TBSで6月まで放送された『MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜~』に続き、WOWOWの『MOZU Season2~幻の翼~』も7月で終了。両局のコラボが話題を呼んだ全15話が幕を閉じた。まだまだ余韻冷めやらぬ中、9月6日(土曜 15:30~)から早くも『Season2』の全5話が一挙放送されるという。
「あの強烈な世界観をぶっ通しで見続けたらどうなるのだろう?」、そんな興味を抱かせられるが、まだ見ていない人も、一度見た人も、『Season1』すら見たことのない人も、その醍醐味を味わえるように、改めて見どころを紹介していく。
『MOZU』は刑事ドラマなのか?
『Season1』の放送時は、裏番組に小栗旬主演の『BORDER』(テレビ朝日系)があり、各メディアは「木曜21時に刑事ドラマ対決!」と比較し、しきりにあおっていたが、ドラマが進むごとにそんな声は収まっていった。その理由は、「どちらもよくある刑事ドラマとは一線を画す挑戦的な作品だった」から。そして、甲乙つけがたいクオリティながら、「どちらがより"刑事ドラマ"という枠を超えていたか?」という観点では『MOZU』に分がある。「これは刑事ドラマか?」どころか、「そもそも、これはドラマなのか?」と感じてしまうものがあった。
まず、映画『海猿』シリーズの羽住英一郎が手がける世界観は異質そのもの。暗い映画館の中で見ているような陰影に富んだ映像は、これまで見たことのないものであり、そこで繰り広げられる演技やアクションは、全てが強く、全てが重かった。テロリストによる大爆破、車の激突やスピン、がれきだらけの街を見ただけで、1シーン、1カットにかけるこだわりがビンビン伝わってくる。「どこで、どれだけ、どんなロケをやればこんなドラマが撮れるのか?」、そう思わせる映像なのだ。
そんな羽住監督の気合に乗せられたキャストの演技も迫力満点。なかでも、倉木(西島秀俊)、新谷(池松壮亮)、中神(吉田鋼太郎)の格闘シーンは衝撃的だった。ヒーローであるはずの倉木が痛めつけられるシーンが多いのも驚いたが、それ以上に驚異的な身体能力と狂気を感じる新谷&中神のバトルは、放送コードギリギリで理屈抜きに怖い。希少な"悪vs悪"の戦いを「凄惨すぎて見ていられないはずなのに、目が離せない」という人が多かったのではないか。
そして、「熱演が突き抜けると怪演になる」現象は、『Season2』でも随所で見られた。新谷の化け物ぶりは相変わらずであり、「ロシア人テロリストと格闘するために増量した」という西島のパワーアップしたアクションシーンも必見だ。
「一挙放送で見たい」複雑な物語
「一目見れば分かる」アクションの凄さとは打って変わって、ストーリーは極めて難解。羽住監督自ら、「"ながら見"していたら、アッという間に置いてかれてしまう」と話すほどのミステリーと人間ドラマが詰めこまれている。
謎が明かされたと思えば、別の謎が連鎖していたり、登場人物の抱える闇が明らかになったり、とにかく分からないことだらけ。加えて、警察vsテロリスト、警察内部の争い、個人での連携や裏切りが飛び交っているため、ドラマ評論を生業にしている私でも、整理しながら見なければついていけないほど複雑だった。
ただ、物語が複雑ということは、「一挙放送で見た方が流れをつかみやすい」「続けて見ることで気づけることがある」というもの。『Season2』では、倉木の妻はなぜ死んだのか? 明星(真木よう子)の父はなぜ失踪したのか? さらに、謎のジャーナリスト名波(蒼井優)の秘密や、死んだはずの新谷と似た手口での連続殺人、倉木が指名手配された理由などミステリー要素は多い。時間が許すのなら、ぜひ続けて見て、伏線が回収されていく様子や、点と点がつながっていく感覚を味わって欲しい。あなたがもし倉木のように、「オレはただ真実を知りたいだけだ」と思うのなら、全5話一気に見ることをおすすめしたい。
「セーフティネットなし」の覚悟
ここまで書いてきた映像へのこだわりや、物語の複雑さは、本来「暗い場所で集中して見る」映画だからこそ理解が得られ、成立するもの。これをテレビの連続ドラマで放送しようとしても、「一度見逃したらおしまい」「家事やネットをしながら見られない」「家族で見づらい」ため、他のドラマと比べると圧倒的に不利であり、普通はとてもじゃないけどチャレンジできないのだ。
しかし『MOZU』は、そうした懸念を一切無視。「いいものを作るから真剣に見てくれ」「だから1話見逃した人用のセーフティネットはなし」という強気のスタンスを貫いた。通常ドラマの作り手は、「視聴者が徐々に減る」リスクを避けたがるものだが、羽住監督以下のスタッフは、そんなことより目の前の撮影に集中。早朝から深夜まで、8か月もの長い撮影期間を走り抜けた。「周りからは綱渡りに見えるかもしれないが、オレたちはひたすら前へ進むだけ」、そんな覚悟が作品の隅々から伝わってきたのだ。
考えてみると、地上波の『Season1』は全10話。一方、WOWOWの『Season2』は全5話と、ここでも「安易にバランスを取ろうとしない」姿勢がうかがえた。業界のしがらみや暗黙の了解、コンプライアンス対策などで、ドラマ制作に自主規制が目立つようになって久しいが、『MOZU』からそんな遠慮は感じられない。「これはドラマであり、フィクションだから」というスタンスで迫力ある映像を作り上げたのだろう。
『Season1』だけを見た人は、そこで残された謎と新たな展開を。『Season2』を一度見た人は、伏線や細部のこだわりなど、新たな発見を。どちらも見たことがない人は、その衝撃的な映像の洗礼を。それぞれの立ち位置から、楽しんでみてはいかがだろうか。
木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。