JR北海道のローカル線、江差線木古内~江差間が約80年の歴史に幕を閉じ、5月11日の営業運転をもって廃止されてから、約2カ月が経過した。列車が現役で走っていた頃がまだまだ記憶に新しい同区間だが、廃線後の駅や沿線はどうなっているのだろうか? 廃止後の沿線を歩きつつ、「江差線のその後」をたどることにした。

旧江差駅。「ありがとう江差線」のモニュメントが残る

江差線の終着駅だった旧江差駅 

木古内駅から旧江差駅まで、自動車なら1時間程度。江差線が廃線となったいま、交通手段は自家用車か路線バスだ。

旧江差駅は町の中心部から離れた高台にあるため、廃線が決まってからは江差駅で下車して写真を撮り、そのまま木古内駅へと折り返す乗客が多かったという。駅近辺にコンビニなどがなかったことから、廃線を惜しんで訪れる鉄道ファンらのため、町の有志による土産店が開かれていた。しかし廃線となり、それらの店舗はシャッターが下りたまま。

駅前には、「ありがとう江差線」のモニュメントが作られていたが、看板も外された旧駅舎はやはり寂しい雰囲気。線路の周囲には、わずか1~2カ月の間に雑草が生い茂っている様子だった。ただ、江差の町全体が寂れたというわけではなく、和風建築が立ち並ぶ「いにしえ街道」には、研修旅行の学生の姿が多く見られた。

江差町郷土資料館に江差線展示コーナーが

続いて、白い洋館風の建物「旧桧山爾志郡(きゅうひやまにしぐん)役所」にやって来た。ここは、北海道庁の出先機関である郡役所と警察署の業務を行っていた建物。明治20年建造の建物を改修し、現在は江差町の郷土資料館になっている。

「江差駅」の看板は郷土資料館に展示されていた

なぜここに来たかといえば、江差線木古内~江差間が廃止された後、2階展示室の一角に江差線展示コーナーが設けられたと聞いたから。1階の受付後方には、大きな「江差駅」の看板が。間近に見ると迫力の大きさだ。2階展示コーナーに入ると、プレートやスタンプなど、江差線の歴史とともに歩んできた貴重な品々が、その務めを終えてゆっくりと休んでいた。

思いのほかこじんまりとした雰囲気に感じたが、今後ここにさまざまなアイテムが運ばれる予定だという。

古い貨物列車用線路が残っていた旧桂岡駅

江差駅から木古内方面へ3駅の桂岡駅には、古い貨物列車用線路が残っていたそう。周囲は民家で、危うく駅を見過ごしてしまいそうだ。

旧桂岡駅。草むらの中に貨物列車用線路が見える

旧駅舎はたった1~2カ月の間に蜘蛛の巣が張り、周囲は雑草が伸びていた。扉や窓には板が打ち付けられ、中の様子をうかがうことはできない。草むらの中をよく見ると、木古内~江差間が廃止されるよりずっと前に使われなくなったというかつての貨物列車用線路が、そのままに残されていた。

絶好の撮影ポイントだった「天ノ川駅」「天の川橋りょう」

天の川橋りょう。いまにも列車が走ってきそうな雰囲気

旧桂岡駅からさらに木古内方面へ。山の中を行くと、線路沿いに「天ノ川駅」が姿を現す。これは実際にあった駅ではなく、地元住民と札幌の鉄道ファンの団体が協力して作り上げた「江差線天の川モニュメント」の通称だ。廃止前は一般公開日以外、立入禁止だったが、現在はその制限が解除されているという。

そこからさらに木古内方面へ進むと、山々の合間を走る天の川と、そこに架かる橋が見えてくる。全国の鉄道ファンに愛された絶好の撮影ポイント「天の川橋りょう」だ。この眺めを見ていると、いまでも鉄橋を渡る列車の音が聞こえてくるような気がした。