あの『半沢直樹』と同じ原作者、監督、脚本家、プロデューサー、音楽家など盤石の布陣で臨み、「春ドラマの大本命」と目されていた『ルーズヴェルト・ゲーム』が思いのほか苦しんでいる。

テレビ識者の評価こそ高いものの、視聴率は初回14.1%、2回11.8%、3回13.7%と10%代前半で推移。初回19.4%、2回21.8%、3回22.9%と右肩上がりだった『半沢直樹』との差は歴然であり、同じ原作者の"姉妹ドラマ"『花咲舞が黙ってない』(同平均16.0%)との比較でも大きく遅れを取っている。連ドラ評論家・木村隆志が、その理由と同ドラマの見どころを解説していく。

『半沢直樹』主演の堺雅人(左)と『ルーズヴェルト・ゲーム』主演の唐沢寿明

スタッフが同じでも中身は別物

『半沢直樹』との最も大きな違いは、「会社の再生」と「社会人野球部の奮闘」が同時進行で展開されていること。さらに『ルーズヴェルト・ゲーム』は、"ヒーローの悪物退治"ではなく、"ライバル同士の攻防戦"であり、この点で時代劇のような勧善懲悪を貫いた『半沢直樹』とは決定的に異なる。

ただ、「2つの物語を同時進行に楽しめる」という醍醐味はあるものの、(ほぼ)1時間という制約があるだけに、ライバル同士の対決シーンは半分ずつになる。この点を「『半沢直樹』よりも薄味」と感じるか、「2つ楽しめて贅沢」と感じるかは好みの問題。1つの物語に特化して楽しむ『半沢直樹』、2つの物語を楽しみ最後に両方がシンクロする『ルーズヴェルト・ゲーム』、どちらもその面白さに疑いはない。

また、「同じスタッフと同じキャストを起用している、あざといドラマ」と誤解している視聴者が多いかもしれないが、ドラマの出発点からしてこれだけ違う。確かに悪役の描き方は似ているが、少なくとも「安易な発想で置きにいったドラマ」ではなく、「新たな試みにチャレンジしている意欲作」と言える。

誰に感情移入して見ればいいのか

しかし、これまではその意欲が裏目に出てしまっている。先述したように『半沢直樹』は、勧善懲悪の一点集中で半沢に感情移入して見ればいいが、その点『ルーズヴェルト・ゲーム』は難しい。

主役の社長は「100人リストラだ」と言うほど、ふだんの物言いが高圧的。そのためピンチになっても、到底「頑張れ!」とは思えない。専務、総務部長、製造部長、営業部長なども全て会社の幹部だ。さらに野球部メンバーも、会社が危機的状況にある中、野球ばかりに熱すぎる。ライバル会社もビジネスをしているだけで、生粋の悪者とまでは思えず……。つまり、「共感できる人を見つけにくい」「自分を投影させにくい」ドラマなのだ。

制作サイドとしては、「2つの逆転劇を同時に楽しめる」という高品質なエンタメを提供しているのだろうが、その質の高さが逆に難しさを呼んでいる。昨今の視聴者は、何よりもわかりやすさを求め、「倍返し」のようなセリフや演技のインパクトがなければ、すぐにチャンネルを変えてしまうせっかちな人が多い。それでいて"ながら視聴"の人も多いため、『ルーズヴェルト・ゲーム』のように目まぐるしくシーンが切り替わるドラマは、万人ウケしないのだろう。「面白い小説ほどドラマ化やヒットが難しい」ことを改めて感じさせられる。

キャスティングの意外性と希望の光

視聴率が上がらないもう1つの理由は、キャスティング。唐沢寿明の社長役、江口洋介の専務役は、いわば置きにいった配役で、温厚そうな堺雅人が全身全霊でブチ切れる『半沢直樹』ほどの目新しさと振り幅はない。さらにそれは、悪役での連続出演となる香川照之、宮川一朗太もしかりで、視聴者の嫌う予定調和のにおいが漂う。また、『半沢直樹』で悪役だった石丸幹二や手塚とおるは善役での出演となるが、意外性というより「同じ役者であざとく狙っている」と嫌悪感を抱かせているのではないか。

そう感じるくらい昨今の視聴者は、イメージ通りの役柄を嫌う。「どんな感じなのかな?」という興味、「できないだろう」という予想、「意外に合っている」という評価ができるキャスティングを好む。事実、『ルーズヴェルト・ゲーム』で最も話題をさらっているのは、元プロ野球投手・工藤公康氏の長男で沖原役の工藤阿須加。ほぼ無名ながら初々しい姿での熱演がハマり、野球パートでの実質主演という大抜擢が奏功した形だ。その意味で今後のカギを握るのは、もう1人の抜擢であるビジネスパートの敵・イツワ電器社長役の立川談春か。初の連ドラ出演の落語家ながら、第3話では重厚な芝居を見せていた。

まだ序盤の3イニングが終わっただけ

その他、「思っていたほどの逆転劇ではなかった」「野球シーンが多いから興味のない人は見ない」「『半沢直樹』の上戸彩みたいな家庭のシーンがないから女性が見ない」などの声も聞こえるが、まだ試合(ドラマ)は序盤を終わったところ。野球で言えば3イニングに過ぎず、6イニングも残っている。しかも野球の逆転劇が最も印象に残るのは7・8回であり、池井戸潤の小説で言えば残り数十ページにカタルシスが待っている。そのころには、唐沢寿明にも野球部にも現在の数倍は感情移入でき、歓喜の瞬間が待っているのではないか。

おそらく、『半沢直樹』の物議を醸したようなアンハッピーエンドもないだろう。だからこそドラマ評論家としては、期待感を持って、安心して、『ルーズヴェルト・ゲーム』を楽しんで欲しいと思う。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。