日本の鉄道ではあまり見られなくなってしまった食堂車だが、海外ではいまも多くの国々で列車に連結されている。とくにヨーロッパでは、食堂車や売店を併設したビュッフェ車両が各国で営業されており、陸路の移動になくてはならない存在にもなっている。今回はそのヨーロッパの食堂車の中でも珍しい存在である、スイス国鉄とスターバックスが提携した「スタバ食堂車」を利用してみた。

オール2階建ての客車に組み込まれた「スタバ食堂車」。車体側面に巨大ロゴも

インテリアもメニューも、街中のスタバそのもの!

スイス国鉄(スイス連邦鉄道)はスイス国内全土に路線を張り巡らせ、隣国のフランスやオーストリアから国際列車も乗り入れる。国内では日本の特急列車に相当する「ICN」「IC」、急行列車に相当する「IR」など、さまざまな種別の列車が走っている。特急列車の多くに食堂車が連結され、車窓を見ながら食事を楽しむこともできる。

そのスイス国鉄が、世界的なコーヒーチェーンであるスターバックスと提携し、世界初となる「スタバ食堂車」の試験営業を実施している。営業期間は2013年11月21日から9カ月間の予定で、おもにジュネーブからチューリッヒ経由でザンクト・ガレンを結ぶ特急列車に使用される「IC2000」に組み込まれた。試験営業中の利用実績などをもとに、その後の営業継続や他列車への拡大を検討するとのことだ。

スイス最大の都市、チューリッヒ。市内では多数のトラムが走っている

頭端式ホームのチューリッヒ中央駅

スイス国鉄が誇る振り子式のICN車両「RABDe500」

国際列車も頻繁に来る。これはイタリアからの列車

「スタバ食堂車」を組み込んだIC2000はオール2階建ての車両。食堂車は内外装に手が加えられ、車体側面にスターバックスの大きなロゴが掲出された。車内もスターバックスのイメージに合わせたインテリアに改造されている。食堂車は片側2ドアで、一方は乗客用、もう一方は厨房への材料を出し入れする業務用のドアとなっている。

チューリッヒ中央駅は頭端式ホームのため、ここを終点・起点としない列車はすべて方向転換して次の駅へ出発していく。そのため、この駅では特急列車であっても5~10分程度の停車時間が設けられている。食堂車を連結した列車も、ここで食材の追加積込みを行うことが多いようだ。「スタバ食堂車」は編成内の1等車と2等車の間に連結されており、厨房とは反対側の車端に2等座席が数席設置されている。

「IC2000」はオール2階建ての客車

「スタバ食堂車」手前のドアは厨房専用

「スタバ食堂車」の1階部分。自動ドアにもロゴが入っている

1階の奥、車両中央部あたりにレジがある。サンドイッチなども冷蔵ショーケースに並べられている

レジから入口側を見る。1階は窓を向いたカウンター席が設けられている

スタッフはスタバのエプロンを着用しており、車内は街中のスタバそのものの雰囲気だ

食堂車の車内は、2階に4人掛け・2人掛けのテーブル席があり、1階には窓を向いたカウンター席が設けられている。2等車に乗車したが空席がないときなど、早めにこの「スタバ食堂車」に移動すれば、落ち着いてコーヒーを飲みつつ移動できそうだ。もっとも、同じことを考える乗客は多いようで、いつ乗車しても2階のテーブル席は満席だった。

「スタバ食堂車」で提供されるメニューは、スイス国内の店舗で提供されるものとほぼ同じだという。スイスフランまたはユーロで支払い可能だが、ユーロはレートが悪いそうで、スイスフランの利用を勧められた。クレジットカードは使えず、現金のみとなる。

この「スタバ食堂車」を連結した列車はスイス国鉄のサイトでも紹介されており、時刻も調べられる。取材当時は1編成のみだったが、5月から第2編成が投入され、1日4往復の運転となっているようだ。ザンクト・ガレンからチューリッヒまではすべての列車が走るが、その先はジュネーブまで行く列車と行かない列車があるので、スイスを訪問するなら前もってサイトを確認しておくのが良いだろう。

車内には食堂車のパンフレットも置かれている

いつものスタバを味わいながら車窓を楽しめる

コーヒー片手にゆっくり車窓を眺めつつ移動できるのは、どこの国に行ってもいい気分になれるものである。この「スタバ食堂車」、ぜひ夏以降も定期運転を継続してもらいたい。そして他の特急列車にもサービス拡大してほしいものだ。