くのか、他の先進国同様にWiFiがどこでも使用できるのかなど、課題は多いだろう。日本と世界をもっと近いものにしていくべきであり、東京が世界と近いのだということをアナウンスすることにもなるだろう』

と、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて日本が抱えている課題を提起しました。

これについて小宮山氏は、

『1964年に開催された東京オリンピックの遺産はインフラだった。新幹線や高速道路などインフラが一気に整備された。2020年の開催では、世界がプラチナ社会を目指すなか21世紀に残せるようなレガシーが必要だ。21世紀は世界のほとんどの人たちが、衣食住、自動車、情報、長寿を手に入れる。世界中のほとんどが物質的に飽和状態となるため、生活の質が目標となるのがプラチナ社会、つまり高い生活の質を求める社会だ。

20世紀は産業化の時代であったため、量的な満足を得ることが求められたが、21世紀は質の向上が求められる。産業革命の目的は標準化だった。これからは「標準化から多様化へ」「供給サイドから需要サイドへ」「大企業からベンチャー企業へ」という流れと変化が起こるだろう』

と、量から質へと変化する時代に合ったレガシーの必要性を示唆しました。

「2020年に向け、東京の国際金融センターとしての機能を強化させるべき」

また、左三川氏は東京オリンピック開催を機に、日本経済が持続的に成長するために「金融」が果たす役割は大きいとの観点から、

『2020年に向けて、海外からの注目が集まっている今こそ、東京の国際金融センターとしての機能を強化させるべきだ。「東京金融シティ構想」を実現させ、法人減税など国際的なビジネス環境を整備すると共に、豊富な個人金融資産を活性化させ、世界の成長センターでもあるアジアとの連携を強化し、日本の強みを生かした独自の国際金融センターを目指すことが重要だろう。公共サービスなども英語で対応できるような体制が必要だ』

と、東京の機能強化の必然性を述べました。

また、竹内氏は、

『オリンピックは国家プロジェクトではなく、世界平和に資するべきイベントだ。政治的な意図に活用してはならない。有機的かつグローバルなレガシーを残すことが大切だろう。世界に向けて、その国の歴史的な文化やイメージを活用すると、国の誇りが生まれ、主催国は醸成する。日本がどういう国なのかを世界に伝える機会とも言える』

と、世界に残すべきレガシーの必要性について述べました。

そして有馬氏は、グローバル都市・東京を国際比較する視点から、

『海外の投資家には、ロンドンは企業に優しい都市であるが、東京はそうではない、日本は参入しにくい国だというイメージが根付いている。ただ、成長戦略における国家戦略特区などの政策に対しては、海外の投資家も歓迎している。

アベノミクスは海外のマスコミでも取り上げられ、第1の矢と第2の矢は上手くいったとの見方もあるが、問題は第3の矢だ。成長戦略が重要であり、実行することが大事だ。東京にとっては勝機であり、ビジネスや金融は改良する余地がある。グローバル人材の不足も課題となってくるだろう』

と、国際化に向けた課題を提示しました。

同じく国際化という点において木全氏は、

『外国人の観点から見ることが大切だ。ロンドンでの開催後、英国では観光業が伸び、2013年には3300万人が英国を訪問した。訪日する外国人を、おもてなしの心で迎えることで、海外の人たちには日本製品、日本への関心を持ってもらえるだろう。皆がおもてなしクリエイターになる姿勢が大切だ』

と、日本の素晴らしさを世界に向けて発信することの重要性を訴えました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。