カラオケでダウンタウンから悪口雑言

著書の中で特に面白いエピソードがあった。"ガースー"たちは、打ち上げのあとによくカラオケに行くようだが、決して普通には歌わないらしい。そもそも行くのは普通のカラオケボックスではなく、わざわざ一般客もいるステージつきの店。そこでダウンタウンの2人も歌うため、相当盛り上がるという。

「浜ちゃんが一曲目を歌ってワーッとなるんですが、そのあと僕らスタッフは『誰やねんオマエ!』『出てけ!』とか悪口雑言のツッコミを浴びるためだけに歌うわけです。だから、それをより強く言われるための曲選びはハードルが高いし、収録も遊びもそれくらい真剣に笑いを求めているんですよ。最後は"ヘイポー"が必ず大橋純子さんの『シルエットロマンス』を歌うんですが、1番はみんな手を左右に振って乗っているんですけど、2番になったら『はい、おつかれさんでした』と言って本当に帰ってしまいます。お客さんたちは、『これどういう状況?』って顔をしてるけど、"ヘイポー"は何事もないかのごとく歌い上げて『どうもありがとうございました』と言って帰ります。『何のためにやってるんだよ』って言われたら、『それがパッケージだから』としか言えませんが、そういう風にじゃれ合ったら面白いかなって」。

他には髪の毛の薄いスタッフをイジるために、「ハゲ!ハゲ!ハゲ!」コーラスで盛り上がるネタもあるらしい。ちなみに、「松ちゃん(松本人志)は、嫌がるから勝手に『明日があるさ』を入れるときがあります。『エエ~、もう~!』って言いながら渋々歌うんですよ」とのこと。もう『ガキ使』のイメージそのまんまだ。

ともあれ、"ガースー"が言いたかったのは、「サラリーマンの人も同じ」ということ。「たとえば、上司や先輩たちとカラオケへ行ったとき、『口火切って誰が歌うのかな?』と言うときの『な』でイントロがかかるように設定しておいて歌いはじめたら、『コイツは空気読めるわ』って株が上がるし、場も盛り上がりますよね。でも、『口火を切って誰が歌うのかな』と言って、そこからみんなで本を広げてしばらくして『誰も歌わないなら自分が歌います』と言う人がいるけど、『どっちみちお前が歌うんなら最初からスタンバイしとけよ!』という話。『歌いに行ってるんだから徹底的にやれ』ってことです。『オレもオレも!』となるか、『この状況でオレは歌うの?』となるかで盛り上がり方が大違いですからね。テレビ業界だけでなく、どんな業界でも最初のノリは大事だと思いますよ」。仕事も遊びの1つだから一生懸命やるのが"ガースー"流なのだ。

日テレ入社試験は学歴より楽しさ

意外だったのは、実際に会った"ガースー"がマジメな人だったこと。「昔の人たちは『しょせんテレビのやることだから』と見下していたわけですし、『バラエティ番組なんかをマジメに見るなよ』と思いますね。こちらも『生活の役に立とう』なんて思っていないですから」と軽口を飛ばす一方で、礼儀や行儀を重視する人物像がうかがえた。

「番組に引っ張り出されているときとは180度違うんじゃないですかね。芸能界の偉い人たちのコンペに参加すると、お昼ご飯のときに『マジメな人なんだね』と言われますから。結局、社会に出たら人に好かれなきゃいけないじゃないですか。人様に好かれることが最大の武器だし、どんなに仕事ができても、好かれなかったら仕事って回ってきませんから」。日本テレビ時代、後輩たちを「仲間」として大事にしつつ、礼儀や行儀を教えてきたという。

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さらに、「昔の会社をヨイショするつもりはないけど、日本テレビの入社試験ってよくできているんですよ。『こいつが部下だったら楽しいだろうな』『一緒に仕事するときにいたらうれしいな』って人を選ぶことになっていて、出身大学が全部黒で塗りつぶされています」と10年以上入社試験に関わってきたことを明かしてくれた。タレントのみならず、スタッフからも愛されるキャラは、そのルーツによるところも大きいのだろう。

第2回のテーマは、ガースーが手がける「ずっとやりたかった」「今までに見たことのない」新番組。『太田と上田』『発掘!ブレイクネタ 芸人!芸人!!芸人!!!』の裏話を尋ねていく。「地上波では見せない太田光と上田晋也の素顔はどんなものなのか?」、乞うご期待。


■菅賢治(すが けんじ)
1954年11月27日生まれ。長崎県佐世保市出身。日本大学藝術学部卒業後、日本テレビエンタープライズ(現・日テレアックスオン)のアシスタントディレクターとなる。1988年に日本テレビに入社。プロデューサー・ディレクターとして、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』『恋のから騒ぎ』『おしゃれカンケイ』『躍る! さんま御殿!!』『笑ってはいけない』シリーズなど数々の大ヒット番組を手がける。2007年以降は制作局次長、制作局総務兼バラエティーセンター長、制作局長代理兼チーフプロデューサーなどを歴任。2014年3月に日本テレビを退職。現在は「BRAIN BROTHERS GAASU ENTERTAINMENT」のプロデューサーとして活躍中。
聞き手・文=木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。