『尼のような子』著者の少年アヤさん(左)と雨宮まみさん

まみ「東京に来たときは(ファッションが)本当にこわかったです」

アヤ「まだプチプラとかもないですよね」

まみ「ないない。ユニクロは一応あったけど、今みたいに使える服がある店ではなかったし、まずマルイに入るのにすごい勇気が要った。雑誌でしか見たことないから『これがマルイだ!』『これがラフォーレ原宿だ!』っていちいち全部が都会の象徴に見えて。ルミネとか、そんなものがあるってことすら知らなかったからね。

当時は何が流行ってたんだろう……まだラフォーレに威力があったかな。ラフォーレはちょっと変わった服が好きな子にとっては聖地みたいな場所で、あとはやっぱり下北沢。下北沢の古着屋さんに入って買わずに出てくるってことができなかった」

アヤ「店員もそういう空気出してくるんだよね」

まみ「その威圧感に田舎者は負けるんですよ」

アヤ「俺のとこで買うの? 買わないの? みたいな」

まみ「買わないのに入ってきたんだー、え、買えないの? そうだよね、キミに似合う服なんてうちにはないよね、みたいな被害妄想トークが頭の中で聞こえてくる」

アヤ「想像しただけで泣きそう……」

まみ「こっちも緊張して挙動不審だから、挙動不審なうえに買わないってどう思われるのか不安でしょうがないんですよ。おしゃれな友達は堂々としてるんですよ、これ試着していいですか、みたいな。私は言えない……。試着して買わないっていうのを言えるようになるまで、すごい長い年数がかかりましたね。

あと、私は伊勢丹に足を踏み入れるまでにすごく時間がかかったんだけど、アヤちゃんみたいに、自分が何者かであるようなフリをして、そういう気持ちで入れば、もっと早く入れたのかなって思った」

アヤ「コスプレですよね」

まみ「編集者なんですよ~って言えば」

アヤ「タレントぶったりして」

まみ「そうやって、いけてる人ぶればいいってことですかね。

でも、こういうの意外とみんなありますよね。傍から見てて大丈夫でしょっていう人が、『どうしてもこれができない』っていうの。つけまつげをつけられないとか、スカートをはけないとか、ヒールをはいちゃいけないと思ってるとか。

試着の時点でもう、『こんなやつがこんなもの着て』って思われたらどうしよう、とかね。なんか感じるんですよね。あれってなんなんだろうなって思うんですけど。人目をまったく気にせずに生きることってできないじゃないですか。どっかの時点で自分に対する評価って必ず感じてしまう。

私は、学校っていうのがやっぱり強烈だったなと思います。学校っていけてるグループにしか許されていない行動ってあるでしょ。ロッカーの上に座るとか、流行ってるディズニーキャラをつけるとか。私の学生時代は制服のスカートを短くするのが流行り始めた頃だったんだけど、やっぱり短くするのはいけてる女の子だから、私はだっさい丈でいたわけですよ。自分にはそれは許されていないって、やっぱり思ってた」

アヤ「私も中学生のころ、みんなに合わせてネクタイをすこしだけ緩めてみたら、すぐさま笑われて、自分のいるべき場所みたいなものをすごく意識させられたな」

まみ「最初の一歩を踏み出す時が一番言われるからね。それまでファンデーション塗ってなかったのに塗ったとか。ほんとは自分でも不安なわけですよ。『これって厚塗りになってないかな、どうしたらムラなく塗れるんだろう』とか思ってるんだけど、それが聞ける人間だったらそんなことで悩まない。『どう、これ大丈夫?』って言えたらよかったんだけど、それが言えるようになるまで10年ぐらいかかった気がする」

「自撮りの国の自分」と「素の自分」

アヤ「もし無人島に行くことになったら、ぜったいiPhone5を持っていこうって最近思う」

まみ「無人島で撮るの? 自分を」

アヤ「しかも、画質のきれいなiPhone5で」

まみ「見たいんだ? どうしても」

アヤ「見たい」

まみ「自分で、いい角度の自分を見てても、人に変だって言われたら変な気がして揺れない? 『私は私』って言えなくないですか」

アヤ「やっぱり自分の容姿って、鏡とか、道具を使わないと見れないってことが大きいんじゃないかな。どうしても人に評価を委ねるしかない部分がある。だから笑われていても、褒められていても、自分には見えないから、どっちにしろ不安」

まみ「テレビとか出れば、普段見ない角度の自分が見えてしまうんだろうけど」

アヤ「そうそう、こないだテレビの収録に行ったときに何してたかっていうと、モニターに映る自分をずっと見てたんです」

まみ「『かわいい』って思ってたの?」

アヤ「美醜じゃない。『痩せたな』って。すごい痩せたんですよ。1カ月で12キロくらい絞ったんです。玄米クッキーとトマ美以外食べないっていう、暴力的な方法で。けどぜったいリバウンドするから、今のうちに細い自分を見ておきたいと。たとえSMAPの前でも」

まみ「それは、自分を好きになったってことなのかな」

アヤ「それが難しいところで、やっぱり自撮りの国の自分を好きになればなるほど、素の自分を嫌いになっていくんですよね」

まみ「ちゃんと撮れてない時の自分?」

アヤ「不意に鏡見て、見慣れてない角度から見たりすると」

まみ「見たくない角度ってありますよね。自分で意識してない顔を意識してない角度から見ると、『うわあ』ってなります」

アヤ「どういう『うわあ』ですか」

まみ「こんな顔してたんだって。鏡を化粧するときしか見てないと、正面のキメ顔しか見てないんですよ。無防備な横顔とか、見たことないから免疫がないんですよね。

自分の外見が気に入るようになってから、内面的な変化ってあった?」

アヤ「自分いいじゃん! っていう自分と自分ブスじゃんっていう自分がどんどん乖離していくんですよ。スッパリと自分の容姿が嫌いだった頃は、まだ楽だった……」